岡崎五朗のクルマでいきたい vol.90 僕のプリウス評価

文・岡崎五朗

 37回目を迎えた日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下COTY)は日本でもっとも歴史が長く、かつ権威のある賞だ。

 元編集者や自動車メーカーOBが中心のRJCカーオブザイヤーに対し、選考委員のほとんどが現役バリバリのモータージャーナリストであり、ドライビングスキル、試乗しているクルマの数、ジャーナリストとしてのアウトプット量などはRJCとは比べものにならない。となれば当然、メーカー&インポーターが重視するのはCOTYのほう。外からは同じように見えるかもしれないが、実のところ似て非なるものであり、僕からしたら「頼むから一緒にしないで」という感じすらある。RJCのメンバーのなかにも敬愛する大先輩がいらっしゃるので軽はずみなことは言えないけれど、大変失礼ながら老後の暇つぶしでやってらっしゃる方が多いな、という印象は拭えない。

 日本カー・オブ・ザ・イヤーは59名の選考委員の投票によって決まる。各選考委員の持ち点は25点で、そのなかから1台に最高点の10点を入れ、残りの15点を4台に振り分ける。僕の採点はプリウス10点、インプレッサ7点、メルセデス・ベンツEクラス4点、ボルボXC90 2点、ジャガーF-PACE2点。10点をプリウスにするかインプレッサにするか大いに迷ったが、26ページに書いたようにインプレッサにはまだまだ改善の余地があると感じたため、消去法でプリウスを10点とした。

 なぜプリウスか。正直、デザインは好きじゃない。奇異とも言えるディテール処理には嫌悪感すら感じる。評価したのは劇的に向上したフットワークだ。新型の走りは「燃費がいいんだから真っ直ぐ走らないことや曲がりにくさは我慢しろ」と言わんばかりだった歴代モデルとはまるで別モノ。もしコンビニやスーパーで売っている食パンが一夜にして本場仕込みのイギリスパンに変わったら日本人の舌は一気に肥えるだろう。ベストセラーカーであるプリウスの劇的な変貌は、クルマ界でそういうことが起きたことを意味する。僕はそこを高く評価した。インプレッサの受賞も大いに納得だが、プリウスの進化が今後の日本車に与える影響は計り知れないほど大きい。


SUBARU INPREZA
スバル・インプレッサ

これからの日本基準になるクルマ

 狙ったのは世界トップクラスの走行性能。ベンチマークはVWゴルフ。自社の上位モデルに遠慮はしない。発売前からそんな勇ましいコメントを聞かされていたら、誰だって期待に胸を膨らませるはず。そんな雰囲気のなか、新型インプレッサは登場した。

 クローズドコースで開催された事前試乗会で受けた印象は、まさに上記のコメント通りだった。タイヤがひと転がりした瞬間から、しっかりしたボディに支えられた足がしなやかに動き、それと同時に濃密な接地感が伝わってくるそのフィーリングに、スバルの主張が決して誇張ではないことを実感した。

 とはいえ、真の実力は実際の道を走ってみなければ分からない。そこで感じたのは、クローズドコースでは見えてこなかった若干の違和感だ。基本的には素晴らしい実力をもったクルマだ。高速道路での直進安定性は文句なし。ステアリング操作に対して気持ちよく反応するスポーティーな味付け。それでいて過敏すぎず扱いやすさもきちんと残したフットワーク。「安心と愉しさ」というスバルの目指す走りをはっきりと体感できるし、そのレベルは上位モデルさえ脅かすほどである。

 その一方で、路面のジョイントや工事跡の段差など、タイヤが強い入力を受けたときの「いなし」には課題を残しているなと感じた。試乗したのは2ℓモデルのみ(1.6ℓには未試乗)だが、タイヤサイズにかかわらず全体的にちょっと固い。スポーティー度は落ちてもいいから、その分コンフォート性能を上げてやれば、上質感は間違いなく上がるだろう。また、インテリアの細部の仕上げや表示パネルの操作ロジックにも改善の余地がある。

 シャシーのポテンシャルも、安全装備レベルも素晴らしいだけに、課題をひとつひとつ潰していけばインプレッサは間違いなく一流品になる。世界を見据えたクルマ、それも手の届きやすい量販モデルが日本から登場したことを心から歓迎したい。

今後全てのスバル車に導入される予定の新プラットフォーム「SGP」を採用した、次世代モデル第一弾。競合する欧州車を凌ぐ「動的質感」を実現し、人気のアイサイトや国産初の歩行者保護エアバッグ、7つの乗員保護エアバッグといった安全装備を全車標準装備とした。スバルにとって、13年ぶりとなる日本カーオブザイヤー受賞車で、世界各国で納車待ちが出るほどの人気となっている。価格はエントリーグレード「1.6i-L EyeSight(2WD)」で192万円台から。

スバル・インプレッサ

車両本体価格:2,160,000円(2.0i-L EyeSight/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,460×1,775×1,480
エンジン:水平対向4気筒 2.0ℓ DOHC 16バルブ デュアルAVCS直噴
総排気量:1,995cc 乗車定員:5名 車両重量:1,320㎏
最高出力:113kW(154ps)/6,000rpm
最大トルク:196Nm(20.0kgm)/4,000rpm
JC08モード燃費:17.0㎞/ℓ 駆動方式:FF

NISSAN NOTE e-POWER
日産・ノート e-POWER

日産の30年ぶりの快挙

 日産のコンパクトカー「ノート」に、画期的なパワートレーンを搭載した「e-POWER」が加わった。日産はCMで「EVの新しいカタチ」とアピールしているが、これは正しくない。e-POWERとはエンジンを使って発電した電力でモーターを駆動して走る「シリーズ・ハイブリッド」であり、充電もできなければガソリンなしでも走れない。断じてEVではないことをまずははっきりさせておこう。もちろん、メーカーが初歩的な勘違いをするはずはなく、商品にインパクトを与えるための確信犯ということになる。セレナの運転支援技術である「プロパイロット」を、自動運転であると誤解を招きかねない「自動運転技術」と呼んでいるのも同じ理由から。技術を正しく理解してもらいたいと考えるエンジニアの想いと、そうはいっても売れるが勝ちと考える営業部隊との綱引きの結果、最終的に僕からすればアウトになる表現が採用されたようだ。

 とはいえ、どんなに優れた技術も売れなければ意味がない。そう考えると、日産のCM戦略は大当たりした。e-POWERを得たノートは、11月の販売台数で日産としては実に30年ぶり! の販売台数1位を獲得したのだ。それに実際、ノートe-POWERはとても魅力的なクルマだ。リーフと同じモーターはクラスを超えた力強さと静粛性を提供するし、エンジンがかかった際の騒音レベルも上手に抑え込んでいる。足回りも改良され、従来のノートの大きな弱点だった突き上げの大きい乗り心地は見違えるほど改善された。高速燃費はライバルのアクアに及ばないものの、価格と街中での燃費は負けていないし、回生ブレーキを使ったワンペダルドライブも新鮮だ。試乗すればきっとその運転感覚にワクワク感を覚えるだろう。僕としてもこのクラスのハイブリッドを買うならe-POWERをオススメする。CMはちょっとずる賢いけれど、たまにはそういう寝技も必要なのかもしれない。

外部充電の代わりに、搭載されるエンジンで発電してモーターで走行する。ガソリンエンジン車のような使い勝手でEV走行を楽しめる次世代エコカー。アクセルの踏み戻しだけで加速から減速まで行える。レバー操作で後方視界をカメラ映像に切り替えられる「スマート・ルームミラー」、踏み間違い衝突防止アシストなど、安全装備も充実。12月には、「ノート e-POWER NISMO」も発売された。

日産・ノート e-POWER

車両本体価格:1,959,120円(e-POWER X/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,100×1,695×1,520 エンジン:DOHC水冷直列3気筒
総排気量:1,198cc 乗車定員:5名 車両重量:1,210㎏
【エンジン】最高出力:58kW(79ps)/5,400rpm
最大トルク:103Nm(10.5kgm)/3,600~5,200rpm
【モーター】最高出力:80kW(109ps)/3,008~10,000rpm
最大トルク:254Nm(25.9kgm)/0~3,008rpm
JC08モード燃費:34.0km/ℓ 駆動方式:FF

MERECEDES-BENZ GLE COUPÉ
メルセデス ベンツ・GLEクーペ

BMW X6Mの好敵手

 Sクラス、Eクラス、Cクラスの主流3モデルに、それぞれの派生モデルと少数のスポーツカー、ゲレンデヴァーゲンという少数精鋭で存在感をアピールしてきたメルセデスだが、このところ急速にモデルバリエーションを拡大している。なかでも加速度的に増えているのがSUVだ。SUVの先頭二文字に「GL」を付けるのがメルセデスの新ネーミングポリシーであり、GLA、GLC、GLE、GLSという車名を見れば、すでに各クラスにSUVを取り揃えていることがわかる。今回新たに加わったGLEクーペは、GLEをベースに開発したクーペライクでスポーティーなSUVである。

 低めの車高、肉感的なフェンダー、ワイドなボディ、曲線的なルーフラインなどをみれば、2008年に初代がデビューし、いまでは2世代目が販売されているBMW・X6を意識したモデルであることは一目瞭然。ひと目でメルセデスとわかるデザインに身を纏ってはいるけれど、あからさまなキャラの被り具合がBMWとの仁義なき戦いぶりを物語っている。
 エンジンは3ℓV8ディーゼルに加え、AMG版として3ℓV6ガソリンターボと5.5ℓV8ガソリンターボを用意する。試乗したのはV8を積むトップモデルのGLEクーペ63S。

 585ps/760Nmという驚異的なパワーは、右足のひと踏みで2.4トン超の重量級ボディをとんでもない勢いで加速させる。おそらく「速度×重量」で示される運動エネルギーがもたらすものだろう。同じパワーウェイトレシオをもつもっと軽いクルマよりも迫力は明らかに上で、勇ましいV8サウンドとあいまって全身の毛が逆立つような加速フィールを味わえる。SUVとしては低い重心、よく練り込まれたサスペンション、市販メルセデスでもっとも太いリア325サイズのタイヤなどにより、ワインディングロードもかなりイケる。価格もサイズも超弩級だが、X6Mの強敵になるのは間違いない。

プレミアムブランドでは最多となる、メルセデス6番目のSUVモデル。SUVらしい走行性能を残しながら、クーペというスタイリッシュなフォルムを実現。後席は大人が十快適に過ごせる空間を確保し、最大1,720リッターという広いラゲッジルームを備えるなど利便性も叶えた。価格は、8,900,000円~(税込)。

メルセデス ベンツ・GLEクーペ

車両本体価格:17,800,000円
(AMG GLE 63 S 4MATIC クーぺ、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,060×1,740×1,240
エンジン:DOHC V型8気筒ツインターボチャージャー付
総排気量:5,461cc
乗車定員:5名 車両重量:2,420kg
最高出力:430kW(585ps)/5,500rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/1,750~5,250rpm
JC08モード燃費:7.7㎞/ℓ 駆動方式:4WD

LEXUS LC
レクサス・LC

世界と肩を並べたレクサス

 プレミアムメーカーたるもの色気のあるクーペをもつべし。これは自動車業界における常識だ。レクサスがライバル視するメルセデス・ベンツ、BMW、アウディはもちろんのこと、ロールス・ロイスやベントレーといったハイブランドも当然のようにクーペをもっている。それほど台数は見込めないジャンルだが、ラグジュアリークーペとは、プレミアムセグメントに入会するためのパスポートのようなものなのである。

 そんな観点から眺めると、従来のレクサスのクーペラインアップはちょっと物足りなかった。RCはラグジュアリー度が足りないし、RCFはスポーツ寄りすぎるし、スーパースポーツのLFAは500台限定。そこで開発されたのがLCだ。目的が目的だけに手抜きは絶対に許されない。ライバルに負けない走りを実現するべく新設計のプラットフォームを奢り、画期的なハイブリッドシステムを搭載し、10速ATを与え、デザインやインテリアにも徹底的にこだわった。

 その成果はいかに。先日スペインで行われた国際試乗会で僕が下したのは「名実ともにレクサスは本物のプレミアムブランドになった」という結論だった。優れた信頼耐久性やコストパフォーマンスだけでなく、性能や色気やオリジナリティにおいてもライバルに負けないLCの登場は、今後のレクサスブランドに大きなプラスを与えるだろう。

 パワートレーンは5ℓV8と3.5ℓV6ハイブリッドの2種類。速さと獰猛さではいまや稀少になった自然吸気のV8に軍配があがるが、4速ATと組み合わせることでダイレクトなパワーフィールを実現したマルチステージ・ハイブリッドも素晴らしい出来映えだった。僕がLCを買うなら、ライバルにはないオンリーワンの価値を重視してハイブリッドを選ぶと思う。発表はもうすぐ。価格はいずれのモデルも1,000万円を超えてくるだろうが、それだけの価値はある!

2012年に発表されたコンセプトモデル「LF-LC」から生まれた、レクサスを新たなステージへと導くフラッグシップクーペ。デザインを開発してからプラットフォームやパワートレーントいった中身を決める、というプロセスによって、コンセプトモデルに近いデザインを実現できたという。世界65ヵ国に導入予定とのことで、日本では今年の春頃に発売を控える。

レクサス・LC

車両本体価格:未発表
*スペックはLC500h(欧州仕様値)
全長×全幅×全高(mm):4,760×1,920×1,345
エンジン:V型6気筒3.5ℓエンジン
総排気量:3,456cc
最高出力:220kW/6,600rpm
最大トルク:348Nm/4,900rpm

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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