先日の大雪で首都圏の道路は大混乱に陥った。とはいえ今年の気候が特別だったわけではない。
毎年一度か二度は東京も大雪に見舞われ、サマータイヤのまま走るクルマによって多数の事故や通行止めや大渋滞が引き起こされる。それでもスタッドレスタイヤに履き替えない人が多いままなのは、学習能力の欠如というより、路面に積もるぐらいの雪が降るのは年に一度か二度しかない、という気象条件によるところが大きいと思う。スキーやスノーボードが趣味の人でもなければ、たった一日か二日のためだけにスタッドレスタイヤを購入し、季節ごとにわざわざ履き替えるのは面倒だし不合理だなと思ってしまうのも理解できない話しではない。
しかし、たとえ雪が降らなくても、冬場にタイヤを履き替えるのは理に叶った行動なのである。最大の理由はサマータイヤの特性にある。気温が低いとサマータイヤはグリップが落ちる。一般的に、7℃を境にサマータイヤとスタッドレスタイヤのグリップは逆転すると言われている。つまり、たとえ雪が降らなくても、気温が低ければスタッドレスタイヤのほうが安全マージンは高くなるということだ。冷たい雨が降っていればその違いはさらに大きくなる。事実、ドイツでは気温が7度を下回ると冬用タイヤの装着が義務づけられる。雪が降ろうが降るまいが、冬場にサマータイヤのまま走っていたら罰金。加えて、サマータイヤでスタックして交通を阻害したり事故を起こしたりしたらさらに多くの罰金が科せられる。
ドイツの場合、日本のように路面が凍結するケースは少ないので、氷に強いスタッドレスタイヤではなく、低温性能と雪上性能と高速走行性能をバランスさせたウインタータイヤを装着する人が多い。実は日本でもこれまで多くのタイヤメーカーがウインタータイヤの販売を試みてきたが、中途半端な存在として失敗を繰り返してきた。しかし、首都圏のような「雪が積もるのは年に一度か二度」、「だからスタッドレスは必要ない」と考える人が多い地域にこそ、低温性能が高く、かつ雪にも対応できるウインタータイヤがベストな選択だと思うのだ。
HONDA CIVIC SEDAN
ホンダ・シビック(セダン)
都会的シビック日本復活
シビックは個人的に強い思い入れを持っている日本車の1台だ。通学からデート、スキーに部活まで、僕の大学生活は常にシビックと一緒だった。荷物もたくさん積めたし、ツインカムエンジンを積んだワンダーシビックはよく走り、峠にいっても友人の86に負けなかった。なにより気に入っていたのは他のクルマにはない都会的な雰囲気で、いまとなっては死語になった「シティボーイ」を気取るには最高の1台だったのだ。
そう考えると、80年代がシビックの黄金時代だったのかもしれない。その後シビックの居場所は次第に少なくなっていき、2011年にはついに日本から姿を消した。しかし世界においてシビックはホンダの中心車種であり続けた。当然、6年ぶりの日本復活を果たした新型シビックはグローバル基準で企画、設計されている。わかりやすく言えば、ゴルフを中心とするCセグメントモデルのど真ん中を目指したクルマということだ。
それがもっともはっきりと表れているのがボディサイズだ。全長はセダンで4,650mm、ハッチバックでも4,520mmあり、ゴルフより長い。全幅はゴルフと同じ1,800mm。インテリアの質感にもきちんと気を配っている。ただしせっかくのインテリアを後付け感たっぷりのナビゲーションシステムがスポイルしているのは惜しい。聞くと日本仕様以外にはインテリアに溶け込む専用ナビが付いているという。日本のユーザーはデザインの統一感より自分好みのナビを選びたがる、というのが理由だが、本当にそうなのだろうか?
ドライブフィールは上々だ。静かだし乗り心地もしなやかだし、ペースを上げても懐の深い走りを見せてくれる。エンジンがトップエンドでちょっと苦しげになることを除けばかなりの高得点が付く。しかし僕としていちばん嬉しかったのは、上級移行はしたものの、デザインにシビックらしい都会的な香りが戻ってきたことである。
ホンダ・シビック(セダン)
全長×全幅×全高(mm):4,650×1,800×1,415
エンジン:水冷直列4気筒横置
総排気量:1,496cc
乗車定員:5名 車両重量:1,300kg
最高出力:127kW(173ps)/5,500rpm
最大トルク:220Nm(22.4kgm)/1,700~5,500rpm
JC08モード燃費:19.4km/ℓ
駆動方式:FF
AUDI A8
アウディ・A8
世界初、レベル3の自動運転
A8はアウディのフラッグシップモデルだ。フラッグシップとはそのブランドのなかでもっとも上級のモデルであるだけでなく、ブランドの魅力をもっとも濃密に伝える役目を負っている。値段が高いだけのフラッグシップなどは本物のフラッグシップではないとすら言ってもいい。アウディのブランドステートメントは「技術による先進」。つまり、アウディのフラッグシップであるA8の宿命は、世界でもっとも進んだ技術を備えていること、となる。
新型A8は数多くの先進技術を備えている。なかでも注目されているのが世界初となる「レベル3の自動運転」だ。日産のプロパイロットやスバルのアイサイトといったレベル2の自動運転はクルマ任せはNG。ゆえに運転支援機能と呼ぶのが正しいが、レベル3になると自動運転モードの際はクルマ任せが可能になる。「中央分離帯のある自動車専用道路を60km/h以下で走行中」という厳しい制約条件は付いたものの、レベル3を謳ってきたのは大いなる飛躍だ。ただし日本での認可は法的整備が整う2020年頃まで待つ必要がある。
その他にも電動モーターによるアクティブサスペンションや48ボルト電源システムを使ったマイルドハイブリッド、アルミ、マグネシウム、スチール、炭素繊維強化プラティックを適材適所で組み合わせた軽量高剛性スペースフレーム構造など、新型A8にはハイテクがふんだんに搭載されている。もちろん、精緻なボディワークやクールなインテリアといったアウディ流のクルマ作りも素晴らしい。実車を前に思わず息を飲んだほどだ。
日本導入は6月頃の予定で、まずはV6とV8の2種類のガソリンターボが用意される。ひとあし先に海外で試乗したが、V6でも動力性能に不足はない。大トロのような乗り味のSクラスや軽快な7シリーズとはまた違う、カッチリした乗り味はアウディファンの期待を決して裏切らないはずだ。
アウディ・A8
*諸元地はA8 55 TFSI quattro tiptronic
全長×全幅×全高(mm):5,172×1,945×1,473
エンジン:V型6気筒ターボ
総排気量:2,995cc
車両重量:1,920kg
最高出力:250kW(340hp)/5,000~6,400rpm
最大トルク:500Nm(368.8lb-ft)/1,370~4,500rpm
駆動方式:4WD
CADILLAC XT5 CROSSOVER
キャデラック・XT5 CROSSOVER
ニュルで鍛えたアメリカンSUV
キャデラックはアメリカを代表するプレミアムブランドだ。かつては「アメリカ人のアメリカ人によるアメリカ人のための高級車」をつくっていたが、近年はグローバル競争に対応するためブランドの在り方を変えてきた。具体的に言えば、フワフワのサスペンションは締め上げられ、デザインは尖り、エンジンも高回転域までシャープに回るようなスポーティーな味付けを施してきたのだ。キャデラックが開発車両をニュルブルクリンクに持ち込んでテストをするなんてことは、ひと昔前では考えられなかった。とはいえそれは海外にじゃんじゃん輸出しようという目論見から生じた変化ではなく、海外、とくにドイツと日本から、お膝元の北米にじゃんじゃん輸出されるプレミアムカーに市場を奪われないため、という理由が大きいのだが。
そんななか登場したXT5。初代SRXが驚くほどスポーティーで走って楽しいクルマだっただけに大きな期待をもって試乗したのだが、うーん少々期待外れ。全体的にモッサリしているし、ステアリングフィールも曖昧。エンジンはそれなりに気持ちよく回るものの、最近のキャデラックがアピールしていた「走りでドイツ車に負けないぜ」というチャレンジ精神はかなり薄まっていた。
とはいえ、過剰な期待をもたなければとくに不満がないのも事実。広い室内に収まり、ゆったりした乗り味を楽しみながらドライブするのは、それはそれで悪くない。昔ながらのアメ車好きにしてみれば、むしろドイツ車のようにキビキビ走った初代SRXより、XT5のほうが好ましいと感じるかもしれない。いい具合に尖ったエクステリアデザインや、アメリカ資本系高級ホテルの内装を連想させる垢抜けたインテリアもいいし、アップルカープレイ&アンドロイドオートに対応したインフォテインメントもよくできている。どーんとドイツ寄りになったクルマ作りをちょっとだけアメリカンに引き戻したのがXT5である。
キャデラック・XT5 CROSSOVER
全長×全幅×全高(mm):4,825×1,915×1,700
エンジン:V型6気筒DOHC
総排気量:3,649cc
乗車定員:5名 車両重量:1,990kg
最高出力:231kW(314ps)/6,700rpm
最大トルク:368Nm(37.5kgm)/5,000rpm
駆動方式:全輪駆動
BMW X3
乗って納得のプレミアムミドルSUV
常にメルセデスよりも高性能なエンジンを積み、スポーティーな身のこなしと都会的なデザインを与える。そんな揺るぎないクルマ作りのポリシーと歴史が、走り好きのためのプレミアムカーという強固なブランドイメージを創りあげた。そんなBMWがSUVを初めて送り出したのは2000年。初代X5は、SUVというジャンルにおいてもbMWらしい「駆け抜ける歓び」を与えることができることを見事に証明してみせたのだ。
あれから18年が経ち、現在のラインアップにはX1、X3、X4、X5、X6という数多くのSUVが揃い、本国ではX2もデビューした。まさにフルラインSUVである。そのなかでも最大の販売ボリウムを誇るのがX3だ。新型X3のボディサイズは全長4,720mm、全幅1,890mm。55mm伸びた全長はリアシートとラゲッジスペースの拡大に充てられ、大人4人と大量の荷物を難なく飲み込む。一方、全幅の拡大は10mmに抑えられた。とはいえさすがに「どこでも難なく扱える」というわけにはいかない。住環境や生活範囲、使い方にもよるが、日本で無理なく扱えるギリギリ上限のサイズ、といったところだろう。
デザイン上の変化は少ない。うっかりすると先代と見間違えてしまうほどのキープコンセプトぶりだ。そんななかで最大の識別ポイントとなるのが、これでもかというほど大きくなったキドニーグリル。先行車のドライバーにはさぞかし強烈な印象を与えるに違いない。残念なのは大きく空いた開口部からラジエターや補強用のバーといった「内臓」が遠慮なしに見えてしまうこと。プレミアムブランドとしてはちょっとお粗末な仕上がりだ。
試乗したのは2ℓディーゼルモデル。動力性能や静粛性の優秀度もさることながら、このディーゼルは吹け上がりが抜群で、乗っていてとても楽しい。フットワークも素晴らしい出来映えだ。見た目のインパクトは薄いが、乗れば納得。X3とはそんなクルマである。
BMW X3
全長×全幅×全高(mm):4,720×1,890×1,675
エンジン:直列4気筒DOHCディーゼル
総排気量:1,995cc
乗車定員:5名
最高出力:140kW(190ps)/4,000rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1,750~2,500rpm
JC08モード燃費:17.0km/ℓ
駆動方式:4輪駆動
Goro Okazaki