岡崎五朗のクルマでいきたい vol.137 正当な要求

文・岡崎五朗

 自動車メーカーで構成する日本自動車工業会が自動車税制に関する要望を発表した。

 内容は減税や補助金の拡大が柱で、細かく書いていくとキリがないが、主なものを列挙すると以下のようになる。①取得税に代わり導入された環境性能割の軽減税率維持、②エコカー減税制度の維持&対象拡大、③自動車重量税の減税、④次世代環境車(EV、PHV、FCV、クリーンディーゼル)の免税措置継続と補助金増額、④サポカー補助金の対象を65歳以上から全年齢に拡大、といったところ。こうして列挙すると、おねだりが多いなと思う人もいるかもしれない。たしかに、道路の建設や整備、老朽化した橋やトンネルの整備などにお金がかかる以上、自動車ユーザーがそれに見合う税金を支払うのは当然のことだ。とくにクルマを持っていない人からしてみれば、とにかく税金を安くしてくれというのは少々ムシのよすぎる話しだと思えるのではないだろうか。

 でもちょっと待ってほしい。税金を払うのは国民の義務だが、それは「サービスに見合った額なら」という前提があっての話しだ。その点、日本の自動車関連税は諸外国と比べて明らかに高すぎる。自動車ユーザーが2019年に支払った税金は税収全体の14%にあたる9兆円で、所得税(20兆円)、消費税(19兆円)、法人税(13兆円)と並ぶ国の収入の大きな柱になっている。240万円のクルマを買って13年乗ったときの税額は180万円に上り、これは諸外国と比べて圧倒的に高い。とくに保有にかかる税金が米国の30倍、ドイツの4.8倍と高いのが日本の特徴だ。財務省は7年間保有という実態にそぐわないグラフを出して日本の自動車関連税は安いとアピールしているが、廃車になるまでの平均期間が13年であることを考えると完全な詭弁。しかも日本のユーザーには高額な高速道路代という隠れ税金も課せられている。そう、日本の自動車関連税は間違いなく高い。したがって自工会の要望は決しておねだりでもムシのいい話でもはない。不当に高い税金を負担させられている自動車ユーザーの軽減負担、さらに言えばこの国の基幹産業である自動車産業の競争力を高めることにもつながる、まったくもって正当な要求なのである。


MAZDA MX-30
マツダ・MX-30

“観音開き”ドア採用の舞台裏 

 MX-30というとフリースタイルドアが注目されがちだ。通常は前方にあるリアドアのヒンジを後方に移動し観音開きにしたこのドアをマツダは「フリースタイルドア」と呼んでいる。ネット上ではこのフリースタイルドアについて「便利だ」「いやいや不便だ」といった論争が起きているが、そこは実のところ本質ではない。僕からすれば、便利な部分もあるが不便な部分のほうが多いかな、程度の話しである。むしろ重要なのは、なぜマツダがMX-30にフリースタイルドアを与えてきたのかという点。まずはそこを理解したうえで、ではその「理由」に多少の不便に目をつむるだけの価値があるかどうかを見極めるのが本質的な議論である。

 フリースタイルドアを採用した理由は、後席への乗り降りの際に頭を通す位置を前方に移動させたかったからだ。逆に言うと、頭を通す位置を前方に移動させることでリアピラーを太く、かつ大胆に傾斜させることができた。これで前ヒンジのドアだったらかなり窮屈な乗降姿勢を強いられることになる。つまり、従来のSUVとはひと味違うデザインを与えることがまずは目的として存在し、それによって生まれるデメリットを回避するための手段としてフリースタイルドアが与えられたというわけだ。

 ここで写真をもう一度見て欲しい。短いルーフと強く傾斜したリアピラーが生みだすクーペのようなルックスに魅力を感じるかどうか。もしNOなら話しはここでお終い。しかしYESならこの先を読む価値がある。不便なのはリアドアだけを独立して開閉できないこと。また、後席の窓は小さくしかも開閉できないため閉塞感が強い。しかしスペース的には十分だし、使い勝手も2ドアクーペよりはずっと優れている。国産トップと言ってもいいセンスのいいインテリアを含め、MX-30は感性を重視したクルマ選びをする人にオススメしたいクルマだ。

マツダ・MX-30

車両本体価格:2,420,000円~(税込)
*諸元値は2WD(FF)
全長×全幅×全高(mm):4,395×1,795×1,550
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,997cc 車両重量:1,460kg
【エンジン】最高出力:115kW(156ps)/6,000rpm
最大トルク:199Nm(20.3kgm)/4,000rpm
【モーター】最大出力:5.1kW(6.9ps)/1,800rpm
最大トルク:49Nm(5.0kgm)/100rpm
燃費:15.6km/ℓ(WLTCモード)
駆動形式:2WD(FF)

SUBARU LEVORG
スバル・レヴォーグ

一球入魂のステーションワゴン

 テストコースの試乗で度肝を抜かれ、サーキット試乗でポテンシャルの高さを再確認し、公道試乗でしみじみいいクルマだなと思った。新型レヴォーグはスバルが放つ一球入魂のステーションワゴンだ。

 レガシィが海外市場を重視し大型化したのを受け、国内専用モデルとして登場したのが先代レヴォーグ。今回ボディサイズは少し大きくなったが、それでも全幅を1,800mm以下に抑えるなど日本市場を意識したパッケージングは継承している。継承といえばエクステリアデザインも先代からのキープコンセプトだが、実車を見ると写真以上に新しさが感じられる。ヘッドライトやリアコンビランプはぐんとモダナイズされたし、面の表情やフェンダー周りの処理も上質になった。従来は中途半端な位置で切れてしまっていたサイドウィンド下のクロームモールがきちんと後方まで伸ばされたのも上質感を高めている理由だ。ただしインタークーラーに風を導入するために設けたフロントフード上のエアスクープが依然として残っているのは意見が分かれるところだろう。迫力があっていいと感じる人もいれば、ビジーだと感じる人もいるはず。僕は後者の立場だ。

 フルデジタルメーターと縦型大型スクリーンを組み込んだインテリアも新鮮だ。先代では統一感に欠けていた表示位置や操作ロジックもずいぶん整理された。なによりいいなと思ったのは徹底的な死角潰しに対するスバルのこだわり。360度に渡る視認性の高さは乗っていて安心できるし気持ちもいい。

 フルインナーフレーム構造による高いボディ剛性やパワーステアリングの滑らかな操舵フィール、応答遅れを限りなく減らしたハンドリングをはじめとするシャシー性能の高さは感動レベル。運転の達人の横に乗っているような安心感を味わえるアイサイトXの運転支援も素晴らしい。将来追加されるであろうハイブリッドモデルの登場も楽しみだ。

スバル・レヴォーグ

車両本体価格:3,102,000円~(税込)
*諸元値はGT-H
全長×全幅×全高(mm):4,755×1,795×1,500
エンジン:水平対向4気筒1.8ℓDOHC直噴ターボ”DIT”
総排気量:1,795cc 車両重量:1,570kg
最高出力:130kW(177ps)/5,200~5,600rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1,600~3,600rpm
燃費:13.6km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:AWD(常時全輪駆動)

PEUGEOT SUV 2008
プジョー・SUV 2008

ラゲッジ容量は208の1.6倍!

 プジョー2008は、同208と同じプラットフォームを使って作られたSUVだ。正式名称は「SUV2008」。プジョーの場合、中央2つが0の4ケタ数字はSUVを意味するので、SUV2008は「頭痛が痛い」みたいでちょっとカッコ悪い。そこまでしてSUVであることをアピールしたがるあたりに現在のSUV人気の高さが表れている。

 ひとあし先にデビューした208は世界でもっともスタイリッシュなコンパクトハッチだと思う。すっかり子離れした僕なら2008ではなく208を選ぶだろう。とはいえ、ファミリー層にとって208のユーティリティーは少々頼りない。大きなベビーカーを積み込んだり家族で旅行に行ったりした場合、もうひと回り大きなラゲッジルームがあればいいなと感じるケースは多いはずだ。その点、2008のラゲッジ容量は434リッターと、208の約1.6倍もある。後席を倒せば最大1,467リッターまで拡がるから、ファミリー層だけでなく、キャンプや釣りやスポーツなど荷物が嵩ばりがちな趣味をもっている人にとっても2008のユーティリティは心強い存在になる。ホイールベースを70mm延長したことによる後席の広さも2008のアドバンテージだ。

 エンジンは208と同じ1.2ℓ3気筒ターボだが、110㎏の重量増に対応するべく最高出力は30psアップの130psに、最大トルクも25Nmアップの230Nmに強化した。実際、4人乗車プラスそれなりの荷物を積み込んで走っても動力性能は余裕たっぷりだ。スポーツカー顔負けの加速をするわけではないけれど、高速道路や上り勾配を含め、遅いと感じることはない。フットワークも上々で、とくに荒れた路面での乗り心地は208よりもマイルドで好ましいと感じた。価格は208に対して40万円アップだが、1クラス上の車格感を含めコストパフォーマンスは高い。航続距離385km(JC08)のEV仕様、e2008も選択できる。

プジョー・SUV 2008

車両本体価格:2,990,000円~(税込)
*諸元値はSUV 2008 GT Line
全長×全幅×全高(mm):4,305×1,770×1,550
エンジン:ターボチャージャー付直列3気筒DOHC
総排気量:1,199cc 車両重量:1,270kg
*パノラミックサンフール車は1,300kg
最高出力:96kW(130ps)/5,500rpm
最大トルク:230Nm/1,750rpm
燃費:17.1km/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動

BMW ALPINA B3
BMW・アルピナB3

洗練された優雅さと高性能の両立

 ほとんどの人はアルピナを「高価で高性能な特別なBMW」と認識していると思う。しかしそれは半分は当たっているが半分は外れている。たしかにアルピナは高価で高性能な特別なBMWだが、方向性が独特だ。同じ3シリーズベースの高性能モデルでも、BMW自身が手掛けるM3とアルピナが手掛けるB3では味付けがまったく違う。レーシングカー的な刺激性を市販車に反映したのがM3だとすれば、どんなシーンでも優雅さを失わない高度な洗練を備えるのがB3である。

 B3が積む3ℓ直6ターボは462ps/700Nmというとてつもないパワースペックを誇るが、荒々しさはまったくない。回転フィールもトルクの出方もきわめてスムース、かつサウンドもジェントルだ。組み合わせるトランスミッションがトルコン式AT(M3はDCT)であることもM3とのキャラクターの違いを如実に表している。発進直後や車庫入れといった低速域でもトルコン式ATは優雅に振るまい、決して無作法をしない。途方もない加速を見せつけつつも、ゴーとかガツンとかザーとかギューンといった濁点成分を完璧に排除しているのだ。足回りにも同じことが言える。足は低速域からしっとりと滑らかに動き、たとえオプションの20インチタイヤを選んでも段差の乗り越えはスムースそのもの。それでいて不安定な動きは一切見せない。こうした洗練と高性能の見事な両立こそがアルピナ最大の美点だ。

 いったいどんな設計をしたらこんな魔法のようなクルマができるのか? BMWにすら解明できない秘伝のレシピをもっているからこそBMWは一切の資本関係をもたないアルピナ社に特別待遇を与え続けているのだろう。アルピナの年間生産台数はわずか1,700台。そのうちの25%が日本で販売される。アンダーステートメントを地で行くアルピナのようなクルマを受け容れているのは成熟したクルマ文化の証。日本も捨てたもんじゃない。

BMW・アルピナB3

車両本体価格:12,290,000円~(税込)
*諸元値はALPINA B3 LIMOUSINE Allrad(AWD)
全長×全幅×全高(mm):4,720×1,825×1,445
エンジン:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2,993cc 車両重量:1,840kg
最高出力:340kW(462ps)/5,500~7,000rpm
最大トルク:700Nm/2,500~4,500rpm
0-100km/h加速:3.8秒
巡航最高速度:303km/h

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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