次世代ジャーナリストがいく 第6回 Z世代がクロカン好きなワケ

文・瀬イオナ 写真・長谷川徹 (※)

20代の若者はクロカンが好きである。

いや、SUVもふくめクロカンのにおいのするクルマが好き、と言えるだろう。
クロカン好きを自称するZ世代のはやせイオナさんがその理由ワケを考える。

 Z世代は、なぜ「クロスカントリー(通称クロカン)」が好きなのか? 今回は、あくまでもZ世代である“わたしの主観”でお話しするので、一意見として読んでいただけたら嬉しい。

 わたしは大きなふたつの理由で、いまクロカンがアツいと感じている。それは、「レトロブーム」と「災害」である。

 ひとつ目に挙げたレトロブーム。近年、レトロなものがとにかく話題である。特に1980~1990年代ごろ、つまり昭和後期から平成初期のカルチャーが激アツだ。ガラケーやフィルムカメラといったアナログ感満載のものや、純喫茶で提供されるクリームソーダは見た目からして映える。音楽でも、シティ・ポップなど、どこか懐かしいメロディーをよく耳にする。

 1990年半ば~2000年代前半ごろに生まれた「Z世代」はデジタルネイティブとも言われ、幼いころからすでにインターネット環境が整っており、スマートフォンがあることも空気のように当たり前の中で成長してきた。じゃあその親御さんは、というとまさに今のレトロブームの最中さなかの1980~1990年代にイケイケな若い時代を過ごした世代なのである。

 当時はクロカンブームの大全盛期であった。ブームのきっかけとなった三菱パジェロを皮切りに、多くのメーカーがそのブームに乗って次々に新車を発売し、元々はニッチな存在だったクロカンは一気に市民権を得たのである。

 そして1987年に公開された『私をスキーに連れてって』をきっかけにスキーブームが起こったことによって、クロカンユーザーはさらに増える。当然、わたしの両親も流行りのスキーデートをし、クルマではユーミンを聴いていたらしい。

 そんな親から生まれたZ世代の幼少期は、親が好きだった音楽が流れていたり、タンスを覗けば肩パッド入りのスーツが眠っていたり、ホームビデオカメラで動画を撮っていたり……。新鮮で、だけどどこか懐かしく感じるのは、幼少期にそういった体験をしていることも関係しているように思う。

 そして、ふたつ目に挙げた災害。今から13年前の2011年3月11日に起きた、東日本大震災の経験も関係しているだろう。Z世代は当時、小学生や中学生だった人がほとんどだ。感受性の豊かな子どもにとって、東日本大震災はとても衝撃的なニュースだった。わたしも当時、子どもながらに震度6強を経験した。外は砂埃に包まれ、家にヒビが入っていく光景はいまだに目に焼きついている。あのときの恐怖心や悲しみといった心的トラウマは心の奥深いところに今も根付いている。あれから13年経った今年も、元旦から能登半島で不幸が続いた。自然災害の多い日本で暮らしていくには、意識するしないにかかわらず、人は万一に備えようとする。自宅に代わる一時的な避難場所として、最低限、数日だけでもしのげるようなクルマを選ぼうとするユーザーがいることも、ゼロではないと感じている。

 また近年のクロカンブームは、地球全体を見事に変えてしまった新型コロナウィルスのパンデミックも関係しているだろう。オフラインで直接対話できる機会が失われ、隔離された中でどのように楽しみを見つけるか、その方法のひとつとして一気に需要が高まったのが、車中泊やキャンプだ。

 親世代の「クロカン×スキーブーム」を後押ししたのが映画だったように、2018年に1期が放送されてから映画化されるほどの人気を誇った、高校生の女の子がキャンプをするアニメ『ゆるキャン△』が、再び、近年のアウトドアブームを牽引した。

 これらのことを背景として、アナログ感あふれるカクカクしたデザインで、訪れた場所もクルマ自体も映えて、見た目はもちろん万一のときにも頼りになる本格派クロカンが、性別を問わず、今とことんアツい。

 可愛らしい洋服にゴツくてスポーティなスニーカーを組み合わせ、ちょっぴりはずしを効かせてみる。そんな甘辛ミックスコーデをするように、カクカクした大きくてゴツいクロカンには、自身にちょっぴりスパイシーな隠し味みたいな要素を足してくれる、そんな魅力がある。Z世代はそういった「ギャップ」もたまらないのである。

瀬イオナ/Iona Hayase

自動車メディアの編集部を経て2024年フリーランスとして独立。アルバイトをしながら、モータージャーナリストを目指して、「書くこと」「走ること」を勉強中。ドライビングは中谷明彦氏に師事している。

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