ルノーが’16年シーズンからF1に帰ってくる。ずっといるじゃないか、との指摘もあろうが確かにそうだ。
ルノーは’15年シーズン、レッドブルとトロロッソにパワーユニットを供給していた。じゃあなぜ「帰ってくる」という表現をするのかというと、ワークスチームとして帰ってくるのである。ワークスチームとは、自動車メーカーが主体となってチーム運営と車体開発を行い、自分たちで開発したパワーユニットを搭載して参戦する組織のことだ。F1ではフェラーリがその代表格であり、メルセデスAMGもそうだ。
「選択肢は2つあった。100%の態勢で戻るか、撤退するかだ」
ルノーのカルロス・ゴーン会長兼CEOはそう説明した。撤退を選択せず、100%の態勢、すなわちワークス参戦する道を選んだのは、よく考えたけれども、ルノーにとってF1はなくてはならない存在であることに気づいたからだろう。そして、撤退したときに失うものの大きさも。
ルノーが大きな決断を迫られたのにはワケがある。パワーユニットサプライヤーとして参戦はつづけていたけれども、供給先チームの成績がパッとせず、F1で築いてきたブランドイメージに傷をつけかねなかったからだ。自社の高い技術力をアピールする目的でF1に参戦しているのに、イメージを落としたのでは意味がない。
そうなった背景には、’14年に導入された新しいパワーユニットのフォーマットがある。’13年までのF1はシンプルなエンジンを積んでいたが、14年からはエンジンに2種類のエネルギー回生システムを組み合わせたパワーユニットを搭載することになった。構成する部品の数も増えたし、制御も複雑になった。高い競争力を得るには、パワーユニットのために車体を設計する必要があるし、逆に、車体のためにパワーユニットを設計する必要がある。つまり、車体もパワーユニットも同じ組織で開発するワークス参戦が、競争力を高める条件として必須になってきたのだ。’15年はメルセデスがチャンピオンを獲り、フェラーリが追いかける構図だったが、双方ともワークスチームなのは偶然ではなく、そうでなければ強さを発揮できない状況だからだ。
ルノーがワークス参戦か撤退かの二者択一を迫られたのは、ワークス参戦するのに必要な予算が倍では済まないことを承知しているからだ。用意すればいいのは予算だけでなく、相応の覚悟も必要だ。体裁を整えれば済む話ではないことは、歴史が証明している。そういう重大な決断だからこそ、つづけるか撤退するかの極端な二者択一を迫られたのだし、やると決めたからには「本気」だということだ。
ルノーは’16年からのワークス参戦によって革新的な技術開発を加速させ、その技術をルノーブランドのスポーツカーに注入していくと意気込んでいる。
Kota Sera