岡崎五朗のクルマでいきたい vol.91 テスラの行動力

文・岡崎五朗

 カリスマ経営者であるイーロン・マスク率いるテスラ。「未来のために世の中のクルマを電動化する」という明確なビジョンを掲げ、一充電あたりの航続距離594km、0-100km/h加速2.7秒、無料充電サービス、通信を使った機能のアップデート、オートパイロットなど、次々とサプライズを提供し続けている。

 一方で、世の中のクルマがすべてEVになったら充電インフラの面で厄介なことが起こるな、というのが僕を含めた一般的な考えだ。化石燃料による発電では二酸化炭素が出るし、原発も増やしたくない。かといって太陽光や風力発電はコストと安定供給に難がある。EVが増えすぎたら急速充電器の充電待ち問題も避けられないだろう、と。

 しかしテスラの考えは違う。充電待ちに関しては、車載バッテリー容量を増やせば外出先で充電する必要はほとんどなくなる。かつ、太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーと、ますます低コスト化が進むバッテリーを組み合わせれば、クルマの脱化石燃料化は十分に可能だというのだ。実際、太陽光発電のベンチャー企業の買収や、世界最大のバッテリー工場である「ギガファクトリー」の立ち上げなど、彼らはビジョンを実現するために着々と手を打ってきている。ギガファクトリーで1年間に生産されるリチウムイオンバッテリーの容量は2013年に全世界で生産されたバッテリー容量を上回り、コストも30%減を見込んでいるという。行動でここまで示されると「自分の考えはもしかしたら古いのかもしれない」という気になってくる。

 そんななか、僕がテスラのビジネスでもうひとつ懸念しているのが、既存の自動車メーカーが次々とEV開発に乗り出してきていることだ。ジャガーにポルシェにメルセデスにBMW…そんな強力なライバルが出現してきたとき、テスラは果たして現在の地位を守り通せるのか。この点についてもテスラは楽観的だ。他社から魅力的なEVが出てきてもそれは脅威ではない。なぜなら、われわれのライバルはEVではなく、圧倒的多数を占める化石燃料で走るクルマたちなのだ、と。そんなテスラの最新モデルであるモデルXの試乗記は次のページで。


TESLA MODEL X
テスラ・モデルX

噂のSUV型ファミリーカー

 モデルXは、テスラ初のSUVだ。とはいえ、ご覧のようにそのルックスにSUV特有の土の臭いはほとんどない。形式上SUVと言ってはいるものの、デザイナーの狙いは「ミニバンに見えないスマートな多人数乗車モデル」を作ることにあったのではないだろうか。ほぼ共通のメカニズムをもつセダンタイプのモデルSもオプションで7人乗りをオーダー可能だが、荷室内に後ろ向きに取り付けるエクストラシートはお世辞にも快適とはいえない。それに対し、モデルXは大人7人が余裕で乗り込める。その他、2+3の5人乗り、2+2+2の6人乗りも選択可能。モデルSもかなり広々した室内空間の持ち主だが、モデルXの室内はそれを遙かに凌ぐ。

 機能上の最大のハイライトは、テスラがファルコンウィングドアと呼ぶ電動式ガルウイングドア。これだけ大きなドアを持ち上げるように開けるとなると、普通に考えればボディサイドに大きくせり出してしまう。が、ヒンジをルーフ中央付近に置き、さらに〝肩〟の部分を可動構造にすることによって、30㎝のすき間があれば開閉できるのがミソ。実際に狭い場所で試してみたが、ドアに内蔵した超音波センサーで障害物をスキャンしながら関節を巧みにコントロールし、見事に開いてみせた。ちなみに、フロントのヒンジドアについている自動開閉機能もこの超音波センサーを使って制御している。ファルコンウィングドアでの乗り降りはすこぶる快適だ。開口幅が大きく、またルーフごと持ちあがる分、小さな子供をチャイルドシートに載せるのはスライドドアよりラクかもしれない。スライドドアに必要なレールが不要なため、デザイン上の制約がないのもこの方式のメリットだ。もしスライドドアだったらこのデザインは実現できなかっただろう。

 走りはモデルS同様、圧倒的に速くて静かでスムーズ。航続距離も最大565㎞に達する。1,000万円をポンと出せる人にとっては、最強のファミリーカーである。

7人乗りの2列目は、個々のリクライニングが可能な独立3座席シート。ファルコンウィングドアは2列目に採用されており、3列目へも簡単にアクセス可能。2列目を前に傾け、3列目をフラットに折り畳めば、ラゲッジスペースが拡大。どの席でも開放感を味わえるのは、前席頭上まで仕切りのない大きな全面ガラス製パノラミックウィンドシールドならでは。

テスラ・モデルX

車両本体価格:13,810,000円(P90D/税込)
全長×全幅×全高(mm):5,037×2,070×1,680
車両重量:2,468kg 定員:7名
モーター最高出力:263ps(フロント)/510ps(リヤ)
航続距離:467km 駆動方式:AWD

MASERATI LEVANTE
マセラティ・レヴァンテ

マセラティ的SUVの魅惑

 優れたデザインと運転の楽しさ。イタリア車の魅力をひとことで表現するならそうなるだろう。それは、程度の差こそあれ、フェラーリからフィアットに至るすべてのイタリア車に共通するチャームポイントだ。マセラティ初のSUVであるレヴァンテを見たときも、ああなんてエレガントで個性的で華やかなクルマだろうと思った。最近はプレミアムブランドの多くがSUVをリリースしているが、レヴァンテの姿形はそれらのどれとも似ていない。高性能モデルならではのピンと張り詰めた緊張感と、夜を艶めかしく彩るラグジュアリー感の両者が渾然一体となった世界観はまさにマセラティそのものであり、他のメーカーが知恵を絞ったところで絶対に醸し出せない。魅力的なクルマたちが群雄割拠するこのマーケットにおいても、レヴァンテが一定の存在感を発揮するのは間違いなさそうだ。

 エンジンは3ℓディーゼルと3ℓガソリンターボの2種類。今回試乗したのは350ps仕様のガソリンターボを搭載する「3.0」だったが、この上に430ps仕様の高性能モデル「S」と、遅れてディーゼルも追加される。350ps/500Nmという素晴らしいスペックをもつエンジンだが、2トンを超えるウェイトが影響して驚くほどの速さはない。もちろん、SUVとしては十分すぎるほど速いのだが、カイエンGTSに負けないここ一発のダッシュ力を望むなら200万円を追加投資して「S」を選んだ方がよさそうだ。しかし実際に走ってみれば、そこはさほど重視しなくてもいいなと感じる可能性が高い。とくにスポーツモードを選択したときの痺れるようなサウンドには心底惚れ惚れした。

 フットワークに関しては、僕がマセラティというブランドに期待している水準からすると、俊敏性をもう1レベル引き上げて欲しいなと感じたが、乗り心地はとても快適。電子制御式エアサスのセッティングを含め、今後熟成が進んでいくことを期待したい。

ギブリの基本構造をベースに設計。ボディサイズは、ポルシェ・カイエンより若干大きい。インテリアの各パーツは、オプションで選択可能な高級素材を用意。全モデルにエアサスペンションを標準装備し、設定されている5つの車高から道路や地形に合わせて選択できる。

マセラティ・レヴァンテ

車両本体価格:10,800,000円~(税込)
全長×全幅×全高(mm):5,003×1,968×1,679
エンジン:V6 DOHC24バルブ ツインターボ
総排気量:2,979cc 最高出力:257kW(350hp)/5,750rpm
最大トルク:500Nm/4,500~5,000rpm
最高速度:251km/h 0-100km/h加速:6.0秒
燃費(欧州複合モード):10.7ℓ/100km
*スペックの数値はレヴァンテ350hp

TOYOTA C-HR
トヨタ・C-HR

冒険したデザインとこだわりの走り

 発売後1ヵ月での受注が目標販売台数の8倍にあたる4万8,000台。納車待ち約3ヵ月。見事なスタートダッシュを決めたC-HRは、商品としてもかなりの実力派だ。まず目を奪うのが、ど派手なデザイン。線や面の変化をこれでもかというほど織り込んだデザインはかなりビジーで、嫌いだと言う人もたくさんいると思う。しかし、僕の評価は〇。プリウスのようなクルマをあれだけビジーにしてしまうのは考え物だが、「デザインと走りに特化する」というコンセプトをもつC-HRならこのぐらい冒険してもいい。それに、デザインの本質であるフォルムを眺めると、実はとてもバランスのとれたカタチをしていることがわかる。大きなタイヤ、張り出したフェンダー、短いオーバーハング、コンパクトなキャビンなどが生みだす記号性はまさに「スポーティーなSUV」 言葉ではなくカタチでコンセプトを明快に伝えてくるのはとても素敵なことだ。

 パワートレーンはプリウスと同じ1.8ℓハイブリッドとオーリスと同じ1.2ℓターボ。前者がFFで後者が4WDとなる。ハイブリッドの圧倒的な低燃費は魅力だし、実際販売の7割以上がハイブリッドだが、走りの楽しさを重視するならターボに注目だ。動力性能はほぼ互角だが、あくまでスムーズに淡々と加速していくハイブリッドに対し、ターボはエンジンで走っているという実感が濃い。

 ただ、ハイブリッドとの差別化という点では、トランスミッションがCVTなのがなんとも残念。海外で販売している6速MTの導入を強く希望する。また、将来的にはさらに高出力なエンジンもラインアップに加えるべきだろう。というのも、C-HRのフットワークはトヨタのFF系のみならずこのクラスで文句なしのトップだからだ。たとえば180ps級のエンジンにDCTを組み合わせたモデルでも加われば、間違いなくライバルを圧倒する存在になるだろう。

トヨタのクルマづくりの構造改革「TNGA」を採用した第二弾。第一弾のプリウスとプラットフォームは共通だが、運動性能を高める味付けを施すことで、コンセプトである“我が意の走り”を実現した。デザインにも徹底的に拘り、スピード感のあるキャビン形状、彫刻的な面造形、ダイヤモンドをモチーフに強く絞り込んだボディと大きく張り出したホイールフレアの対比など、独創的なスタイルを追求した。

トヨタ・C-HR

車両本体価格:2,905,200円~(G/ハイブリッド2WD、税込)
*北海道地区、沖縄地区は価格が異なります
全長×全幅×全高(mm):4,360×1,795×1,550
エンジン:直列4気筒DOHC 総排気量:1,797cc
乗車定員:5名 車両重量:1,440kg
【エンジン】最高出力:72kW(98ps)/5,200rpm
最大トルク:142Nm(14.5kgm)/3,600rpm
【モーター】 最高出力:53kW(72ps)
最大トルク:163Nm(16.6kgm)
JC08モード燃費:30.2km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

DAIHATSU THOR
ダイハツ・トール

ソリオのライバル登場

 これまでスズキ・ソリオの独壇場だったコンパクトミニバン市場に新たな刺客が送り込まれた。ダイハツ・トール。トヨタには「ルーミー/タンク」、スバルには「ジャスティ」としてOEM供給され、合計4つのチャネルで販売される。全長3,700㎜のコンパクトなボディに1,735㎜という高めの全高とスライドドアを組み合わせ、スペース効率を最大化すべく角張ったボディを与える…という基本コンセプトはソリオと瓜二つ。ただし全幅はソリオの1,620㎜に対し、1,670㎜とたっぷりめにとってある。スズキは軽自動車からのアップサイザーを意識し、あえて幅を控えめにしたと言っていたが、ダイハツはノアやセレナといった5ナンバーサイズの3列シートミニバンからのダウンサイザーを意識したのだろう。とはいえ、ソリオでも室内幅が狭いとは感じないし、トールでも狭い道での取り回しに痛痒は感じない。室内の広さやシートの使い勝手、ハンドリング、乗り心地に関しても、細かい部分で凹凸はあるが、ほぼイーブンの戦いを見せる。

 そんななか大きく異なるのが重量だ。トールはソリオより大人2人分ほど重い。そのため1ℓ自然吸気だと上り坂やフル乗車ではアクセルの踏み込み量が大きくなるため燃費が悪化しがち。ターボを選べば余裕は増すが、いずれにしても燃費的には1.2ℓ自然吸気とマイルドハイブリッドに加え、先日フルハイブリッドも追加してきたソリオに及ばない。後発モデルにもかかわらず、経済性のプライオリティが高いコンパクトカーで差を縮められなかったのはちょっと苦しい部分だ。

 とはいえ、先代パッソ/ブーンから使い続けているプラットフォームをベースに補強と熟成を加え、直進安定性とハンドリングを合格レベルまで煮詰めてきたのはダイハツの見識とも言える。重量増を嫌って手当をせずに出したら、きっと真っ直ぐ走らないクルマになってしまっていただろう。

「子育てファミリーの日常にジャストフィットするコンパクトファーストカー」を目指して開発。コンパクトで軽自動車同等の取り回しの良さながら、ゆとりある室内空間を実現。様々なシーンに対応できるシートアレンジと荷室も設定されており、回転式カップホルダーや大型乗降用アシストグリップなど、家族に優しい装備が多数採用されている。

ダイハツ・トール

車両本体価格:1,684,800円(G“SA Ⅱ”/2WD、税込)
*北海道地区は価格が異なります
全長×全幅×全高(mm):3,700×1,670×1,735
エンジン:水冷直列3気筒 12バルブ DOHC横置
総排気量:996cc 乗車定員:5名 車両重量:1,070kg
最高出力:51kW(69ps)/6,000rpm
最大トルク:92Nm(9.4kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:24.6km/ℓ 駆動方式:前輪駆動

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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