前衛的な技術で造られたパイオニアであっても、レーシングシーンにおいて偉大な記録を遺したクルマだったとしても、それだけでは名車と呼ばれることはない。
ましてマーケティング戦略で作られたブランディングから名車は生まれて来ない。
クルマの価値や評価は発売された時代やその背景によって変わってくるものであり、常に移ろいでいくからだ。
名車と言われるクルマの多くは、どれだけ人に感動や影響を与えてきたのかで決まっていくように思う。
次期Zは、名車になりうるのか
極めて個人的な見解ではあるが、日本が生んだ世界的名車であり、ちゃんとお金が取れるプロフェッショナルなスポーツカーと言えば、私はマツダ・ロードスター(初代はユーノス・ロードスター)と、日産フェアレディZの2台に尽きると考えている。トヨタ2000GTやホンダNSXがあるじゃないか? トヨタにはスープラやMR2、ヨタハチなどもあるし、ホンダ・ビートやスズキ・カプチーノもある。パフォーマンスやアーティステックな美しさで言えば、一部は冒頭の2台を上回ると考える人もいるだろう。
だが私に言わせると上記2台と他のクルマは人気漫画家と画家ぐらい違う存在だと考えている。あるいはちゃんとチケットや広告収入で食える大衆エンタテイメントと、一部パトロンに支えられるアートの違いだ。アスリートで言えば、メジャーリーグで活躍したイチローや松井秀喜と、コアなファンに支えられたバレリーナ。それはなによりも圧倒的な販売実績と分かり易い芸風だ。
マツダ・ロードスターは、ユーノス・ロードスターの名で1989年に生まれ、31年間4世代のモデルで歴史を繫いできた。それだけじゃない。2000年には累計53万台余でギネス認定の「2人乗り小型オープンスポーツカー生産累計世界一」になり、2016年には累計100万台を突破。今ではおそらく110万台に迫るか越えていると思われる。
かたや日産フェアレディはそれ以上だ。今から51年前の1969年に生まれ、今回登場すれば7世代目。正確にはZ32が2000年に生産終了し、’02年にZ33が生まれるまで少し休んでいたようだが、トータル約50年間も作り続けられ、開発担当者の田村氏によれば累計180万台。これは基本コンセプトが変わらないスポーツカーとしては世界最多レベルだ。フォード・マスタングやシボレー・カマロには負けるかもしれないがそれでも素晴らしい。数年作っては10年も経たずに生産を中止するスポーツカーや、初代NSXのように16年も作って累計2万台もいかないアマチュアみたいな存在のスーパーカーとはそもそもの覚悟が違う気がする。
スポーツカーとは、一般的セダンやミニバンと同程度の路上面積やそれ以上のガソリンを燃やしつつ、2人程度しか人が乗れない贅沢なものだ。自ずと販売台数は限られ、真のプロフェッショナルしか長くは生き続けられない。
よって世間一般にスポーツカーと呼ばれるものの中には、実は「会社のイメージリーダー」として存在できてたり、作り手の自己満足だったりすることも多い。敢えて厳しく言うならアマチュア劇団員であり歌手のようなものだ。単独ではビジネスとして成立しないが、身内から援助を受けて生きながらえている。残念ながら日本のスポーツカーはその傾向が強い。だが、真の自動車エンタテイメントして客から料金を取り、プロとして生き続けるスポーツカーもある。それが私が考える本当のスポーツカーであり、真の走り芸と美しさを持っているクルマなのだ。それこそがロードスターとフェアレディZなのである。
かたや1トン前後のライトウェイトオープン、かたや1.5トン前後のミディアムFRスポーツとして存在感は違う。だが、両者はどちらも自分らしい“型”を持っている。それはデザインもさることながら、ロードスターなら1トン前後の超軽量ボディと軽い幌で実現する、バイクもビックリの人馬一体感だ。
一方、Zの型はアメリカ人受けする典型的なFRロングノーズフォルムと当初は直6エンジン、リーズナブルな価格だった。しかし既に直6はV6に変わり、クルマはかつてほど安く出来ない時代に差し掛かっている。
そもそもベースのFRセダン、スカイラインでさえ400万円以上する時代だ。次期Zが500万円近くする可能性は否定できず、手軽な価格で、ジャガーに匹敵する大陸的スポーツカーが手に出来る時代ではない。そういう意味で、フェアレディZがますます継続が難しいクルマになっているのは間違いない。しかし次期Zは、スカイラインのソリューションを使って手軽に作り、スタイルも初代の韻を踏んで典型的で伸びやかなFRフォルムになる。型は守られた。後はファンが本当に付いてくるか来ないかだけなのだ。
ニッサン フェアレディZ プロトタイプ
S30(1969-1978)
S130(1978-1983)
Z31(1983-1989)
Z32(1989-2000)
Z33(2002-2008)
Z34(2008-)
特集「名車はかくして創られる」の続きは本誌で
名車はかくしてつくられる 嶋田智之
次期Zは、名車になりうるのか 小沢コージ
名車と迷車は紙一重 後藤 武
継承と革命の融合 河野正士
迷車はかくして創られる
加速するカーデザインの未来 今井優杏