ツーリングカーレースの定番 日産 サニー・クーペ1200GX
今ではファミリーカーといえばミニバンと相場が決まっているけれど、その昔、小さなセダンがそのカテゴリーの定番だった時代が長いことあった。
同時に小さなセダンをベースにした小さなクーペが若者にとっての格好のアイテムであり、ギアであり、スタイルでもあった。もはや日本では絶滅してしまった小さなクーペも、そういう意味では定番と呼べる存在であったのである。
1960年代後半から1970年代にかけてが、そうした色合いが最も濃かった。1966年4月に発表された初代日産サニーに対して、同じ年の10月に発表された初代トヨタ・カローラは「プラス100ccの余裕」というキャッチで対抗し、1970年1月に発表された2代目サニーは車体を少し拡大して「隣のクルマが小さく見えます」とやり返した。小型セダンとしてはカローラもサニーも良く売れたわけだが、対抗心バリバリのオモシロイ時代だった。
そして、その小型セダンをベースとしたスポーティなクーペはどうだったかといえば、マニア以外にはあまり知られてないことなのだけど、日産は物凄いクルマを作っちゃったのである。サニー・クーペ1200GXだ。1970年のレースデビューから1982年までの長きにわたりレー、TSレースで活躍し続けたマシン達のベースとなったモデルである。よく〝スカイラインGT-R、栄光の50勝〟などといわれるが、単一車種による勝ち星でいえば、こちらの圧勝だろう。カテゴリーが下位でクラスも下だからはっきりと記録されてきたりはしてないけど、ほぼ出るたびに勝ってたようなものなのだから。
サニー・クーペGXは、1970年1月の2代目サニーのデビューから3ヵ月後に追加されたスポーツグレードだ。エンジンそのものは直列4気筒OHVの1,171㏄で、これにSUキャブレターをふたつ装着して圧縮比をアップした程度。なのに7,000回転ぐらいまでスパッと吹け上がるエンジンができあがった。馬力そのものは83psに過ぎないけど、車重が705kgと素晴らしく軽く、またバランスのいい車体設計と古典的ながらトラクションのいい足周りによってコーナリング性能も高かった。スポーツモデルとしての資質に、実はとっても恵まれたクルマだった。
そこに目をつけたプライベーターが1970年の秋にレースに出場させ、何とデビュー・ウィン。そこからサニーでレースを戦うチームが増え、ツーリングカーレースといえばサニー、という時代が延々と続いた。
今は昔、レーシングカーとストリートカーが、レース規定としても環境としても密接な関係にあった時代のお話だが、若者のための定番モデルとして生まれたサニー・クーペは、レースの世界でも定番マシンとして君臨したようなものだったのだ。