20世紀に世界の中心にいたのは間違いなくアメリカだった。
戦争と大量消費の時代を圧倒的なパワーで乗り越えナンバーワンに君臨していた。
しかし21世紀も5分の1を消化した今、2001年9.11テロ、2008年リーマンショック、2017年トランプ政権誕生、2020年新型コロナウィルス等、激動が続く中でこれからもアメリカは世界の中心にいられるのだろうか。
エンターテイメントとストレスレベルの高さが同居するこの国の未来をクルマやバイクを通してうらなってみたい。
フェラーリと対峙した新型コルベット
ただ者じゃないC8! 大胆にイメチェンした。C8とは、8世代目を意味する新型コルベットのこと。これは、フェラーリやランボルギーニとまともに対峙できる存在だと直感した。
コルベットと言えば〝スティングレイ〟と自然に呼び名として浮かぶが、トランク部分に〝エイ〟のバッジが付きながら、日本ではスティングレイとはなぜか呼ばないらしい。
雰囲気が大きく変わった訳は、歴代のコルベットが踏襲してきたロングノーズにショートデッキ。つまりフロントエンジン・リアドライブのFRレイアウトから、エンジンをコクピットの背後に搭載するMR=ミドシップエンジン・リアドライブに大変革したためだ。
フロントマスクに先代の名残りはあるものの、真横から眺めるとフロントはショートで、キャビンの位置が前進しており、リアまで流れる様なスタイリングから、C5以降とはまったく別モノのスーパーカーに変貌した。さらに驚きはハンドルが右にある事。コルベットが右ハンドル! 時代は変わったものである。
エンジンスイッチON…背中でひと吠えする6.2ℓ OHV V8は、ドロドロ音は抑え気味で、アクセルを踏み込むと、「クオォーン」と高周波のレース用アメリカンV8サウンドを轟かせ、軽く踏むだけで「シャンッ」と鋭いレスポンスとともに瞬時に6,000回転をオーバーする。
アメリカンと言えばトルコンATだがC8は8速デュアルクラッチだ。ゼロ発進こそクラッチミート感はあるが、市街地でも高速で高回転まで引っ張っても、段付きもショックもないシームレスな変速で完成度が高い。
サスペンションは板バネから変わり、Wウイッシュボーンとコイルスプリングに変更された。走り出した瞬間から、コーナーをひとつ曲がっただけで、すべての動きが素直で操作と同時に即答するダイレクト感に惚れてしまう。
コーナーのインを目掛けてノーズから吸い込まれて行く感覚は、2ℓライトウエイトスポーツのような俊敏なフットワークを持つ。C7までのFRモデルとは完全に別次元のクルマになっているのである。
タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ4S。その高いグリップ力にサスペンション、シャーシ、ボディにステアリング系も、路面からの衝撃を含む入力に対応するための柔な逃げが無い。ボディやシャーシ各部の強度と剛性の高さから察するに間違いない。さらに驚くのは太いリアタイヤの横方向への腰砕け的な甘い動きもないことだろう。
ステア操作に対して常にダイレクトなだけではなく、リアの接地性と安定性の高さは、有り余るパワーでスライドを容認していたC7までの操縦性とはまったく異なる。502ps/637NmのV8のパフォーマンスを余す事なく駆動力に変え、しかも素直に曲がり急減速も安定させているのだ。
ブレーキの効き味もペダルの踏み始めからスムーズに立ち上がり、効きの強弱と抜きのコントロール性もダイレクトで扱いやすい。
ここまで言うと硬派なスーパーカーだと思われるが、乗り味はドライブモードの切替で実にわかりやすく変化する。通常はツーリングモードで快適な乗り味。気分によりスポーツやトラックを選ぶと、エンジンレスポンスとサウンドもサスペンションも含めてハンドリングのすべてが劇的に戦闘モードに変わる。
一日にして惚れ込んでしまったC8。実に高い完成度を誇りながら、その価格を見て2度驚く。イタリアやイギリス製ピュアスポーツカーと対等に戦えて、半額!!
まさにお値打ち価格だといえる。
因みにスティングレイの名称を使わない、いや、使えないのは、某日本メーカーがその名称の権利を押さえたためだという。これは本当に笑えない話である。
シボレー コルベット(クーペ2LT)
エンジン型式:V型8気筒OHV/ LT2
総排気量:6,153cc 最高出力:369kW(502PS)/6,450rpm
最大トルク:637Nm (65.0 kgm)/5,150rpm 車両重量:1,670kg
アメリカ最古のバイクメーカー
インディアンとは何か
「宮﨑さんは英車の人ですけど、インディアンのことって書けますか?」
好んで旧い英車ばかり乗っているから、私のパブリックイメージは上記の原稿依頼での言葉のとおり「英車の人」なのだろう。しばし心の中で苦笑するとともに、若かりし頃の記憶がよみがえる。30年以上前の1989年、当時19歳の私は生まれて初めて洋書を購入した。それは今から6年前に閉店した青山の嶋田洋書で、3,510円の値札がついたインディアンのバイヤーズガイドだった。注文してから1年以上待たされるのもザラ、というのが当時の洋書物流事情であり、それくらい待ってこの1冊を手にした。
若気の至り〟そのままだが、とある雑誌に載っていたインディアンの見た目をカッコイイと思ったのが、私がインディアンに関心を持った契機だった。そして30歳になる頃には、見た目よりも中身……この稀有なブランドを生み出した男たちの物語や、彼らの作品の卓越した先進性、そして米国の内外でのモータースポーツにおける栄光に、すっかり魅了されたひとりのファンになっていた。
19世紀末、自転車メーカーやプロモーターとして活躍していたジョージ・ヘンディは、スウェーデンからの移民である技術者のオスカー・ヘッドストロムと組んでバイク製造に着手することを決意。1901年の第1号車完成から間もなく、彼らはモータースポーツへの挑戦を開始する。100以上の米国内速度記録を樹立、1911年の マン島TT完全制覇(表彰台独占)、1909年のモータードロームの完全支配など数々の業績を残し黄金期を築いた。
ヘッドストロムとヘンディが社を辞した後の時代のインディアンを支えることになったのは、TT完全勝利の際、2位で表彰台に登壇したアイルランド出身のレーサー兼技術者のチャールズ・フランクリンだった。フランクリンは、簡素な構成のサイドバルブで、オーバーヘッドバルブを凌ぐ動力性能を発揮させる技術を確立。そしてブランドを代表するVツインモデルのスカウトとチーフを生み出したが、不幸にも病に冒され、静養中の1932年に52歳の若さでこの世を去ることになった。
スカウトとチーフの名を受け継ぐモデルを作り続けることで、インディアンは第二次世界大戦前後の時代をサバイブしたが、1953年にはメーカーとしての活動にピリオドが打たれた。その後もインディアンの名をつけた他メーカー製車両や、ブランドの権利保有者らによる復活が試みられたが、いずれもかつての栄光を知る者にとって悲しい結末に終わっている。
半世紀ほど続いた悲しみの連鎖が断たれたのは、2011年、当時ハーレーに次ぐメジャーブランドだったヴィクトリーを擁していたポラリスが、インディアンを傘下に収めた時だろう。ヴィクトリーを廃止した2017年より、ポラリスはインディアンに力のすべてを集中させることを決め、FTR750によるダートトラックでのワークス活動を開始。初年度からでの常勝マシンとしての地位をガッチリ固め、今日に至っている。また2020年度からはアメリカンバガーモデルによるモトアメリカ「キング・オブ・ザ・バガーズ」や「AMAプロヒルクライム・ツインズクラス」にもインディアンは参戦。長年の雌伏期間の鬱憤を晴らすかのように、モータースポーツの舞台でインディアンは活躍している。
青年期の夢を持ち続けることは、難しいことである。いつか憧れのインディアンオーナーになる夢は、だいぶ昔に捨ててしまっていた。だが、近年のFTR750のレースでの活躍ぶりや、FTR1200などのストリートモデルの評判の良さを聞くと、インディアンというブランドに特別な思い入れがある者として嬉しく思えてくるのだ。
Scout
エンジン:水冷4ストロークV型2気筒 DOHC 排気量:1,133cc
車両重量(満タン):256kg 最高出力:100hp
最大トルク:72ft-lbs(97.7Nm)/6,000rpm
FTR S
エンジン:水冷4ストロークV型2気筒 DOHC 排気量:1,203cc
車両重量(満タン):233kg 最高出力:120hp
最大トルク:87ft-lb(117.9Nm)/6,000rpm
Challenger dark Horse
エンジン:水冷4ストロークV型2気筒 OHC(SOHC) 排気量:1,768cc
車両重量(満タン):377kg 最高出力:122hp
最大トルク:128ft-lbs/3,800rpm
Chief Dark Horse
エンジン:空冷4ストロークV型2気筒 OHV 排気量:1,890cc
車両重量(満タン):304kg
最大トルク:120ft-lbs(162Nm)/3,200rpm
「アメリカの現在・過去・未来」の続きは本誌で
60~70年代に輝いていたアメリカ 後藤 武
フェラーリと対峙した新型コルベット 桂 伸一
アメリカ最古のバイクメーカー インディアンとは何か 宮崎健太郎
これからのアメリカ 桃田健史