オンナにとってクルマとは vol.57 ベビーカー・オン・ザ・ロード

 私は今、自分が絶対に乗ることのできない四輪車の操縦に手こずっている。超軽量で、オープンカー。だいぶ昔に乗ったことはあるはずだけれど、記憶がないその四輪車とは、そう、ベビーカーだ。

 操縦っていったって、押すだけでしょ。などと侮ってはいけない。軽くて車輪が小さいためか、路面状況に影響されやすく直進安定性は悪いし、カーブではハンドルを握る手首にかなりの負担がかかる。

 これでも購入時には、販売店に用意されていた7㎏の重りを赤ちゃんに見立てて乗せ、たくさんのベビーカーを試走(?)した。安定感のあるものから、小回り性の高いもの、なめらかな押し心地のものと、それぞれの感触がけっこうちがう。車輪が太く大きいものは、やっぱりグイグイ進む感じで頼もしかったのだけど、子供を片腕に抱きながら、片手でクルマのラゲッジに積むことを考えると、重量がシビアな問題だ。悩みに悩んだ末に、5.4kgと超軽量ながら、4つの車輪が自由に動く「オート四輪」というのに惹かれて日本製のベビーカーに決めたのだった。

 ところが。初めて家から出て、近所のお散歩で使ってみると、ぜんぜん思うように押せなくて焦った。よくよく考えてみれば、試走した販売店の床はフラット。でも近所の歩道ときたら、無数の段差や継ぎ目、ゴツゴツとした砂利や意味不明のひび割れ、いい加減な工事をしたのかコンクリートの凹凸と、トラップの連続だ。おまけに、歩道が途中でなくなってしまったり電柱で塞がれていたり、やむなく車道にはみ出るしかないところもたくさんある。すぐ脇を、ビュンビュンと通っていくクルマたちに恐怖を感じ、小さな命を守って無事に家に戻れるのか、冷や汗をかきながらのお散歩になってしまった。

 世の中の子育て世代は、こんなにも大変な思いをしていたのか。ひとりで普通に歩いていた頃にはわからなかった恐怖、不便さへの憤りが今さらながら込み上げてきた。交通社会とは、最も弱い存在を守りながら発展していかなければならないのに、それが置き去りにされているから、近年はクルマに乗車中の交通事故よりも、歩行中の交通事故が増えているのではないだろうか。

 子育て世代に、子育てをしやすい街の条件を聞いてみると、1位は公園や自然が多いところ、2位は大きなショッピング施設があるところ、なのだという。私は、子供の交通事故が少ないこと、というのを真っ先に挙げたくなった。都道府県の交通事故件数ランキングだけでなく、子供の事故率が低い街ランキングも、ぜひ調査して欲しいものである。

文・まるも亜希子

Akiko Marumo

自動車雑誌編集者を経て、現在はカーライフジャーナリストとして、雑誌やトークショーなどで活躍する。2013年3月には、女性の力を結集し、自動車業界に新しい風を吹き込むべく、自ら発起人となり、「PINK WHEEL PROJECT」を立ち上げた。

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