アメリカの現在・過去・未来 Vol.3 テスラを知る

文・石井昌道

Cybertruc●テスラ初のピックアップトラック。そもそものピックアップトラックとは似ても似つかないデザインを取り入れ、強靭なボディーとガラスを採用する。ドライブトレーンは1モーター+Rドライブ、2モーター+AWD、3モーター+AWDの3種類をラインアップ予定。

クルマという枠を超えて注目されるEVメーカーテスラ。AppleやGoogleと同じようなイメージを創造したアメリカン・カーブランドを振り返りたい。

 2021年初頭、テスラの時価総額が7,000億ドルの大台を超えたことが大きなニュースとなった。1年での伸び率は約7倍で自動車メーカーとしては世界一。トヨタ、フォルクスワーゲン、GM、フォード、FCA(フィアットクライスラーオートモビルズ、現在はステランティスに統合)、ホンダの合計額を上回るのだから凄まじい。2020年の販売台数でみればテスラは約50万台であるのに対して、前述の6メーカーの合計は約4,400万台にものぼるにもかかわらずだ。時価総額は株価×発行済株式数だから、それだけ市場が将来に期待しているということだ。

 2003年に創業したテスラはアメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコのベイエリア、IT企業などスタートアップの聖地として名高いシリコンバレーが本拠地。最初の製品は2008年発売のテスラ・ロードスターだった。シャシー系の開発はロータスが協力していて、車体はエリーゼをベースとしたもの。EVの心臓部ともいえるバッテリーはノートパソコンなどに用いられる18650という規格品でこれを6,831個も搭載し、53kWhもの驚きの大容量だった。当時はEV普及前夜で、世界初の量産EVである三菱アイミーブ(2009年発売)のプロトタイプの試乗およびロングドライブもしていたが16kWhにすぎなかった。それでも、日本EVクラブで製作したコンバートEVの多くに試乗した経験からいえば、さすがは自動車メーカーが造った最新鋭モデルとして眩しく見えていたのだ。

写真・神谷朋公

 まだテスラ・ジャパンはなかったが、ガリバー・インターナショナルが輸入したロードスターに試乗させてもらったことがある。軽自動車のアイミーブよりもバッテリーを多く搭載するのは難しい車体だから、やはり走らせてみればずいぶんと重心が後ろ寄りになっていたが、ハンドリングはなんとか調教されてスポーツカーとして成立していた。それよりも気持ちが良かったのは0-100㎞/h4秒を切る加速力。とくに出足の鋭さはスーパースポーツ並だった。それでいて約400㎞の航続距離を誇っていたのだからおそれいる。(アイミーブは150㎞ほど)。

 とはいえ、ロータスの車体にノートパソコン用のバッテリーということで、当時の自分はローテクなEVというイメージを持っていた。ところが後に、元・三洋電機のリチウムイオンバッテリーの研究・開発者で、テスラへの18650供給にも携わった雨堤 徹さん(現在はAmaz技術コンサルティング合同会社を率いている)に取材させてもらう機会があり、テスラのバッテリーの使い方は、大手自動車メーカーよりも合理的であるという話を聞いて目から鱗が落ちた思いをした記憶がある。コストや重量を懸念してバッテリー容量をあまり増やさないようにすると、パワー密度にもある程度はこだわらざるを得ない。それよりも大容量にしてしまえば、おのずとパワーも出るのでエネルギー密度重視のバッテリーで事足りる。

写真・長谷川徹

Model 3

テスラの入門モデルとなる小型のEVセダン。ダッシュボードの中央には15インチのディスプレイがあり、スピードや走行距離、オートパイロットやエアコン操作など、全てディスプレイでのタッチ操作で行う。
車両本体価格:5,110,000円~(税込)
航続距離:530km 最高時速:261km/h
0-100km/h:3.4秒
*スペックは「パフォーマンスモデル」

 2012年に発売された完全オリジナルのモデルSもまた18650を搭載していたが、これは衝撃的なモデルだった。同年のロサンゼルス・モーターショー取材時に試乗する機会があったが、速さや航続距離、ハンドリングなどもさる事ながら、17インチの巨大な縦型タッチパネルがセンターに置かれ、物理的スイッチは最小限に抑えられるなど、とにかく新鮮だったのだ。キーは持ってさえいれば、クルマに近づくと自然と解錠され、シートに座ってブレーキペダルを踏み、シフトセレクターをDレンジに入れれば走り出せる。つまり始動する必要はなく、システムのオン・オフ・ボタンさえないのである。既存の自動車メーカーでは考えられない斬新さであり、ガラケーからスマホに換えたときの嬉しさがあった。このガジェット感こそが多くのファンを獲得したのだろう。

 人々が熱狂する商品であれば口コミで売れるから広告は必要ない、ディーラーを持たずにネット販売など、テスラは人件費や場所代、宣伝費といったコストでも既存の自動車メーカーに対して革命的。また、インテリアの物理的スイッチの少なさだけではなく、たとえばECUは一般的な自動車では数十~百数十のところ、最新のモデル3では5個しかなく、ハーネスやヒューズも激減させるなど画期的なエンジニアリングもコストを大きく引き下げている。

 モデル3は世界一売れているEVとなったが、2017年から2019年にかけては生産が上手くいかず納車計画が遅れに遅れ、倒産寸前にまで追い込まれたこともある。ロボットによるオートメーションを極限まで推し進めたことが原因だが、それを解決してからはV字回復。生産方式でもイノベーションを成功させたのだ。

Robotics

8月19日に、CEOのイーロン・マスク氏が行ったプレゼンテーションの中で発表された、ヒューマノイドロボット。身長は約173cm、体重は57kg(思ったより軽い!)20kgの荷物を持ち時速8kmで移動可能、顔部分は情報を表示するディスプレイになっている。’22年の登場予定。

Tesla-semi

テスラが’17年に発表したトラックがこの「セミ」である。車両重量約15トン以上のトラックに分類され、航続距離は約480kmと800kmの2タイプ。’21年現在、生産に遅れが生じているが、CEOのイーロン・マスク氏によると、バッテリー供給の問題で生産をセーブしている模様。

サービス

ディーラー網を持たずに販売するテスラにとって、アフターサービスについてはやや懐疑的な意見が見られる。サービスセンターから遠方のユーザーは陸送費を負担しなければならないなど、今後の対応に期待したい。

 その他にも、倒産の危機は何度もあったが乗り越えてきたのがテスラの歴史。今後の課題は、これまで業績を支えてきたクレジット(温暖化ガスの排出枠)の販売が減っていくことだが、当のテスラもそれは予想していたことであり、モデル3が順調に値下げを敢行してますます販売台数を増やしていることをみても、本業でしっかり利益を出す見込みはあるだろう。コストの1/3を占めると言われるバッテリーは、パナソニック、LG化学、CATLなどと提携しているが、自社開発や生産なども採り入れてサプライチェーンにメスを入れれば、さらなるコスト削減も可能になる。近い将来、2万5,000ドル程度のEVを用意するという話もあながち夢ではないはずだ。

 ガジェット感の強さがテスラの魅力であり強みだが、それは製品のあり方にも表れている。既存の自動車メーカーは徹底的に開発テストをして、問題がないのを確認してから市場投入するが、テスラはパソコンよろしく出してみて問題があれば解決するというスタイルだ。それゆえユーザーが品質に不安を抱くのも確かで、アフターサービスなどにも課題はあるだろう。だが、イノベーションのスピード感は圧倒的。いまやGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)といった巨大テック会社の一角に食い込みテスラを加えてGAFAM+Tと呼ばれるようになったのも頷ける。既存の自動車メーカーもテスラ的手法を研究して採り入れようと躍起であるが、その競争がいい循環サイクルとなればユーザーにとっても大いに歓迎できるものになるはずだ。

Roadster

テスラ初の市販車である初代は、ロータス・エリーゼのプラットフォームがベースだが、2代目は完全オリジナル。頭上のガラスルーフを脱着するタルガトップで4人乗り。
車両本体価格:約¥22,700,000(未定)~ 航続距離:1,000km
最高時速:400km/h以上 0-100km/h:2.1秒

Model X

テスラ初のSUVモデル。上下に大きく跳ね上がる後席のファルコンウィングドア、ルーフにつながるフロントガラスなど、開放感に溢れたユニークなデザインが話題となった。
車両本体価格:10,910,000円~(税込) 航続距離:505km(WLTP)
最高時速:250km/h 0-100km/h:2.9秒
*スペックは「パフォーマンスモデル」

Model S

2013年に日本に導入されたのハッチバックセダン。標準仕様は5人乗り。外部から車内に入る有害汚染物質を99.97%以上防ぐ「対生物兵器モード」を搭載。
車両本体価格:10,170,000円~(税込) 航続可能距離:約610km(WLTP)
0-100km/h加速:2.6秒
*スペックは「パフォーマンスモデル」

Model Y

テスラにとって4車種目の新型コンパクトSUV。航続距離や性能によって4グレードが用意され、2021年に量産開始された。
車両本体価格:未定 航続距離:480km(WLTP) 最高時速:241km/h
0-100km/h:3.7秒
*スペックは「パフォーマンスモデル」

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