昨年の軽自動車のシェアは36.5%。つまり、日本で売れているクルマの3台に1台以上が軽自動車ということだ。
なぜそんなに売れているのかといえば、経済性の高さを挙げないわけにはいかない。最近は上昇傾向にあるものの、それでも車両価格は高くないし、税金、保険、通行料金、燃費といったランニングコストも安い。排気量やボディサイズで我慢を強いられるのと引き換えに、お安く乗れるのが軽自動車の本来の存在意義である。
だから、僕は豪華で高価で燃費の悪い軽に批判的なスタンスを持ち続けてきた。「庶民の足」という本来の意義を忘れたモデルに、なぜ数々の恩典を与えなければならないのか? 極端に言えばある種の合法的脱税行為ではないのか? そんな疑念を振り払えなかったからだ。けれど、最近考えが変わりつつある。むしろ、軽にはクルマとしての魅力をどんどん磨いていって欲しいとすら思っている。
驚くほど室内の広い軽や、ロングドライブにも対応できる走行性能をもった軽の登場によって、5ナンバーや3ナンバー車から軽に乗り換える人が増えている。もちろん、軽自動車の枠内で考えれば、重量増加やターボ化はコストアップや燃費悪化に繋がる。しかし、大きいクルマから乗り換えてもらえれば、結果として環境負荷は低下する。いま自動車メーカーは電動化など二酸化炭素排出削減に向け大きな努力をしているが、ダウンサイジングも同じぐらい有効な方法だ。大きく重く値段の高いプラグインハイブリッドのSUVに乗るのもいいが、魅力的な軽自動車に乗るのもまた地球にとって大いに意味のあることなのである。
軽が、「本当は乗りたくないけど、経済的だから仕方なく選ぶクルマ」から脱却を図りつつあるのはデータにも表れている。ユーザーの重視ポイントを調べてみると、デザインやボディカラーといった項目がコンパクトカーより上位に来るのだそうだ。そう、いまや軽自動車は左脳だけでなく右脳で選ぶジャンルであり、それが結果的にマーケットを拡げ、高いシェア獲得に繋がった。N-BOXやジムニーが受けた理由はそこだし、先日登場したデイズやekが狙っているのもそこだ。
NISSAN DAYZ/MITSUBISHI ek WAGON & ek X
日産・デイズ/三菱・ekワゴン&ek X
気合い十分のモデルチェンジ
日産と三菱が共同開発し、デイズ、ekワゴン&ek Xとして販売する軽自動車がフルモデルチェンジした。先代も日産の販売力と軽自動車人気によってそこそこの販売台数を記録したものの、クルマの出来映えはあまり誉められたものではなかった。「軽ということで割り切りすぎた」というのは開発者の反省の弁。静粛性、乗り心地、実用燃費などでライバルたちに水をあけられていた状況を覆すべく、今回のモデルチェンジにはそうとう気合いが入っている。まずプラットフォームを一新して基本性能を底上げ。エンジンも新設計だ。加えて、軽自動車初の「プロパイロット(三菱版はマイパイロット)」の採用も大きなニュース。追従型クルーズコントロールと車線維持機能を組み合わせているのはホンダセンシングと同じだが、完全停止からの再スタートに対応するのがプロパイロットのアドバンテージ。これにより渋滞時の使い勝手は大幅に向上した。正直、街乗り用途がメインの軽自動車にそこまで必要? とも思ったが、近年軽自動車を一家に1台のファーストカーとして購入する人が増え、それに伴い長距離ドライブをする機会も多くなっているとのこと。なるほど、そういえば高速道路で軽自動車を見かける機会はたしかに増えた。
インテリアの質感にも驚いた。マーチはもちろんノートすら軽く凌ぐ。また、数え切れないほどのボディカラーを設定しているのも特徴だ。特筆したいのはデイズで4色、ekで5色も設定した2トーンカラーだ。普通2トーンのルーフは黒か白と相場が決まっているが、なんとデイズとek合わせてルーフだけで7色! もある。生産を担当する三菱の水島工場の塗装ラインにはどんな秘密が隠されているのだろう。一度見学してみたいものだ。街中ならノンターボでも走りは十分。高速を使った長距離ドライブをする機会が多いならターボがオススメ。デイズとekで中身は同じだから、純粋にデザインの好みで選べばいい。
日産・デイズ/三菱・ekワゴン&ek X
三菱ekワゴン 1,296,000円~(共に税込)
*諸元値は日産デイズ ハイウェイスターX プロパイロットエディション(2WD)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,640
エンジン:DOHC水冷直列3気筒 総排気量:659cc
乗車定員:4名
車両重量:860kg
最高出力:38kW(52ps)/6,400rpm
最大トルク:60Nm(6.1kgm)/3,600rpm
燃費:21.2km/ℓ(WLTCモード)、28.6km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:前輪駆動
BMW Z4
ビーエムダブリュー・Z4
辛口な走りのオープンスポーツカー
BMWは60年以上前から2人乗りのオープン2シーターをつくってきたが、なかでも最大のヒット作は’95年にデビューしたZ3だ。生産台数は実に30万台。後継モデルのZ4も魅力的だったが、それでも12万台弱にとどまった。2シーターオープンの販売不振はBMWだけのことではなく、メルセデスは次期型SLCの開発を凍結。アウディ TT&TTロードスターも危ういという噂が出ている。まさにスポーツカー受難の時代だ。
そんななか、新型Z4が登場してくれたのは朗報である。トヨタ・スープラとのジョイントビジネスが功を奏した可能性は高い。ただし、開発の進め方やコスト分担などなどトヨタ絡みの話を聞いてもBMWは契約上の守秘義務を理由にノーコメントの姿勢を崩さない。トヨタとやってみてどうだった? みたいな柔らかい話しぐらいは聞きたいものだが。
2ℓ直4ターボもあるが、試乗したのは3ℓ直6ターボを積むトップモデルのM40i。先代よりホイールベースを25mm切り詰めるとともに、格納式ハードトップからソフトトップへと変更し、低重心化とトランクスペースの拡大を実現した。ボディサイズは全長4,335mm、全幅1,865mm、全高1,305mm、重量は1,570㎏。ライトウェイトスポーツと呼ぶにはいささか大きく重いが、その運転感覚は軽快感に満ちている。手首の返しだけでノーズはクイッと向きを変え、コーナー後半部では後輪が340ps/500Nmという強烈なパワー&トルクを路面にしっかり伝えながら見事なコーナリングを完成させる。とくに可変ダンパーの減衰力が高くなる(硬くなる)スポーツモードを選択するとロールスピードがグッと抑えられ、身のこなしのソリッド感が高まる。ニュルブルクリンクでM2コンペティションとほぼ同等のラップタイムを刻んだ実力はハンパじゃない。快音を響かせるシルキー6の回転フィールにも惚れ惚れさせられた。ただし、荒れた路面では車体が速い動きで上下し、それに伴いラインが乱れる傾向もある。決して洗練された動きではないが、その分、辛口なスポーツカーに乗っているという実感は強い。
快適性面ではオープン時の風の巻き込みの小ささが印象的だった。冬でもオープンエアモータリングを楽しめるだろう。その他、281ℓを確保したトランクルームや50km/h以下で開閉可能なソフトトップなど日常的な使い勝手への配慮も嬉しい点だ。
ビーエムダブリュー・Z4
*諸元値はZ4 M40i
全長×全幅×全高(mm):4,335×1,865×1,305
エンジン:直列6気筒DOHCガソリン
総排気量:2,997cc
乗車定員:2名
最高出力:250kW(340ps)/5,000rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1,600~4,500rpm
燃費:12.2km/ℓ(WLTCモード)、13.2km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:後輪駆動
PEUGEOT 508
プジョー・508
華やかで上質なプレミアム感
真ん中が0の3ケタ数字はプジョー伝統のネーミング。先頭はクラスを意味し、末尾は世代を示す。その法則に従うならばこいつは509になったはずだが、プジョーは今後しばらく末尾8を固定するようだ。
新型(2代目)508は、BMW3シリーズやアウディA4、VWパサートなどをコンペティターとするプジョーのフラッグシップ。もちろん、プレミアムブランドであるBMWやアウディからすれば、一緒にするなと言いたいところだろう。事実ナビや各種先進安全装備を標準装着したうえで417万円~という価格設定はVWパサートと同レベルに収まっている。にもかからわず、新型508のアピアランスはかなりプレミアムだ。それも、高級とか豪華という意味のプレミアムではなく、華やかで上質という表現が似合う。そこに流麗なデザインやプジョーというあまりメジャーではないブランド感が組み合わさった結果、いい意味で価格やクラスを感じさせないクルマになっている。あまり詳しくない人に値段を当てさせたら、3シリーズやA4並みの数字を口にするのではないだろうか。
小さなステアリングホイールにフルデジタルメーターを組み合わせたインテリアも上質感に溢れている。リアウィンドウごと持ちあがる巨大なハッチの下にある荷室スペースも大きい。ただしこのクラスのセダンとしては後席スペースは控えめ。180㎝クラスの人が後席の乗り込むと膝元もヘッドルームも厳しい。このあたりはデザイン優先の影響だろう。エンジンは1.6ℓガソリンターボと2ℓディーゼルの2種類。遠乗りが多いならディーゼルがベストチョイス。逆に近距離、あるいは鼻先の軽さを活かした軽快なハンドリングを重視するならガソリンがいい。印象的だったのは静粛性と乗り心地のよさ。ソフトなタッチなのに目線がブレず、そこそこ飛ばしても安心していられる絶妙の足さばきはまさにフランス車である。
プジョー・508
*諸元値は508 Allure
全長×全幅×全高(mm):4,750×1,860×1,420
エンジン:直列4気筒DOHCターボチャージャー付
総排気量:1,598cc
乗車定員:5名
車両重量:1,500kg
最高出力:133kW(180ps)/5,500rpm
最大トルク:250Nm/1,650rpm
燃費:14.1km/ℓ(WLTCモード)、14.7km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:前輪駆動
BMW 8 SERIES
ビーエムダブリュー・8シリーズ
20年ぶりに復活した気品のクーペ
8シリーズがおよそ20年ぶりに復活した。数々の最新技術で武装しているが、基本コンセプトに大きな変更はない。すなわち、優雅なデザインと贅沢なインテリア、優れた快適性を備えたラグジュアリークーペであるとともに、BMWのコアバリューである「駈けぬける歓び」を余すところなく伝える一級品のスポーツモデルでもある、ということだ。
エレガンスとスポーツ性を高次元で両立したデザインは秀逸。ただしオマケ程度に用意された後席は狭い。人を乗せるというよりは、脱いだジャケットやバッグの置き場所と考えたほうがいい。けれど、そんな割り切りをしたからこその美しさだと思えば納得しないわけにはいかないだろう。
長いノーズの下に搭載するのは530ps/750Nmを発生する4.4ℓV8ターボ。4輪駆動が生みだす強烈な駆動力とのコンビネーションによって約2トンのボディをわずか3.7秒で100km/hまで加速させる。これは911カレラSとほぼ同等だ。実際、M850iは速い。上りも下りも関係なく、いついかなる状況からでも怒濤の加速を味わえるのだ。しかも単に速いだけでなく、精度感の高さを伴った有機的な鼓動を伝えてくるあたりは実にBMWらしい。
ホイールベースが2,820mmもあるためZ4のようなヒラヒラ感はない。しかし鈍いとか退屈といった印象とは無縁だ。日常的にはゆったり感すら漂う優れた快適性を示すものの、スポーツモードを選択するとダンパー減衰力とロール剛性がグンと増し、まるでリアルスポーツカーのような姿勢でコーナーを駈けぬけていく。前後に搭載した電子制御式アクティブスタビライザーの効果は絶大だ。
価格は1,714万円。それだけの金額を出せる人はなかなかいないが、ミニバンなどの投入によってぼやけつつあるBMWのブランドイメージを先鋭化するという意味でも、8シリーズの存在は貴重だ。
ビーエムダブリュー・8シリーズ
全長×全幅×全高(mm):4,855×1,900×1,345
エンジン:V型8気筒DOHCガソリン
総排気量:4,394cc
乗車定員:4名
最高出力:390kW(530ps)/5,500rpm
最大トルク:750Nm(76.5kgm)/1,800~4,600rpm
燃費:8.3km/ℓ(WLTCモード)、9.9km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:4輪駆動
Goro Okazaki