自動車工場では、出荷前に100台に1台の割合で、燃費と排ガスが届け値どおりであるかを抜き取り検査することが義務づけられている。
この試験が正しく行われていなかったにもかかわらず「合格」として出荷したのが、スバル、日産、スズキ、マツダ、ヤマハ、そしてアウディと、立て続けに起こった排ガス検査不正の概要だ。
ここでキーワードになるのがトレースエラーという言葉。抜き取り検査は工場内の検査台で検査員が実際に運転して行うのだが、調べてみて驚いた。基準が恐ろしくシビアなのだ。JC08モードでの検査は、20分間を定められた速度をトレースしながら走行する。その際、許される速度誤差は±2km/h。しかも1回の逸脱時間は1秒を超えてはならず、さらに速度逸脱の総積算時間は2秒以内と決まっている。一定速度ならまだしも、途中で加速や減速も入るなか、20分間に渡って定められた速度を正確にトレースするにはかなり高度なスキルと集中力が求められる。当然、基準から外れてしまうことも起こる。
そこで再検査せず「合格」としてしまうのはたしかにマズイが、これを受け偽装とか改ざんとか不正といった言葉を使ってメーカーを断罪したり、日本の品質神話崩壊といった記事が出たりしたことには違和感を覚えた。なぜ断罪ばかりで、ルールの妥当性に疑問を投げかけないのだろうと。実際、問題発覚後の再検査で不合格車が見つかった事実はない。それもそのはず、どのメーカーも、国が定めた検査とは別のところでエンジン性能を厳しくチェックしている。本来は不必要な検査だから、なあなあになってしまった可能性が高い。
ルールを破ったことは悪い。が、それ以上に責められるべきは、時代に即さないルールの存在を許してきた業界の怠慢にあるのではないか。昨年起こった無資格完成検査問題にも同じことが言えるが、国やメーカーには、ユーザーはもちろん、工場で働く人にとってよりよい状況をつくりだす責任がある。そのためにはルールを常に時代に合ったものへと“カイゼン”していく必要がある。不必要なルールほど非生産的なものはない。
MAZDA ATENZA
マツダ・アテンザ
クルマ愛あるマイナーチェンジ
大幅改良を受けたアテンザに乗って、マツダはつくづくクルマ愛が強いメーカーだなと感じた。もちろん企業である以上最終目的は利潤の追求だが、個々のクルマを見ていくと、「自分たちが愛してやまないクルマという商品をもっともっと魅力的にすることでオーナーに喜んでもらう」ことが彼らの最終目的なのではないか?と思えてくる。
3代目となる現行アテンザがデビューしたのは2012年。普通、数年目を迎えた商品の開発担当者が考えるのは、いかにお金をかけずに延命させるかだ。そのために新色を追加したりシート柄を変更したりグリルの形をちょっと変えてみたりする。いわゆるマイナーチェンジというやつである。ところがアテンザは中身までガラッと変えてきた。象徴的なのが骨格の要であるフロアパネルの変更で、従来の0.6㎜から1㎜へと大幅に板厚を上げてきた。これほど厚くすると、いままで使っていたプレスの金型は使えない。高価な金型を一から起こすだけで膨大なコストがかかる。加えて、シートやダッシュボードといったインテリア関係もほぼすべて新しくなっているし、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンも進化型に積み替えている。つまり、中身はほぼ新設計というわけだ。そしてその成果は試乗を通してはっきりと体感できる。内外装の仕上げ、乗り味ともに、300万円台で購入できるセダンとしてアテンザはいまもっとも魅力的なモデルである。
公式にはアナウンスされていないが、アテンザの改良にかかったコストはおそらく200~300億円程度。フルモデルチェンジに匹敵する投資だ。もちろん、この背景には2020年頃の登場が噂される次期型FRセダンの影がちらつくわけだが、だとしても投資を控え細々と続けていく選択肢もあったはずだ。しかしマツダはそれをよしとせず、クルマを進化させる道を選んだ。僕はこうした姿勢をリスペクトする。
マツダ・アテンザ
全長×全幅×全高(mm):4,865×1,840×1,450
エンジン:水冷直列4気筒DOHC 16バルブ直噴ターボ 総排気量:2,188cc
乗車定員:5名 車両重量:1,610kg 最高出力:140kW(190ps)/4,500rpm
最大トルク:450Nm(45.9kgm)/2,000rpm
燃費:17.8km/ℓ(WLTCモード) 駆動方式:前輪駆動
DAIHATSU MIRA TOCOT
ダイハツ・ミラトコット
ユニセックスで媚びないクルマ
ミラ トコットは、ミラ ココアの後継モデルだ。ダイハツは後継モデルではないと言っているが、ベーシックカーであるミラ イースをベースとした個性派モデル、それも女性ユーザー狙いのコンセプトという意味では後継モデルと呼んでも間違いはないだろう。ただしテイストは大きく変わった。丸目と柔らかなフォルムで可愛らしさを表現していたミラ ココアとはうって変わって、ミラ トコットは無印良品的。どこもかしこもシンプルに仕上げている。これなら男性でも乗れそうだ。
女性がターゲットなのになぜ? と思ったが、開発を率いた中島チーフエンジニアは「岡崎さん、私もそう思ったんですが、そういう疑問をもつ時点でオヤジなんだそうです」と言いながら笑っていた。開発コンセプトを模索している段階で、社内の女性陣から、ココアみたいなテイストはもう古い、という意見が多数寄せられたのだという。なるほど、いまどきの自立した女性が求めるのは丸っこくて可愛いクルマではなく、甘さを抑えたユニセックスなクルマということなのだろう。いまを生きる女性の価値観を追求したら男性でも乗れそうなモデルができあがった、というのは面白い現象だ。
とはいえ、トコットは筋金入りの名エンジニアである中島氏の作品。コンセプトメイキングでは女性の意見に耳を傾けたものの、走りに関して媚びた部分はない。その象徴がシートだ。女性を意識した軽自動車の多くは、運転席と助手席のシートの間にすき間のないセミベンチシートを採用している。しかしトコットのシートはセパレート型。これは「正しい運転姿勢を保つことが何より重要」というこだわりの結果だ。その他、死角を減らす設計やメーター類の見やすさ、扱いやすいエンジン特性、素直なハンドリングなど、トコットには、運転に自信のない人に優しい気遣いが満載されている。華はないけれど、日常の足としての使いやすさは抜群である。
ダイハツ・ミラトコット
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,530
エンジン:水冷直列3気筒 12バルブDOHC横置 総排気量:658cc
乗車定員:4名 車両重量:720kg 最高出力:38kW(52ps)/6,800rpm
最大トルク:60Nm(6.1kgm)/5,200rpm
燃費:29.8km/ℓ(JC08モード) 駆動方式:前輪駆動
ALFA ROMEO STELVIO
アルファ ロメオ・ステルヴィオ
SUVの形をしたスポーツカー
理性的なクルマ選びをする人にとって、アルファ ロメオは不可解なブランドだろう。安さと信頼性を重視するなら日本車がある。輸入車に乗りたいならブランドイメージが確立されているドイツ車がある。そんななかアルファ ロメオを選ぶ意味はいったいどこにあるのか…なんて思う人がいたとしても、それはそれで不思議なことじゃない。
けれど、感性でクルマを選ぶ人間にとって、アルファ ロメオは最高に魅力的なブランドのひとつだ。たとえ大蛇と十字のエンブレムに込められた輝かしい歴史を知らなくても、ボディスタイルを見て胸騒ぎが起これば、アルファ ロメオを選ぶ十分な理由になる。
ステルヴィオは、そんなアルファ ロメオらしさを最大濃度まで配合したSUVだ。ひと足先にデビューしたセダン「ジュリア」の背をそのまま高くしたようなルックスはSUVとしてはかなり軽快。リアビューはちょっと退屈だが、顔つきとフォルムはそうとう個性的だ。加えて前後重量配分は50:50。プロペラシャフトはカーボンファイバー製。2ℓターボエンジンのスペックは280ps/400Nm(将来的にはさらに高性能なモデルも登場予定)。4WDは高度な電子制御式。そしてきわめつけが12:1という超クイックなステアリングギアレシオだ。いまや星の数ほどあるSUVのなか、これほど明快にスポーティネスを突き詰めたモデルはない。
乗ってみると、SUVの常識を覆す軽快感に驚かされる。ウェイトは1.8トンあるが、感覚的には200~300㎏は軽い感じ。走り出しの軽快感も気持ちいいが、ステアリングを切り込んだときのノーズのシャープな動きはまるでスポーツカーのよう。それも、重い車体を無理やりシャープに動かしているのではなく、クルマ全体が嬉々として曲がっていく。もはやSUV的なのはアイポイントの高さのみ。ステルヴィオはまさにSUVのカタチをしたスポーツカーだ。
アルファ ロメオ・ステルヴィオ
全長×全幅×全高(mm):4,690×1,905×1,680
エンジン:直列4気筒マルチエア16バルブ
インタークーラー付ツインスクロールターボ
総排気量:1,995cc
車両重量:1,810kg
最高出力:206kW(280ps)/5,250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2,250rpm
燃費:11.8km/ℓ(JC08モード)
駆動方式:四輪駆動
JAGUAR I-PACE
ジャガー・Iペイス
ジャガー初のプレミアムEV
これまでテスラが独走していたプレミアムEVマーケットだが、メルセデスやBMW、ポルシェ、アウディといったドイツ勢が次々と参入を表明。テスラを率いるイーロン・マスクは「ライバルの登場は歓迎すべきこと」とコメントしているが、それは表向きのコメントであって、内心は戦々恐々だろう。
そんななか先陣を切って市販モデルを投入してきたのは、意外にもドイツメーカーではなくイギリスのジャガーだった。I-PACEと呼ばれるこのスタイリッシュなEVは、アルミ製EV専用プラットフォームに、前後輪を駆動する2機のモーター(合計400ps/696Nm)を搭載。容量90Kwhのバッテリーは航続距離470kmを誇る。
ジャガーといえば、FRであることを示すロングノーズフォルムがトレードマークだったが、I-PACEは大胆なキャビンフォワード。キャビン床下に大量のバッテリーを敷き詰めている関係でホイールベースを長くする必要があり、そこに長いノーズを組み合わせたら全長が5mをはるかに超えてしまう。そもそもフロントにエンジンはないのだから、ロングノーズにする理由もない。機能に裏打ちされたフォルムというわけだ。
走りは最高レベルの仕上がりだ。ポルトガルで開催された試乗会では、2日間にわたって一般道、高速道路に加えサーキットやオフロードコースも走ったが、どんなシチュエーションでも素晴らしい乗り心地とハンドリングを示してくれた。なかでも印象的だったのが強靱なボディ剛性で、22インチタイヤを履いているにもかかわらず、常にガッチリと質感の高い乗り味を維持したのには驚いた。動力性能も文句なし。0-100km/h加速4.8秒というダッシュ力もさることながら、モーターならではのスムーズさと鋭いレスポンスはスポーツドライビングからのんびりクルージングまで完璧にこなす。プレミアムEV大競争時代がついに到来した。
ジャガー・Iペイス
全長×全幅×全高(mm):4,682×2,011×1,558
乗車定員:5名
車両重量:2,670kg
最高出力:294kW(400ps)
最大トルク:696Nm
最高速度:200km/h
加速性能0-100km/h:4.8秒
最大航続距離:470km
Goro Okazaki