3月のジュネーブモーターショーでトヨタが「スープラ」を発表した。正確には「GR Supra Racing Concept」である。
2002年に生産を中止したスープラを16年ぶりに復活させたことになるが、市販車より先にレーシングカーとして復活させたことに意味がありそうだ。
「GR」はトヨタが’17年9月に立ち上げたモータースポーツ直系のスポーツカーブランドである。WEC(世界耐久選手権)やWRC(世界ラリー選手権)などのモータースポーツ参戦活動を通じて得た技術やノウハウをフィードバックするのが開発のコンセプトだ。ヴィッツなり86なりのベース車両があり、そこにモータースポーツで鍛えた技術を盛り込むのが基本路線である。
「いやいや、本当にやりたいのはそういうことではない」というGRの姿勢を示したのが、1月の東京オートサロンだった。WECに参戦するトヨタTS050ハイブリッドの公道仕様とも言えるGR Super Sport Conceptを発表したのである。市販車にレーシングカーのノウハウを注入するのではなく、ただサーキットを早く走るために開発されたレーシングカーを、公道で走れるように仕立て直すのがコンセプトだ。出発点がまるっきり異なる。つまり、レースへの出場を前提に考え、レースで性能を発揮するのに最適な設計を市販車の段階で織り込んでおくスタンス。スーパースポーツカーの世界では前例があり、WECのGTEカテゴリーに参戦するフォードGTが「レーシングカーが先」の例である。低い車高は前面投影面積を小さく抑えるためで、無類のハイスピードコースであるル・マンで最高速を稼ぐのが狙いだ。
GR Supra Racing ConceptもWECのGTEカテゴリーに合致した仕様で設計されている。開発を担当したのは、TS050ハイブリッドを手がけた欧州におけるモータースポーツの技術拠点、Toyota Motorsport GmbH(TMG)だ。こぶが2つ盛り上がったようなルーフの形状(中央が窪んでいる)は、ル・マンで最高速を稼ぐために、あらかじめ市販車の段階で織り込んだ設計にも見える。バンパーコーナー部のスリットは、フロントのタイヤハウスから排出される乱れた空気を制御し、空力性能を最適化するためのエアダクトだろうか。
GR Supra Racing Conceptはレースを見据えた要件を設計の段階で織り込みつつ、歴代スープラの特徴だったロングノーズ/ショートデッキのプロポーションを受け継いでいる。スープラを名乗るからには、長いボンネットの下には伝統の直列6気筒エンジンが収まっているのだろうか。本当にレースを先に考えて設計したとしたら画期的だし、スポーツカーの新潮流になる可能性を秘めている。
Kota Sera