岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.179 クルマの手の内感

文・岡崎五朗

今回紹介したカイエンやセダンのパナメーラには大きな共通点がある。乗ると実際のサイズよりかなり小さく感じることだ。

 とくにコーナリング時の手の内感はちょっとすごくて、全長5m級のクルマとはとうてい思えない。まさにポルシェマジックである。

 何がそう感じさせるのか。先日ある試験車両に乗って謎が解けた。レクサスが将来に向けた乗り味向上研究用に試作したLSだ。市販モデルとの違いはボディ剛性。とはいえボディ剛性の重要性はかなり昔から言われてきたわけで、正直いまさら感があるなと思った。しかし、よくよく説明を聞くと、今回の試験車両は従来とは異なる部分を強化しているとのこと。具体的には、ボディ先端、中央部2ヶ所、ボディ後端の合計4ヶ所。従来の測定方法では数値に表れない部分なので見落とされてきたが、味磨き活動を進めていく過程で、実は上記の4ヶ所が人の感覚に大きな違いを与えることを発見したという。

 実際に乗ってみると違いは明らかで、ホイールベースが200㎜ぐらい短くなったような軽快さと内輪側の接地感の向上による安心感が伝わってきた。操舵角もより小さくなり、かつステアリングインフォメーションも濃密になる。おまけに荒れた路面を通過した際の振動の減衰性もよくなった。つまり、ハンドリングと快適性を同時に、しかも大幅に引き上げることに成功しているということだ。ちなみに、対策前と対策後の車両で違うのはボディのみ。タイヤもサスペンションも完全に同じだ。ボディ、それも試験機では剛性の違いを検出できないレベルの対策でこれほどの違いが出るとは狐につままれたような気持ちになったが、乗って感じた違いは紛れもない事実である。なお、ほぼ同様の対策を施したNXの試験車両も同じ傾向を示した。

 ここで思い出したのは、かつてパナメーラのホワイトボディを見たときのこと。日本車には見られない補強がたっぷり加えられていた。なるほど。LS試験車で受けた感覚は、まさにパナメーラの感覚に近い。そしてその勘所をレクサスはついに発見したようだ。NXやLMにはすでに一部を適用済み。今後のレクサスの進化に要注目だ。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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