F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 PLUS Vol.03 可夢偉はトップに立てるか

 小林可夢偉が日本に帰ってきた。というより、レースキャリアのほとんどをヨーロッパで過ごした可夢偉にとって、スーパーフォーミュラ(SF)は新たな挑戦である。

 その可夢偉は開幕戦鈴鹿を予選10番手、決勝9位で終えると、第2戦岡山では4番手からスタートし、2位でゴールした。F1で表彰台の経験があるドライバーなら、すぐに好成績を残して当然なのだろうか。

 結論を急ぐ前に、F1とSFの違いを検証していこう。F1はチームごとにマシンが異なるのが特徴だ。パワーユニットは複数のチームで共有するのが基本だが、シャシーは独自に開発する。だから、同じパワーユニットを積んでいてもマシンの差は生じるし、パワーユニットが違えば性能も違う。結果、ドライバーの力量ではいかんともしがたい差が生じてしまうのが現実だ。
 SFの場合、シャシーはイタリアのコンストラクター、ダラーラのワンメイクだ。タイヤはブリヂストンの1社供給。エンジンはトヨタとホンダの2種類がある。’15年は11チーム19台が参戦し、ホンダ勢は5チーム8台、トヨタ勢は6チーム11台だ。可夢偉はトヨタ・エンジンを搭載するKYGNUS SUNOCO Team LeMansに所属する。少なくとも、可夢偉以外が乗る10台のトヨタ勢と道具は一緒だ。

 チームごとに異なる道具で争うF1とは、この点で大きく異なる。レースとは、極論すればタイヤが持つポテンシャルをいかに上手に引き出し、使いこなすかを競う競技だが、タイヤの性能を引き出す一番のカギを握る空力パッケージは全車共通。タイヤの動きを制御するサスペンションも同様。となると、空力やサスペンションのセッティングを調整しつつ、道具を上手に使いこなす勝負となる。どう勝負するかというと、ドライバーがマシンの状態を正しく理解し、レースエンジニアがドライバーのフィードバックに正しく対処することが重要となる。

 ドライバーとエンジニアのやりとりが重要なのはF1も同じだが、SFはF1に比べ、マシンが搭載しているセンサーの数や、情報を処理するデータエンジニアの数が圧倒的に少ない。そのため、ドライバーがセンサーの役割を、エンジニアがデータソフトの役割を、限られた時間のなかで精度高く演じる必要がある。日欧のレースに精通したあるベテランエンジニアはその違いを、「F1は重箱の隅を針で突くのに対し、SFはもっと隅っこを菜箸で突っつく感じ」と表現した。やろうとしていることは実に細かいのだが、手段は十分ではなく、だからこそ、ドライバーとレースエンジニアの密なやりとりが欠かせないというわけだ。

 可夢偉が優秀なセンサーを備えていることは、F1で十二分に証明している。レースエンジニアの実績・実力も申し分ない。SFが一朝一夕にトップに立てるほど甘い世界でないことは開幕戦が証明しているが、トップに立つ条件はそろっている。

第2戦のスタート直後に2つ順位を上げた可夢偉は中盤以降、トップを走るマシンとデッドヒートを繰り広げながら走りつづけた。SFの過去の成績を振り返ると、優秀な成績を収めたドライバーの陰に有能なレースエンジニアの存在があることに気づく。ドライバーよりもむしろ、道具の使い方を熟知したエンジニアに成績がついて回る傾向があると言ってもいい。ドライバーが言わんとすることを上手に汲み取るのがエンジニアの仕事だが、一方で、ドライバーはエンジニア任せでいいわけでもない。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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