岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.180 国土交通省の“やってる感”

文・岡崎五朗

世間で大きな話題になった認証不正問題。

 新聞やテレビは「トヨタなど5社で相次いで不正」「歩行者保護試験でも虚偽か」といったセンセーショナルな見出しを付け、海外メディアも「日本製品の製造品質と信頼性に対する消費者の認識が揺らぎ始めている」と報じた。本当にそうなのだろうか。そもそも今回の件はダイハツの不正を受け国土交通省が各メーカーに過去10年遡った調査を指示したのがきっかけ。つまり不正が相次いで起こったのではなく、国交省の期日にあわせ相次いで発表されただけのことであり、冒頭の見出しは印象操作にすぎない。次にトヨタを例に内容をいくつか見ていこう。

①1,100kgの台車を追突させる燃料漏れ試験で、より厳しい試験(1,800kg)のデータを提出してしまった。

②衝突角度50度と定められた歩行者頭部保護試験で、より厳しい試験(65度)のデータを提出してしまった。

③歩行者頭部&脚部保護試験で、申請とは左右逆側のデータを提出してしまった。

 ①と②はより厳しい試験なのだから問題ないだろうと担当者が考えてしまった。③は、国交省に左右変更の打診(電話でOK)をした記録が書面に残っていなかった。その他合計6件の「不正」を発表したわけだが、そのなかで恣意的なのはエンジン出力測定のズル(ただし市販車には影響なし)だけで、残りの5件に悪質性はない。にもかかわらずメディアは不正だの虚偽記載だのと騒ぎ立て、国交省は「やってる感」を出すために立ち入り検査の様子をテレビカメラに映させた。この大騒ぎの結果、日本のみならず海外でも日本車は評判を落とすことになった。

 ルールはルールなのだから不正だと主張する人もいるが、発表された6件は約20万件を調査した結果の6件で他のメーカーも同じようなもの。つまり99.997%はルールに従ってきちんとやっていて、たまたま数件のミスが掘り起こされたに過ぎない。ルール改善に取り組んでこなかった自工会の責任も重いが、一方でメディアはきちんと取材して正しい情報を伝えたのか、国土交通省は国益よりメンツを重視していないか、大いに疑問が残る騒動だった。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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