岡崎五朗のクルマでいきたい vol.114 評価の基準

文・岡崎五朗

 前回に引き続き日本カー・オブ・ザ・イヤーについて書こうと思う。今回のカー・オブ・ザ・イヤーはボルボXC40に決定した。これ自体に何ら異論はないし、違和感もない。

 一部には「日本のカー・オブ・ザ・イヤーなのに納得いかない」という声もあるようだが、日本カー・オブ・ザ・イヤーは日本車のための賞ではなく日本で販売されているすべての乗用車が対象なのだから、輸入車が受賞したことに対して文句を言うのは筋違いである。

 その上で…僕は今回カローラ・スポーツに満点を投じた。カローラに満点を投じた選考委員は60人中22人で、XC40の14人を上回る。ではなぜXC40がトップになったのかといえば答えははっきりしている。0点を付けた人の数だ。カローラ12人に対しXC40はたったの1人。そう、まんべんなく得点を稼いだのがXC40の勝因である。そして、実はここにはちょっと違和感を覚えている。

 カローラを評価しないことに何ら問題はない。評価基準は各選考委員の自由だし、いろいろな価値観があっていい。むしろ60人という決して少なくない数の選考委員がいるのは、いろいろな価値観を反映するためでもある。ただ、各選考委員の配点をみていくと、カローラとクラウンで10-0、あるいはその逆というパターンが目立つ。なかには「カローラとクラウンで迷ったけど」というようなコメントしている人も。つまり「クルマ」ではなく「メーカー」単位で採点している人がいるのでは? ということだ。

 実際、カー・オブ・ザ・イヤーを「業界のお祭り」と表現する関係者は少なくない。だとすればメーカー単位で評価することにも納得がいく。お祭りはみんなで盛り上がるほうが楽しいからだ。また、スズキとスバルの辞退にしても、不祥事を起こしたのにお祭りなんてしてる場合じゃないというロジックが成り立つ。でも、少なくとも僕は、カー・オブ・ザ・イヤーはユーザーのクルマ購入の指針だと思って採点してきたし、今後もそうするつもりだ。話題性も影響力も低下してきたと言われる日本カー・オブ・ザ・イヤー。まあ内輪のお祭りだとしたら当然そうなるよね。そろそろ賞の在り方を真剣に議論し、もし必要なら実行委員会が各選考委員に評価指針のようなものを示す必要があるのかもしれない。


HONDA JADE
ホンダ・ジェイド

快適さ抜群の2列シート車

 長年この仕事をやっているとクルマにまつわるいろいろなことがわかってくる。そのひとつが「売れるクルマが必ずしもいいクルマではない」ということ。そして逆もまた真なり。いいクルマが必ずしも売れるわけじゃない。ジェイドはそんなクルマの代表格だ。

 ジェイドは2015年に登場した2-2-2配列6人乗りの3列シート車。かつてバカ売れしたストリームをひと回り大きく、かつ上質にしたようなクルマだと思えばいい。ストリームがカタログから落ち、オデッセイが車高の高いスライドドアモデル化するなか、立体駐車場に収まる全高の、ヒンジ式ドアをもつ3列シート車にも一定の需要はあるだろうというホンダの狙いは十分理解できたし、ワンモーションフォルムのデザインもよくまとまっていた。そして何より、ホンダ車とは思えないしっとりとした滑らかな足回りと優れた静粛性に感動させられたものだ。

 ところがマーケットはジェイドを歓迎しなかった。月間販売台数は数百台程度と惨敗。そこでホンダがとった起死回生の策が、今回の2列シート仕様の追加だ。調査をしたところ、3列目シートが狭すぎるという声が多かったという。ならばいっそのこと3列目を取っ払って(3列シート仕様も残っている)2列シートにしてしまえば、そんじょそこらのステーションワゴンでは到底実現できないような素晴らしく快適な後席と広いラゲッジスペースができるだろうと。

 実際、2列シート仕様ジェイドの後席は抜群に快適だ。膝前に広大な空間が拡がっているだけでなく、シートそのものが素晴らしい。聞けば、シートクッションはホンダ車のなかで最厚のとこと。レジェンドもビックリの贅沢空間である。ちょっとスポーティーなRSグレードを選んでも、僕が気に入っていた走り味はちゃんと味わえる。先進安全装備のホンダセンシングが付いて240万円ならお買い得感もある。注目に値するモデルだ。

ホンダ・ジェイド

車両本体価格:2,398,680円~(税込)
*諸元値はHYBRID RS・Honda SENSING
全長×全幅×全高(mm):4,660×1,775×1,540
エンジン:水冷直列4気筒横置
総排気量:1,496cc 乗車定員:5名
【エンジン】
最高出力:96kW(131ps)/6,600rpm
最大トルク:155Nm(15.8kgm)/4,600rpm
【モーター】
最高出力:22kW(29.5ps)/1,313~2,000rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgm)/0~1,313rpm
燃費:24.2km/ℓ(JC08モード)

LEXUS ES
レクサス・ES

LSのほぼ半額の主力モデル

 LC、LSと、1,000万円オーバーのFRモデルをリリースし勢いづくレクサス。2018年の販売台数は過去最高を記録した。それでもまだ台数的にはドイツ御三家の3分の1程度だが、日本発のプレミアムカーブランドとしてレクサスの存在感は確実に増してきている。

 とはいえ、LCとLSはブランドを牽引するフラッグシップであって台数を狙う存在ではない。そういう意味で、SUVのRXやNXとともにレクサスビジネスの主力となるのがこのESだ。全長5m弱と堂々たるサイズ。派手なスピンドルグリルとあいまって、街で見かけるとかなりの存在感がある。おまけに後席スペースはLSに引けをとらないし、ゴルフバッグもきちんと4個収まる。これでLSのおよそ半額となれば、これいいかも!と思う人は多いだろう。

 実は僕もそのうちの一人だ。ESの駆動方式は、古今東西の高級車のほとんどが採用しているFRではなくFF。しかしいまどきのFF車はよくできている。ESはトヨタ・カムリと同系統のプラットフォームを使っているが、ボディに丹念な補強対策を施すと同時に遮音性能も引き上げている。乗り比べればカムリとの違いは明らかだ。加えてLSの出来映えがいまひとつであることや、レクサスディーラーの洗練されたサービスを含めて考えれば、ESの580万円~という価格設定はかなり魅力的に思える。ほぼ同価格のクラウンと比べても、走りこそ及ばないものの、トータルの魅力では甲乙付けがたい。

 話題のデジタルアウターミラーは広視野角やデザイン上の新しさ、風切り音の低減などメリットも多いが、難点はモニター解像度と夜間のにじみと焦点距離の合わせづらさと距離感の掴みにくさ。鏡に映ったものはその距離に焦点を合わせればいいが、液晶モニターは数十㎝先に合わせる必要があり、それが距離感を掴みづらくしている。デジタルインナーミラーもそうだが、使ってみると鏡の偉大さを改めて感じる。とくに遠視が気になりはじめた年代にはちょっと厳しいだろう。室内側モニターの後付け感を含めて考えると、僕なら普通のミラーを選ぶ。

レクサス・ES

車両本体価格:5,800,000円~(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,975×1,865×1,445
エンジン:直列4気筒  総排気量:2,487cc
【エンジン】
最高出力:131kW(178ps)/5,700rpm
最大トルク:221Nm(22.5kgm)/3,600~5,200rpm
【モーター】
最高出力:88kW(120ps)
最大トルク:202Nm(20.6kgm)
燃費:20.6km/ℓ(WLTCモード)、23.4㎞/ℓ(JC08モード)

PORSCHE MACAN
ポルシェ・マカン

世界で最も走りの良いSUV

 いまやポルシェ販売の約40%を占めるマカン。兄貴分のカイエンよりひと回り小さいボディや、ボルシェとしてはリーズナブルな価格といったお手頃感が受けているのは間違いない。けれど、僕はそこにもうひとつ「世界でもっとも走りのいいSUV」という説明を加えたい。今回のマイナーチェンジで真っ先に目が行くのは外観。それもお尻だろう。従来左右にわかれていたテールランプが、新型ではガーニッシュで結ばれた。言うまでもなく、911をはじめとする最近のポルシェ流デザインからの引用だ。フロントはLEDへッドライトの標準採用とグリル&バンパーのリデザインがメイン。リアほどは目立たないものの、新旧モデルを並べれば、より精悍な表情になっていることに気付くはずだ。

 ドアを開け乗り込むと、10.9インチの横長スクリーンが目に飛び込んでくる。従来は7.1インチだったからかなりの大型化だ。「つながる」を核としたインフォテインメントシステムへの要求度はますます高まってきていて、それに対応するためにはこのサイズが必要だと判断したのだろう。これに伴い、従来縦型だった空調吹き出し口は横長になり、スクリーン下部に移動した。

 今回スペインで試乗したのは2ℓ直4ターボを搭載するマカンと、3ℓV6ターボを搭載するマカンSの2台。2ℓ直4ターボの最高出力は従来よりわずかにダウンしたが、逆に燃費は向上。3ℓV6はベースがアウディ製になったが、こちらは従来の3ℓV6よりわずかにスペックアップしている。

 結論から言って、2ℓ直4を選ぼうが、3ℓV6を選ぼうが、マカンは最高レベルのドライビングプレジャーを提供してくれる。カッチリしたボディ、しなやかな足、運転に必要な情報量のみ豊富に伝えてくる雑味ゼロのステアリング、タイトな駆動系、最高のブレーキタッチ…。この価格帯になると他にもたくさんの選択肢があるけれど、ドライビングプレジャーを重視するならもうマカン一択と断言する。2ℓモデルを50~100万円程度の、ポルシェとしては控えめなオプションでカジュアルに乗るのも粋だと思う。

ポルシェ・マカン

車両本体価格:6,990,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,696×1,923×1,624
エンジン:2リットル直列4気筒ターボ
総排気量:1,984cc 車両重量:2,510kg
最高出力:185kW(252ps)/5,000~6,750rpm
最大トルク:370Nm/1,600~4,500rpm
最高速度:227km/h

AUDI A8
アウディ・A8

実力を秘めたフラッグシップ

 アウディA8はアウディのフラッグシップだ。フラッグシップに求められるのはブランドの顔として全体を引っ張っていくイメージリーダーとしての役割。「技術による先進」を掲げるアウディであれば、当然ながら最新技術のオンパレードが期待される。

 実際、新型A8には数多くの最新技術が搭載されている。なかでも注目を集めているのが、世界初の「自動運転レベル3」対応技術だ。新型A8の場合、「中央分離帯のある、比較的混雑した校区道路を時速60㎞以下で走行しているとき」に限ってクルマが運転を担当する。つまり、ドライバーはスマホを操作してもいいしテレビを観てもいいし本を読んでもいい。そしてここが重要な部分だが、その際に起こった事故の責任はクルマ側にある。これが自動運転レベル3である。ただし実際に運用するには各国の法整備を待たなければならず、ドイツ本国を始め、日本でも自動運転レベル3は認められていない。2020年頃には認可される可能性もあるが、先行きはいまだ不透明だ。

 これ以外では、電気モーターを使ったAIアクティブサスペンションも新型A8のトピックだ。前方の路面をスキャンするカメラと組み合わせることで、最高の乗り心地とハンドリングを実現する。また、側方衝突が避けられないと判断すると衝突される側の車体を瞬時に持ち上げ、もっとも固いサイドシル部で衝撃を受け止めるという離れ技もやってのける。現在販売されている日本仕様にはまだ用意されていないが、近い将来には選べるようになるとのことである。

 まだ実力のすべてを味わえないのは残念だが、それでも新型A8の魅力度は高い。インテリアは、質感に定評のあるアウディのなかでもとりわけ上質な仕立てだし、静粛性、乗り心地、直進安定性といった基本性能も文句なしに高い。乗り比べるとA7スポーツバックがまるで大衆車に思えてしまうほどだ。

アウディ・A8

車両本体価格:11,400,000円~(税込)
*諸元値はA8 55 TFSI quattro
全長×全幅×全高(mm):4,975×1,865×1,445
エンジン:V型6気筒DOHC インタークーラー付ターボ
総排気量:2,994cc 車両重量:2,040kg
最高出力:250kW(340ps)/5,000~6,400rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1,370~4,500rpm
燃費:10.5km/ℓ(JC08モード)

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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