「これ以上のエンジンは二度と作れないんだよ」これは、スズキのエンジン開発に従事されている方が、僕のGSX-R1000を見た時に出た言葉です。
当時僕は、GSX-R1000のK6型(2006年式)を所有していました。それ以前からGSX-R1000のK2(2002年式)とK4(2004年式)を乗り継いでおり、K6が3台目のGSX-R1000でした。
2007年に生まれ故郷の横浜を離れて、静岡県浜松市にあるレザースーツメーカーである「HYOD」で働いていた20代の頃の話です。当時の楽しみといえばバイクに乗ることだけで、昼夜を問わず毎日のようにGSX-R1000を乗り回していました。浜松という土地柄もあり、スズキを始めバイクメーカーに務める人が頻繁に訪れる職場にいたのです。そこで冒頭の言葉を聞いたのでした。
僕の所有していたK6型は、前年にデビューしたK5型と基本的に同じ仕様で、先代のK3~K4型に対して排気量で10㏄しか違わないのに14馬力もパワーアップしていました。世界最速と謳われたGSX1300Rハヤブサよりもパワーが出ていたのです。それでいてGSX-R1000らしい低速のゴリゴリとしたトルクはそのままでトップエンドまで回りきる時間が圧倒的に早くなっていました。完全に〝別モノ〟になったエンジン改良には驚きました。このエンジンは、レースでも負け知らずの強さを誇っていただけでなく、ロングストロークだったので、街乗りやツーリングにも躊躇なく使える、扱いやすさが魅力でした。実はこのK5~K6型のエンジンは、排ガス規制の影響が最も少ない最後のモデルなのです。次モデルは、スペックこそ上がり、出力特性の切り替えもできるようになりましたが、マフラーが左右2本出しになって触媒が付いてしまい、エンジンフィーリングがK5~K6型とは違うモノになってしまったのです。
今回試乗した新型GSX-S1000は、そのGSX-R1000 K5~K6型のエンジンをベースに改良をおこない、現代のスポーツバイクらしく電子制御を盛り込んでいます。2015年にデビューした初代GSX-S1000や2018年に19年ぶりに復活したKATANAも、このGSX-R1000のK5~K6型のエンジンをベースにしています。今回のモデルチェンジで、ヘッドライトが縦目2灯の精悍な顔つきになりました。この縦目2灯というのは初代ハヤブサから始まったスズキのアイデンティティでもあります。そして注目のエンジンは、低速トルクは相変わらず分厚く、鋭いレスポンスは健在です。現代の厳しい排ガス規制をクリアしながらもK5~K6型のフィーリングが見事に再現されています。パーシャル付近でのスロットル開度での動き、ワイドに加速する際の回転のツキ、スロットルを戻したときのフィーリングなど、身体に染見込んでいる思い出が一気に蘇ってきました。電子制御のおかげで危ない挙動は一切ありません。ふと考えるとあの頃GSX-R1000に乗り継いでいなければ、今の仕事をしていなかったかもしれません。大げさではなく、そんな人生に影響を与えるようなバイクだったのです。
GSX-S1000
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒 DOHC4バルブ 装備重量:214kg
最高出力:110kW(150PS)/11,000rpm
最大トルク:105Nm(10.7kgm)/9,250rpm
GSX-R1000(2005年/K5)
乾燥重量:166kg
最高出力:178PS(131.0kW)/11,000rpm
最大トルク:117.7Nm(12.0kgm)/9,000rpm
GSX-S1000 ABS(2015年)
装備重量:209kg
最高出力:145PS(107kW)/10,000rpm
最大トルク:106Nm(10.7kgm)/9,500rpm
GSX-S1000F ABS(2015年)
装備重量:214kg
最高出力:145PS(107kW)/10,000rpm
最大トルク:106Nm(10.7kgm)/9,500rpm
KATANA(2019年)
装備重量:215kg
最高出力:148PS(107kW)/10,000rpm
v
最大トルク:106Nm(10.9kgm)/9,500rpm
GSX-S1000GT
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒DOHC
装備重量:226kg
最高出力:112kW/11,000rpm
最大トルク:106Nm/9,250rpm