岡崎五朗のクルマでいきたい vol.140 電動化モデルに絶対解なし

文・岡崎五朗

 前号では電動車=電気自動車とは限らないと書いた。続編として今回は様々な電動化モデルを解説していこう。

 エンジンと小型モーターを組み合わせたMHEV(マイルドハイブリッド)は主従関係でいけばエンジンが主。メリットはコストの安さだが、燃費改善効果も5%程度にとどまる。分類上は電動車となるため日本政府が打ち出した「2035年エンジン車廃止」の対象からは外れる。マイルドハイブリッドより強力なモーターをエンジンと組み合わせたのがハイブリッド(HEV)。代表的なのはエンジンの出力を駆動と発電の両方に使うトヨタのシステムだが、エンジンを発電専用にしてモーターのみで走る日産のe-powerもハイブリッドの一種だ。燃費を大幅に向上できる反面、給油さえすれば走れるため利便性も高い。現在もっとも現実的なエコカーである。プラグインハイブリッド(PHEV)は、いわば充電できるハイブリッド。ハイブリッドより大きめのバッテリーに外部充電することでモーターのみで数十km走行でき、バッテリーを使い果たしてもエンジンで走り続けられる。ただし充電しないで使ったり頻繁に長距離走行をしたりすると重くて燃費が悪くて値段の高いハイブリッド車になってしまう。レンジエクステンダーEV(REEV)はPHEVに近いが、搭載するのが小型発電用エンジンなのでバッテリーが切れると極端に動力性能が低下する。一方、バッテリーのみで走行するバッテリーEV(BEV)は、大型バッテリーのコストや充電時間に課題を残すものの、再エネ由来の電力を使えばカーボンフリーを達成できる。水素燃料電池車(FCEV)も再エネによる水の電気分解で水素を生成するようになればカーボンフリーが可能で、かつクイックチャージや大型トラックとの親和性の高さも魅力だ。課題は水素ステーションの少なさやコストの高さ。

 このように電動車には様々な種類があり、加えて二酸化炭素を出さない合成燃料を使ったエンジン車という選択肢もある。こういった多くの選択肢の中からユーザーや地域によって異なる最適解を選んでいくのが二酸化炭素排出量をもっとも効果的に減らす方法だというのが僕の考えだ。


TOYOTA MIRAI
トヨタ・MIRAI

オーナーの僕の感想と3分でフル充填

 前号では僕がMIRAIを買った理由を書いた。今回は納車され普段の足として使い始めた経験をもとにしたオーナーズレポートを書くことにする。1月末の納車から約1ヶ月。走行距離は1,500kmを超えたが、改めて報告したいのが圧倒的な快適性だ。静かで滑らかで乗り心地がいいだけでなく、直進安定性は優秀だし、シートの座り心地も極上。長距離ドライブ時の疲労感は驚くほど小さい。

 とはいえそこはほぼ予想通り。いい意味で予想を裏切ってくれたのが街中での楽しさだ。全長4,975mm、全幅1,885mmというサイズが苦ににならないといえば嘘になるが、そこは複数のカメラが効果的にカバーしてくれるから案外気にならない。それよりも気に入ったのが加速フィールだ。パワースペックは182ps/300Nmという平凡なものだが、発進から80km/hまでのダッシュ力はかなり力強いし、ターボラグやシフトダウンのタイムラグがまったくない優れたレスポンスも気持ちいい。試乗したら、おそらくほとんどの人が「想像以上に速いね」と感じるだろう。

 これまでの平均燃費は水素1kgあたり90km。タンク容量は5.6㎏だから90×5.6で航続距離は約500kmとなる。この数値はそれなりに加速を楽しみながら走った結果で、丁寧に走ればカタログ数値の750kmも十分狙えることを付け加えておこう。水素の価格は1kgあたり1,210円だから、走り方にもよるが、ざっくりリッター10km走るレギュラーガソリン車と同等となる。

 嬉しいのは3分でフル充填できること。燃料電池バスに続いて充填した際にはステーション側の圧力低下の影響で時間がかかったが、それでも5分程度で終わった。この速さがEVに対する最大のアドバンテージだ。水素ステーションはまだ162カ所しかないが、2025年には320ヶ所に増え、来年には24時間営業の店舗もオープンする予定。FCEVの使い勝手は今後どんどんよくなっていく。

トヨタ・MIRAI

車両本体価格:¥7,100,000~(税込)
*諸元値はZ
全長×全幅×全高(mm):4,975×1,885×1,470
車両重量:1,930kg 定員:5名
【モーター】
最高出力:134kW(182ps)/6,940rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/0~3,267rpm
燃料消費率:135km/kg(燃料電池車・WLTCモード)
一充電走行距離:750km(参考値)
駆動形式:後輪駆動

BMW 4SERIES COUPE
BMW・4シリーズ クーペ

新アイコンを纏った美しきクーペ

 「ああ、やっちゃったな」と思った。4シリーズクーペの鼻先には当然ながらBMWのトレードマークであるキドニーグリルが付いている。が、その形がなんとも異様なのだ。アウディのシングルフレームグリルやレクサスのスピンドルグリルなど、とくにプレミアムブランドでは近年「顔競争」が繰り広げられている。BMWも例外ではなく、キドニーグリルをどんどん大きくしてきているが、それは主に横方向への大型化であって縦方向ではなかった。ところが4シリーズクーペのキドニーグリルはご覧の通り。フロントバンパーを跨ぐ形で大口を開けている姿に拒否反応を示す人も少なくないだろう。

 ところが不思議なもので時間が経つほどに違和感は減っていき、試乗を終えた頃には「これもありかもね」と思いはじめていた。そうなると今度はロングノーズ&ショートデッキの美しいプロポーションに目が行くようになり、とても美しいクルマだなと思えるようになった。もちろん、最後まで馴染めない人もいるだろうが、少なくとも僕は受け容れたことを告白しておく。

 試乗したのは3ℓ直6ターボ(387ps)に4WDを組み合わせたM440ixdrive。このストレートシックスは速いだけでなく最高に官能的だ。とはいえ価格は1,000万円オーバー。約600万円の2ℓ4気筒ターボ(184ps)モデルとの間に、出力を280ps程度に抑えたストレート6の後輪駆動を加えて欲しいところだ。

 シャシーの基本構成は3シリーズセダンと共通だが、ボディ剛性を大幅に引き上げた結果、よりシャープでスポーティーな身のこなしを実現。ワインディングロードはもちろん、街中でも一段と切れ味を増したフットワークを楽しめる。そうそう、実用的な後席&荷室スペースをもっているのも4シリーズクーペの特徴だ。SUV全盛のいま、あえてクーペを選ぶのはとても素敵なアイディアだと思う。

BMW・4シリーズ クーペ

車両本体価格:¥5,770,000~(税込)
*諸元値はM440i xDrive
全長×全幅×全高(mm):4,775×1,850×1,395
エンジン:直列6気筒DOHC
総排気量:2,997cc 定員:4名
最高出力:285kW(387ps)/5,800rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1,800~5,000rpm
燃費:11.2km/ℓ(WLTCモード)
駆動形式:四輪駆動

TOYOTA GR YARIS
トヨタ・GRヤリス

飛ばさなくても楽しめる「本物感」

 GRヤリスはWRC(世界ラリー選手権)で勝つために開発された特別なヤリスだ。標準のヤリスが4ドアであるのに対しGRヤリスは空力性能を追求した2ドア。全幅も標準に対して110mm増えている。フェンダー、とくにモリモリと膨らんだリアフェンダーの迫力はそうとうなもの。フロントまわりのメカニズムは標準ヤリスと同一系だが、リア周りはひとクラス上のカローラ系をベースにした専用設計となっている。エンジンも専用設計で、1.6ℓ3気筒ターボという平凡なスペックから、272ps/370Nmという非凡なアウトプットを絞り出す。

 そして仕上げは高度な技を持つ職人による生産。GRヤリスを製造するGRファクトリーではひとつひとつのパーツのバラツキが測定され、最適なパーツどうしを組み合わせることで、量産車ではあり得ない組み付け精度を実現している。これはワンメイクレースの常勝チームがやる手法だ。量産車に付きもののバラツキをなくすため、エンジンやシャシーをいったんバラしてバランスをとり、腕利きのメカニックが丁寧に組み直すことで設計値通りの性能を引き出す。改造ではないからルール違反にはならないが、パフォーマンスは明らかに上がる。これを工場レベルで実現しているのがGRファクトリーである。

 そう考えると、330~456万円という価格は間違いなく大バーゲンだ。実際、GRヤリスは速いだけでなく、走りの質がべらぼうに高い。街中で段差をトンッと乗り越えたときに感じる圧倒的なボディの剛性感や、しなやかな足の動きから伝わってくるのは尋常ではないほどの「本物感」。つまり、飛ばせばべらぼうに楽しいが、飛ばさなくても楽しいクルマに仕上がっているということだ。

 GRヤリスには、標準ヤリスと同じ1.5ℓ自然吸気3気筒(120ps)にCVTを組み合わせ前輪を駆動するRSグレード(265万円)も用意されているが、このお手軽モデルでもその魅力の一端はきちんと味わえる。

トヨタ・GRヤリス

車両本体価格:¥2,650,000~(税込)
*諸元値はRS
全長×全幅×全高(mm):3,995×1,805×1,455
エンジン:直列3気筒
総排気量:1,490cc 車両重量:1,130kg 定員:4名
最高出力:88kW(120ps)/6,600rpm
最大トルク:145Nm(14.8kgm)/4,800~5,200rpm
燃費:18.2km/ℓ(WLTCモード)
駆動形式:前輪駆動

SUZUKI SOLIO
スズキ・ソリオ

コンパクでも荷室・室内は文句なしの広さ

 SUV全盛とはいうものの、ミニバンは依然として高い人気を誇っている。軽自動車ではN-BOXやタントといったスーパーハイト系が主流だし、登録車でもセレナやヴォクシーの人気は根強い。であるならコンパクトカーにもミニバンがあっていいのでは? という発想から生まれたのがソリオだ。いまでこそ同ジャンルにトヨタ・ルーミー/ダイハツ・トールが参入しているが、それまでこのジャンルはソリオの独壇場だった。

 最大の特徴はコンパクトさ。新型はユーザーからの要望が強かったラゲッジスペースの拡大に応えるべく全長を80mm延長してきたものの、それでもたったの3,790mm。ヤリスより15㎝短いといえばいかにコンパクトかがわかるだろう。さすがにこの全長に3列シートをレイアウトするのは無理だが、室内は文句なしに広い。156mmスライドするリアシートをもっとも前方にセットしても膝周りはゆったりしているし、もっとも後ろまでスライドすればリムジン並みの空間が現れる。

 とはいえ全長方向のゆとりはいまどきの背高軽自動車も十分すぎるほどある。軽ではないソリオのメリットは横方向のゆとりだ。運転席と助手席の間隔が大きいため肘がぶつかり合うことはないし、後席の3人掛けもできる。ただしリア中央席に人を乗せるのはあくまで緊急時のみに限定したほうがいい。というのもヘッドレストが付いていないからだ。ヘッドレストがない席で追突されたらあっけなく首を痛めることになる。真ん中で分割される可倒式にした影響だが、どのような形であれ定員分のヘッドレストは絶対に付けるべきだ。

 プラットフォームは先代からのキャリーオーバーだが、弱点だったリアサスの動きを改善したことで乗り心地はかなりよくなった。小型モーターを組み込んだ1.2ℓエンジンとCVTのマッチングもいい。優れた日常の使い勝手を実現しつつレジャーにも対応できる汎用性の高さが魅力の1台だ。

スズキ・ソリオ

車両本体価格:¥1,515,800~(税込)
*諸元値はHYBRID MX/2WD・CVT
全長×全幅×全高(mm):3,790×1,645×1,745
エンジン:水冷4サイクル直列4気筒
総排気量:1,242cc 車両重量:1,000kg
定員:5名
【エンジン】
最高出力:67kW(91ps)/6,000rpm
最大トルク:118Nm(12.0kgm)/4,400rpm
【モーター】
最高出力:2.3kW(3.1ps)/1,000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgm)/100rpm
燃費:19.6km/ℓ(WLTCモード)
駆動形式:2WD

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

定期購読はFujisanで