Recommend SUZUKI vol.04レコメンドSUZUKI 特別編 GSX-Rを振り返る

文・伊丹孝裕 写真・長谷川徹

その名のモデルが最初に送り出されたのは、’84年2月のことだ。

 398㏄の水冷直列4気筒をアルミフレームに搭載し、乾燥重量152㎏という抜きん出た軽さを公称した「GSX-R」がそれである。同年にデビューした直接的なライバルである、ヤマハFZ400Rの車重は、165kgだった。

 思えばこの時、GSX-R400ではなく、単にGSX-Rという数字抜きの車名を与えたことの意味は大きい。排気量の大小や気筒数の多少がどうであれ、その車名を冠するモデルは、スズキ謹製のピュアスポーツである。そんな血統の始まりを示すことになったからだ。まずはアルファベットのみでシリーズの第一歩を刻み、翌’85年のR750でサーキット最速へ、そして’86年のR1100によってストリート最強の座へと駆け上がっていった。以来、それぞれのステージにおいて、GSX-Rは躍動。常にブルー基調のコーポレートカラーが中心に置かれ、スズキの象徴で在り続けた。

 ブランドの分岐点がまったく無かったわけではない。たとえばもし、’99年に登場したGSX1300Rハヤブサが、R1100直系のモデルとして、GSX-R1300を名乗ったなら、また違った展開になったかもしれない。しかしスズキは、「R」の文字を数字の前ではなく後に付け、「カタナ」「イナズマ」に続く和名も与えた。つまりそれは、GSX-Rとは明確に血筋が異なることの表明であり、’01年からは、その頂点をGSX-R1000が担うようになった。

 軽く、コンパクトで、扱いやすく、開けやすい。これらは歴代のモデルに連綿と受け継がれた資質であり、いつの時代も、どのモデルよりもスズキらしさをピュアに突き詰めることを許され、またそうあらねばならなかった。そして、その純度が最も高められたのが、’17年型として刷新されたGSX-R1000である。

 それまでのGSX-Rは、ストリートからサーキットを目指す存在だった。純レーシングマシンとの相関関係はほとんどなく、かつてのGP500マシン・RGV-Γの車体設計がGSX-R750に活かされたことはあっても、その逆は無いに等しい。グランプリの世界では2ストロークのV型4気筒が主流であり、モトGPに名称が変わって4ストローク化が進んだ’02年以降もスズキはV型4気筒を選択したからだ。

 そんな中、スズキは’11年シーズンの終了時点でモトGPへの参戦を休止することを発表した。様々な事象や体制が縮小傾向にあるのかと思いきや、早期の復帰を公言しただけでなく、’14年の最終戦で披露されたマシンには新開発の直列4気筒を搭載。エントリーリストには「GSX-RR」と記されていた。そう、その名はGSX-Rとの近似性を感じさせるものであり、’15年に再度フル参戦を開始すると、翌シーズンには早くもトップチェッカーを達成している。停滞、再生、歓喜というドラマの中、そこで得られたノウハウが注がれたモデルが、’17年型のGSX-R1000だったのだ。

スズキ GSX-R1000R ABS (2017)

エンジン:水冷直列4気筒 DOHC4バルブ 総排気量:999cc
装備重量:203kg 最大出力:145kW〈197PS〉/13,200rpm
最大トルク:117Nm〈11.9kgm〉/ 10,800rpm

RIDER:SEI KAMIO / ARAI HELMET:HYOD PRODUCTS:JAPEX (GAERNE)

 可変バルブやその駆動方式、極端なほど細身になったフレームからは、GSX-RRが下敷きになったことが見て取れ、レース最高峰のマシンと市販車のイメージが見事にリンク。GSX-R物語が新章へ入っていくことを予感させた。事実、’20年にはGSX-RRがモトGPを、GSX-R1000が世界耐久選手権をそれぞれ制覇するという、壮大なクライマックスを迎えたのである。

 なのに唐突に、あまりにも唐突にモトGPのレース部門は解体され、GSX-R1000は生産の終了がアナウンスされた。昨年のことである。GSX-Rは確固たるブランドであり、排気量や気筒数は大した問題ではない。とはいえそれはシリーズを牽引するトップモデルがあってこそのこと。現状、その名を持つモデルが125のみという現実は、あまりにも拠りどころがないのではないか。

 GS、GS-E、GS-S、GSX-E、GSX-S……。GSの文字から始まるモデルは過去にも現在にも多数あるが、やはりGSX-Rは特別だ。70年に及ぶスズキ二輪史において、39年間も存在し続けてきたのだ。

 ひとりのユーザーとしても、思い入れがある。3台のR1100で頂点の世界を知り、2台のR600にマン島TTレースへの挑戦を託した。GSX-Rが引き寄せ、叶えてくれたものは、さながら青春時代の夢のようなものだったが、それはもっとずっとあとになってからほのぼの思えばいい。40周年を目前に控えながら、先細り感が否めない今だからこそ、なんらかの未来を提示してほしい。

 初代がそうだったように、ただの「GSX-R」として原点回帰するのはどうだろう。4気筒にも、1,000㏄にも、レース対応にもとらわれることなく、またがった瞬間から躰に馴染む高い一体感が備わっていればそれでいい。それこそがGSX-Rらしさであり、ひいてはスズキらしさに他ならない。


GSX-R(400)/1984

GSX-Rの名前を冠した最初のモデル。400ccクラス初のアルミフレームを装備。最高出力59ps、乾燥重量152kgというパワーウェイトレシオは現在もクラストップを誇る。

GSX-R750/1985

スズキの個性のひとつである油冷エンジンを最初に搭載した。1983年の鈴鹿8耐で優勝したGS1000Rがイメージ。世界的に見るとGSX-R伝説はこのナナハンから始まった。

GSX-R1100(G)/1986

リッタークラスにレプリカの概念を浸透させた立役者。レース規約に準拠したR750に比べて負圧キャブを装備するなど乗りやすさを優先。隼の元祖とも言える存在。

GSX-R750R(K)/1989

限定販売のホモロゲモデル。ピストン、コンロッド、クランクが専用品となるなどレギュラーモデルとは一線を画した。他にもアルミタンク、FRPカウル等、特別仕様が満載された。

GSX-R750 (WN)/1992

400を除くとシリーズ初となる水冷エンジンを搭載。レースにおいて、より高出力が求められた結果の採用だが、ダブルクレードルフレームは継続した。

GSX-R750(T)/1996

レースで勝利するために、ついにツインスパーフレームを投入。ケビン・シュワンツがタイトルを獲得した1993年型RGV-Γ500のディメンションを踏襲している。

GSX-R1000(K1)/2001

GSX-R750をベースにパワーウェイトレシオを追求。エンジンの大きさを保持するため、ストロークアップして排気量を拡大。R1000の登場はリッターSSの概念をシフトさせた。

GSX-R1000(K5)/2005

GSX-Rシリーズの中でもファンの多いモデル。リッターバイクとは思えないほど足つき性も良くコンパクト。GSX-S1000や新型KATANAのベース車両として現在も活躍している。

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