広島G7サミット以降、世界を大いに賑わせていたEVシフト論がついに沈静化してきた。
サミットでの共同声明にバッテリーEVの数値目標は盛り込まれず、文書化されたのは「2035年までに保有車両のCO2排出量を2000年比で半減」というフレーズのみ。従来から「敵は炭素であり内燃機関ではない」、「脱炭素には様々な技術で取り組むべき」と主張してきた日本自動車工業会の主張が主要先進国に認められた格好だ。
その後、EVへの取り組みが遅いとトヨタや日本を強く批判していたニューヨークタイムズ紙がついにEVオンリー化の難しさを認め、ハイブリッド車推奨へと主張を変更。ブルームバーグやロイターも同様の論調を展開してきた。米国だけでなく、イギリスではスナク首相が従来の急進的政策の変更を宣言し、中国のメディアもハイブリッドの重要性を主張してくるなど、2、3年前の状況がまるで嘘のような変貌ぶりである。
もっとも、政治やメディアの論調を変えた最大の要因はG7サミットの共同声明ではなくユーザーの声だ。これまで倍々ゲームで増えてきたEVだが、ここに来て伸びがストップ。マーケティングでいうところのアーリーアダプターに行き渡った結果だというのが大方の見方である。僕もそう思う。EVシフトは焦らず落ち着いて事を進めていくべきだと言い続けてきた僕としてもこの動きは歓迎だが、その反面、ほら見たことか、EVなんてやっぱりダメなんだ、必要ないんだ、という意見をSNSなどで見るにつけ、それもちょっと違うのにな、と感じている。
石油の97%を中東に依存している日本にとってイスラエルの紛争は決して他人事ではなく、もし戦争が拡大すれば深刻なエネルギー不足になりかねない。そういう意味で、石油消費量を減らすのは安全保障上必要なことであり、そのためにはEVを無理なく買って便利に使える人、つまり自宅に充電器を設定でき、かつ長距離ドライブをあまりしない人にはEVを買ってもらった方がいい。10年後に新車販売の30%ぐらいはBEVになるのが好ましいというのが僕の考えである。
Goro Okazaki