ひとクラス上をめざす

ミニマルな物やことが持て囃されて久しい。

クラスレスであることがトレンドとなり、今や高級なクルマやバイクを敬遠する風潮もあるという。それは、クルマやバイクを見栄の道具にしないという意味で正しく、本質的で成熟した世の中に近付いているようにも見える。

しかしクルマやバイクを本気で楽しむには、向上心を持ってクラス感を上げていく必要があるのではないだろうか。


BMWは、アガリのバイクなのか

文・河野正士 写真・渕本智信

 BMWこそ、若いときに乗れ。僕は常々、そう考えている。BMWのことを深く知り、またBMWのナカの人たちと付き合えば付き合うほど、その考えは強くなっていく。なので「BMWはアガリのバイク」などという話が聞こえてくると、「ちょっとイイ?」 なんて言いながらその話に割って入り、凝り固まったイメージをぶっ壊してしまいたくなるのだ。

 だって1日1,000㎞の走行を楽にこなしてしまうBMWを、歳を取ってから手に入れたとしても、バイクよりもライダーが先にへたばってしまい、何の意味もなくなってしまうからだ。だから500㎞先に住む愛しい人の元にバビュッと走って行って、何食わぬ顔でディナーを共にしたり、思い立って1,000㎞先にある美味い名物を食して、翌日は何事もなく出社する。ある意味、そんな無駄ともいえることを真剣に楽しめるのも若いからこそ。BMWは、そんな馬鹿馬鹿しくも熱い、パッションで乗るバイクなのだ。

 いや正確には、熱いパッションを持つ人たちによって生み出されたBMWのバイクたちは、ライダーのパッションに応えるために造られている。だから我々は、それに敬意を払うためにも、同様のパッションを持って乗らなければならない。

 ドイツ人と言えば、冗談も言わないしかめっ面で、理路整然、頑固一徹というイメージを、多くの日本人が持っているだろう。少なくとも僕はそうだった。しかし試乗会やイベントなどで話すBMWの開発者たちは、皆オープンマインドで、バイクに対する情熱に溢れていて、コミュニケーション能力が非常に高い。それにオフロードや英国車、アニメや時計などの専門家も多く、オタク揃い。彼らが造るバイクが、楽しくならない訳がない。

R 1250 RT

価格:3,070,000円~(税込)
エンジン:空水冷4ストロークDOHC
水平対向2気筒8バルブ
総排気量:1,254cc
最高出力:100kW (136PS)/7,750rpm
最大トルク:143Nm/6,250rpm
車両重量:290kg
※写真はオプション装着車です。

 BMWが世界中のライダーに広く、そして深く知られるようになったのは、水平対向2気筒エンジンの個性的なルックスと滑らかな出力特性と、そして圧倒的な低重心にある。それに加えて1976年に発売されたR100RSの大型カウルによって、ライダーを風圧との格闘から解放し、バイクの世界の価値基準に「快適性」という言葉を持ち込んだ。また1988年に発売されたK100RSにはABSが装備され、高い安全性も提供した。このフルカウルやABSを市販車として初めて採用したのはBMWなのだ。

 さらにシャフトドライブにこだわり、テレレバーやデュオレバーといった独自のフロントサスペンションシステムを導入したり、電子制御サスペンションを積極的に取り入れて、スポーツ性と安全性を高めるといった、いまでは当たり前の考え方を、BMWは早くから構築していたのだ。

 それに忘れてはいけないのは、BMWは1970年代の中頃、アメリカで始まったAMAスーパーバイク選手権という市販車ベースの最高峰レースで、R90Sが、ヨシムラのカワサキZ1を下してシリーズタイトルを獲得したことだ。以降3連覇を達成しているほどの高いスポーツ性を持っている。

 また1980年代前半には水平対向2気筒エンジンのマシンが世界的なエンデューロレースで活躍し、その活躍はパリ-ダカール・ラリーでの伝説へと繋がり、いまやBMWの屋台骨であるGSシリーズへと継承されているのだ。

 これらの歴史を知ってしまうと、「BMWはアガリのバイク」という話し声を聞けば、あなたもきっと、僕のように既存のイメージの破壊王になるだろう。

 そして「ひとつ上のクラス感」を感じるためにも、このBMWの歴史を知ったうえで、是非ともBMWに試乗して見てほしい。そして、いつもよりホンの少しだけ、アクセルを多めに開けてみてくれたら僕の言ってることが伝わると思う。

K 1600 B

価格:3,058,000円~(税込)
エンジン:水冷DOHC並列6気筒24バルブ
総排気量:1,648cc 車両重量:350kg
最高出力:118kW(160PS)/7,750rpm
最大トルク:175Nm/5,250rpm

M 1000 RR

価格:3,783,000円~(税込)
エンジン:油冷/水冷4DOHC並列4気筒16バルブ
総排気量:999cc 車両重量:198kg
最高出力:156kW(212PS)/14,500rpm
最大トルク:113Nm/11,000rpm

R 18 B

価格:3,418,500円~(税込)※First Edition
エンジン:空油冷水平対向2気筒OHV4バルブ
総排気量:1,801cc 車両重量:398kg
最高出力:67kW(91PS)/4,750rpm
最大トルク:158Nm/3,000rpm

R 1250 GS アドベンチャー

価格:2,319,000円~(税込)
エンジン:空水冷DOHC水平対向2気筒8バルブ
総排気量:1,254cc 車両重量:278kg
最高出力:100kW (136PS)/7,750rpm
最大トルク:143Nm/6,250rpm

R 1250 R

価格:1,950,000円~(税込)
エンジン:空水冷DOHC水平対向2気筒8バルブ
総排気量:1,254cc 車両重量:246kg
最高出力:100kW (136PS)/7,750rpm
最大トルク:143Nm/6,250rpm

R nine T

価格:2,240,000円~(税込)
エンジン:空水冷DOHC水平対向2気筒8バルブ
総排気量:1,169cc 車両重量:224kg
最高出力:80kW(109PS)/7,250rpm
最大トルク:116Nm/6,000rpm

ジョン・クーパー・ワークスというMINI

文・石井昌道 写真・渕本智信

 スポーツ性能をとことん高めて、MINIならではの「ゴーカート・フィーリング」を追求したJCW(ジョン・クーパー・ワークス)。ジョン・クーパーとは、1950年代にF1を席巻したコンストラクターだ。クーパー・カー・カンパニーの経営者およびエンジニアで、1959年に登場したクラシックMINIのポテンシャルに注目してエンジンやシャシーを強化してMINIクーパーを誕生させた。同車はラリーやレースで大活躍し、MINIのスポーツグレードとしても定着していった。

 MINIは日本でも人気が高く1990年代には世界一のマーケットになっていたが、MINIクーパーが車名だと勘違いする人も少なくなかった。あまりにクーパーの知名度が高く、グレードの枠を超えて代名詞化したのだ。

 2001年にはBMWから新生MINIが発表され(日本には2002年3月2日=ミニの日に上陸)、当初からクーパー、およびクーパーSはスポーツグレードとしてラインアップされていた。初代のモデル末期には、スポーツ性能をさらに高めるジョン・クーパー・ワークスKITも発売された。レジェンドの名を冠したそのKITは、MINIクーパーSをベースにシリンダーヘッドやスーパーチャージャー、エキゾーストシステムなどに手を入れることによって最高出力は170PSから210PSへとチューンされたスペシャルなモデルで過激な走りが注目された。最初はKITとしての販売だったが、後に限定販売のコンプリートカーに。さらにはJCW(ジョン・クーパー・ワークス)という正式なグレードに格上げされ、いまでは最もスポーティな最上級グレードとして定着した。

 MINIのハンドリングが「ゴーカート・フィーリング」と言われるのは、クラシックMINIのサスペンションが、一般的な金属製スプリングなどではなく、ゴムの塊であるラバーコーンが採用されていたことに起因する。コンパクトに収まるラバーコーン・サスペンションは小さなボディのMINIのパッケージングに有利であったが、ストロークが少ないため乗り心地は快適とは言い難かった。しかしながら、ステアリング操作と同時に曲がり始めるレスポンスの良さがあり、振動を素早く収束させる。スポーツカーなどで用いられるプログレッシブスプリング(ストロークによってレートが変化していく)としての特性も高く、実用車ながら走りのポテンシャルが高かった。ジョン・クーパーはそこに目を付けたわけだ。また、クラシックMINIのファンは、ピョコピョコとする特有の乗り心地にさえ愛着があったりもする。

 あまりロールしないでキビキビと走るのがクラシックMINIの特徴であり、それはサスペンションのないゴーカートのようでもあった。BMWは新生MINIを開発するにあたり一般的な金属スプリングを採用したが、クラシックMINIをオマージュし、独特の走りのキャラクターを生み出すために「ゴーカート・フィーリング」をコンセプトにしたのだ。新生MINIの大成功は、デザインやプレミアム性によるところが大きいが、ハンドリングの楽しさがドライバーの心を掴んだことも見逃せない。多少は乗り心地を犠牲にしているところもあるが、クーパーSよりも過激なJCWが広く受け入れられていることからもそれがわかるだろう。

MINI John Cooper Works

車両本体価格:4,820,000円(税込)
エンジン:4気筒DOHC MINI ツインパワー・ターボ
総排気量:1,998cc
最高出力:170kW(231ps)/5,200rpm
最大トルク:320Nm/1,450-4,800rpm

 以前に、MINIのシャシー担当エンジニアに「ゴーカート・フィーリングの定義はあるのですか?」と尋ねたことがある。ロールはある一定の量までしか許容せず、ハンドルを切った量と発生する横Gの関係はこの範囲などという秘密のレシピが存在するのではないかと思っていたのだ。ところが返ってきた答えは「定量的なものは何もありません。MINIの開発に携わる者達でハンドルを握り、『これがMINIの味だよね』と確かめ合いながらハンドリングを決めていきます」とのことだった。クラシックMINIをオマージュした「ゴーカート・フィーリング」は、数値化されたものではなく、人間の感性で継承されているのだ。

 その「ゴーカート・フィーリング」を究極まで追求したJCWの走りは、当然のことながら痛快だ。最新のMINI JCWクラブマンは2.0ℓ直列4気筒ターボ・エンジンを搭載していることもあって最高出力306PS、最大トルク450Nmを誇り、0-100㎞/h加速はなんと4.9秒。ホットハッチの枠を超え、ピュアスポーツの領域に足を踏み入れる動力性能だ。とんでもないパワーはFFではもはや受け止められず4WDのALL4が採用されており、迫力あるスタートダッシュを決められるようになっている。4,000rpmからの吹き上がりの鋭さと勇ましいサウンドは病みつきになるほどだ。

 225/40R18のミシュラン・パイロット・スーパースポーツというハイグリップなスポーツタイヤを履き、サスペンションも市販車としてはギリギリまで締め上げられているのでハンドリングのクイックさは歴代MINIのなかでも最上の部類となり、ドライバーを熱くさせる。

 さぞかし乗り心地は硬いのだろうと想像されるだろうが、現行のモデルはアダプティブ・ダンパーを備えているので、ソフト目のモードであれば、同乗者から文句を言われないギリギリのところに収まっている。最初のジョン・クーパー・ワークスKITを装着したモデルは、飛びきりに刺激的だったが、操縦性や乗り心地がトリッキーだと感じたりもした。しかし最新モデルは辛口と日常使いを上手に両立させていて進化の証を感じさせる。

 とはいえ、愛らしいデザインやキャラクターに惹かれた人、あるいは程よくスポーティなモデルとしてMINIに興味を持った人に、JCWをいきなりはオススメできない。刺激が強すぎる劇薬だからだ。ある程度は、MINIやMINIクーパーの歴史や背景を理解し、その最高峰のモデルに手を出すのだという覚悟をすべきだろう。一度それを味わってしまえば、後戻りは不可能。抜け出せないこと必至の沼であることを認識しておいて欲しいのだ。

MINI John Cooper Works CLUBMAN

車両本体価格:5,710,000円~(税込)
エンジン:4気筒DOHC MINI ツインパワー・ターボ
総排気量:1,998cc
 
最高出力:225kW(306ps)/5,000rpm
最大トルク:450Nm/1,750-4,500rpm

MINI John Cooper Works CROSSOVER

車両本体価格:6,090,000円(税込)
エンジン:4気筒DOHC MINI ツインパワー・ターボ
総排気量:1,998cc
最高出力:225kW(306ps)/5,000rpm
最大トルク:450Nm/1,750-4,500rpm

MINI John Cooper Works CONVERTIBLE

車両本体価格:5,380,000円(税込)
エンジン:4気筒DOHC MINI ツインパワー・ターボ
総排気量:1,998cc
最高出力:170kW(231ps)/5,200rpm
最大トルク:320Nm/1,450-4,800rpm

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BMWは、アガリのバイクなのか 河野正士

ジョン・クーパー・ワークスというMINI 石井昌道

軽自動車のひとクラス上 竹岡 圭

メルセデスを手に入れるということ 今井優杏


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