いつかはこういうときが来ると思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思っていなかった。
今号で紹介する4台はすべて電動車。しかも日本で広く普及しているハイブリッドではなく、プラグインハイブリッド、バッテリーEV、FCEV(水素燃料電池)である。二酸化炭素排出量の削減や都市部の大気汚染問題といった社会的要請は強まることはあれど弱まることはないから、今後も電動化のニーズとニュースは増え続けるだろう。しかし読者の方にぜひ知っておいて欲しいのは、ネットやテレビで報道されるニュースには間違いが多いということだ。
9月29日に朝日新聞デジタルが配信した「トヨタ2025年に電気自動車の世界販売550万台を達成へ」という記事がその典型例だ。正しくは「ハイブリッドを含めた電動車が550万台」であり、そのうちEVはFCEVとあわせて100万台に過ぎない。ロイターの原文中にある「electrified vehicles=電動車」をロイタージャパンが「電気自動車」と誤って翻訳し、それをそのまま朝日新聞が掲載した結果の大誤報。これが何を意味するかというと、ロイタージャパンにも朝日新聞にも、①電動車にハイブリッドが含まれること、②2017年にトヨタが発表した電動車普及計画の内容、③そもそもあと4年で550万台のEVなんて無理に決まっているという常識、を理解している人がいないということだ。そんなメディアの報道を信じることなんてできるはずがない。
もう一点、知っておいて欲しいのは、どの電動車が天下を取るかという議論にはほとんど意味がないということ。テスラCEOのイーロン・マスクは燃料電池(フューエルセル)をフールセル=バカな電池と揶揄したが、電池の缶詰としての水素には大きな可能性があるし、大型車両にも適している。同様にEVにもPHEVにもハイブリッドにも、さらに言えばガソリンにもディーゼルにもそれぞれ一長一短があり、重要なのはクルマのコンセプトやユーザーのニーズによって使い分けていく「適材適所」思想である。そう、正解は一つじゃない、がこれからの正解。クルマ選びはますます楽しくなりそうだ。
HONDA Honda e
ホンダ Honda e
発売前から受注ストップの人気ぶり
ホンダeの航続距離はベースモデルで283㎞、上級グレードのアドバンスで259㎞に過ぎない。イマドキのEVは少なくとも300㎞超えが常識であるからして、航続距離を伸ばすことに腐心している多くのEVとは目指す方向がちょっと違う。じゃあその目指す方向とは何か? ホンダeが狙ったのは「街中ベスト」だ。ガソリン車と張り合うために大量のバッテリーを積むのではなく、EVのメリットが最大限活かされる街中での楽しさや快適性、扱いやすさを追求しようと。結果、コンパクトなボディの後部にモーターを搭載して後輪を駆動するRRレイアウトが導き出された。エンジンやトランスミッション、ドライブシャフトといった制約から解き放たれた前輪は信じられないほど大きく切れ、その結果、最小回転半径4.3mという軽自動車もビックリの小回り性を実現した。フルロックまで切って曲がっているときのコマのような感覚はかなり新鮮だ。
とはいえ、単なるエコで便利な道具で終わっていないのがホンダeのユニークなところ。ピュアなのにきちんと表情のあるデザインは幅広い層から歓迎されているし、仕立てのいい空間に液晶モニターを5枚並べた斬新なインテリア、自然言語で操作できるインフォテインメントも魅力的だ。加えて走りもなかなかの実力。太いトルクを瞬時に、かつスムースに生み出せるという電気モーターならではの特性を活かした気持ちのいい加速フィールは、高い質感と楽しさをこのコンパクトなボディに与えている。
プロダクトとしては文句なしに魅力的。しかし気になるのは500万円に迫る価格だ。端的に言えばスペックに対して高いため、需要は富裕層のセカンドカーがメインになるだろう。そのあたりはホンダも重々承知で年間予定販売台数の設定はわずか1,000台。ホンダeはEVの魅力とEVビジネスの難しさが同居したモデルと言えそうだ。
ホンダ Honda e
*諸元値はHonda e Advance
全長×全幅×全高(㎜):3,895×1,750×1,510
車両重量:1,540kg 定員:4名
最高出力:113kW(154ps)/3,497~10,000rpm
最大トルク:315Nm(32.1kgm)/0~2,000rpm
一充電走行距離:259㎞(WLTCモード)
駆動方式:後輪駆動
TOYOTA MIRAI Concept
トヨタ MIRAI Concept
新型ミライは12月発表予定
2019年の東京モーターショーに展示されたFCEV(水素燃料電池車)、新型ミライがついに市販化される。新型はレイアウトを完全刷新して後輪駆動になり、航続距離は650㎞から850㎞へと増えた。わずか3分という素早い充填時間や、経年劣化による航続距離の減少がほとんどないのもバッテリーEVに対す最大のメリットだ。一方、デメリットとなるのが水素ステーションの少なさ。現在4大都市を中心に131カ所が開業しているが、ガソリンスタンド(3万カ所)や急速充電器(7,700基)と比べるとまだまだ少ない。とはいえ、その関係は卵とニワトリと同じ。FCEVが増えなければ水素ステーションの増加も望めない。
そこでトヨタがこだわったのが「売れる」こと。写真を見れば一目瞭然だが、先代と比べると圧倒的にスタイリッシュだし、インテリアのクォリティもまるで別モノ。手作りに近かった製造方式を見直しクラウンと同じ量産ラインで組み立てることでコストも大幅に削減した。原稿執筆時点で価格は発表されていないが、トヨタグループ最上級のプラットフォームを使いつつ先代より安くなるというから驚きだ。しかしもっと驚いたのは走り。テスラのようなドッカン加速こそ望めないものの、常用域での力強さはスペック(182ps/300Nm)から受ける印象以上。静粛性も素晴らしいし、とくに乗り心地とハンドリングに関してはLSを置き去りにするほどの出来映えを見せる。「この走り味を実現するためにあえてSUVではなくセダンにした」「FCEVが欲しいから、ではなくミライが欲しいからと言ってもらえるようなクルマにしたかった」という開発陣のコメントは100%額面通りに受け取っていい。贔屓目に見てもミライのドライブフィールはトヨタ車のなかで文句なしのトップ。補助金を含めればクラウンと同程度の価格で手に入るとなれば心惹かれる人はきっと多いだろう。
トヨタ MIRAI Concept
全長×全幅×全高(㎜):4,975×1,885×1,470
ホイールベース:2,920㎜
定員:5名
航続距離:約30%延長(従来比)
駆動方式:後輪駆動
*社内測定値(10月30日時点)
VOLVO XC40
Recharge Plug-in hybrid T5 Inscription
ボルボ XC40
Recharge Plug-in hybrid T5 Inscription
主力モデル・XC40にPHEV登場
ボルボのベストセラーモデル、XC40に新たにPHEV(プラグインハイブリッド)モデルが加わった。正式名称は「XC40リチャージ・プラグインハイブリッドT5インスクリプション」。たしかボルボはいままでPHEVをツインエンジンと呼んでいたよね? と思った方は鋭い。リチャージと改称したのはつい最近のことだ。
PHEVも内燃機関+電気モーターという二つの動力源=ツインエンジンで走るクルマだが、その論法だと普通のハイブリッドもツインエンジンになってしまう。そこでボルボは「外部充電できるかできないか」に着目し、できるモデルとできないモデルに分類。そのうえで前者、つまりEVとプラグインハイブリッドに「リチャージ」というサブネームを付けることにした。今回はリチャージ・ハイブリッドだが、今後登場予定のバッテリーEVは「リチャージEV」となる。バッテリーEVにプラグインハイブリッドにストロングハイブリッドにマイルドハイブリッドに水素燃料電池と、クルマの電動化技術は多岐にわたる。クルマ情報に疎い人にとっては理解を超える複雑さだ。そう考えると、外部充電の可否というシンプルな分類はなかなかわかりやすいアイディアだと思う。
XC40リチャージPHEVのエンジンは新開発の1.5ℓ3気筒ターボ。このエンジンはモジュール設計で、他のボルボが採用している2ℓ直4と基本部分を共有しつつ1気筒削り取ったものとなる。PHEVなのでバッテリーが残っているうちは基本モーターのみで走り、エンジンがかかるのはバッテリーを使い切ったとき(航続距離は41㎞)、もしくは強い加速が必要なときのみ。モーター走行時の動力性能は十分(最高速135㎞/h)だし、エンジンがかかってもこの3気筒は驚くほど静かでスムースだ。4WDの設定はないものの、家に充電設備がある人にとってはベストXC40だと思う。
ボルボ XC40 Recharge Plug-in hybrid T5 Inscription
全長×全幅×全高(㎜):4,425×1,875×1,660
エンジン:水冷直列3気筒DOHC12バルブ(インタークーラー付ターボチャージャー)[ガソリン]+電気モーター
総排気量:1,476cc
車両重量:1,810kg
[エンジン]
最高出力:132kW(180ps)/5,800rpm
最大トルク:265Nm(27.0kgm)/1,500~3,000rpm
[モーター]
最高出力:60kW/4,000~11,500rpm
最大トルク:160Nm/0~3,000rpm
燃費:14㎞/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:前輪駆動
BMW X3 xDrive30e
X3初のPHEV発売
BMWのX3にもPHEVが加わった。このところヨーロッパメーカーから次々にPHEVが投入されているのは環境対策のため。欧州委員会は自動車メーカーに対し、域内で販売する乗用車の平均二酸化炭素排出量を2021年までに走行1㎞あたり95グラム以下にすることを義務付けていて、これを破れば高額な罰金が科される。しかし問題は排出量ゼロのEVがそれほど売れないこと。そこでPHEVの出番である。BMWの場合、すでに2シリーズアクティブツアラー、3シリーズ、5シリーズ、7シリーズ、X5といったPHEVをカタログに載せている。
PHEVの二酸化炭素排出量は短距離ならゼロになるが、バッテリーを使い切ったあとはそれなりに二酸化炭素を出す。欧州は計算式を使って数字を弾きだしているが、実はハイブリッド潰しと言えるほどPHEVに有利にできていて、それが彼らのPHEV開発のモチベーションになっている。とはいえ近距離ならEVと同じように使えるのもまた事実で、X3のEV航続距離は44㎞。モーター走行時の最高速も140㎞/hを確保している。
走りだしてもエンジンはほとんどかからない。とくにエンジンを徹底的にかけない「MAX eDRIVE」モードを選択すると、アクセルを深く踏み込もうがモーターだけで可能な限り粘る。モーター出力は109psなのでダッシュ力にはさすがに物足りなさを感じるケースもあるが、そこは「駈けぬける歓び」のBMW。エンジンとモーターを最適に組み合わせる「AUTO eDRIVE」モードを選択すれば、2ℓターボエンジンとモーターがタッグを組んで力強い走りを見せてくれる。艶のある回転フィールや懐の深いハンドリングを含め、そこにあるのは紛れもないBMW流の走り。電動化時代を迎えても、各メーカーが時間をかけて培ってきた個性やノウハウはこうしてクルマ作りに活かされていくのだ。
BMW X3 xDrive30e
*諸元値はX3 xDrive30e xLine Edition Joy+
全長×全幅×全高(㎜):4,720×1,890×1,675
エンジン:直列4気筒DOHCガソリン
総排気量:1,998cc
最高出力:135kW(184ps)/5,000rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1,350~4,000rpm
ハイブリッド燃料消費率:11.8㎞/ℓ(WLTCモード)
駆動方式:4輪駆動
Goro Okazaki