岡崎五朗のクルマでいきたい Vol.175 トヨタデザイン変貌の秘密

文・岡崎五朗

今回は2台のクラウンをとりあげた。個々の詳細については後ろのページを読んでいただくとして、ここで語りたいのは最近のトヨタデザインについてだ。

 僕だけじゃなく、多くの人にとって従来のトヨタデザインはさして興味を引かれるものではなかったと思う。むしろ、無難とか退屈とか最大公約数とか好かれるよりも嫌われないとか、そういうイメージが支配的だったはずだ。

 ところが、トヨタデザインは急速に変わりはじめている。いい例がプリウスだ。退屈なエコカーの代名詞だったクルマがスーパーカーのように傾斜したフロントスクリーンをもつスタイリッシュなセダンに突如大変身した。フロントスクリーンだけじゃなく、強烈なウェッジが効いたフォルムや大胆に張り出したリアフェンダーなど、スペシャリティカー的要素がてんこ盛りされているのがわかる。そしてその大胆なデザインは世界から拍手をもって迎え入れられた。

 ではなぜトヨタのデザインは変わったのか。デザイン部門のトップであるサイモン・ハンフリーズ氏によると、クルマ作りの流れが変わったことがいちばんの理由だという。デザイナーのスケッチに後から様々な制約を入れていくという従来の流れをやめ、企画の初期段階からデザイン部門が入り、各部門と協調しながらイメージスケッチ通りのクルマを作りあげていく。スタンスをよくするためには大径タイヤが必要だ、であるならホイールハウスの構造をこうして、あとはホイールベースもちょっと伸ばそう、というイメージだ。

 クルマは数多くの部門が係わって作りあげていくもの。当然、セクショナリズムもある。それを取り払うことができるのは企業のトップだけだ。豊田章男会長は社長就任以来ずっと「もっといいクルマをつくろう」と呼びかけてきた。その結果、走りは大幅によくなったわけだが、実は同じことがデザイン領域でも起きていた。「丸くとか四角くするといった表面的なことではなく、プロポーションとかスタンスといった深い領域のデザイン論をトップが理解してくれたのは本当に大きかったです」とサイモン氏が言うように、デザインや走り味といった数字では表現できないものの価値を高めていくには、銭勘定だけでなくクルマを知り尽くしたトップが絶対に欠かせないのだ。

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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