過ぎ去ったモータースポーツシーンに思いを馳せながら10年、20年と遡っていく。すると、あの年が時代の転換期だったと、あらためて気づかされることがある。
そ例えば、全日本ロードレース選手権における1985年がそれだ。今にして思えば、このワンシーズンこそがある種の境界線になり、真のプロフェッショナリズム、あるいはエンターテイメントの始まりになったと言えるだろう。
なぜなら、ワークスvsプライベーター、ベテランvsルーキー、全日本王者vsGPライダー……そういうストーリー性に富む対決の構図が様々なシーンに散りばめられていたため、どのレース、どのクラスを切り取ってもライダーとマシンにまつわるドラマに溢れていたからだ。
とりわけ、500㏄クラスとTT-F1クラスにそれは顕著だった。
最速マシンが集う500㏄クラスは、結果的にヤマハの平 忠彦が制して3年連続で全日本タイトルを獲得することになったが、それをあらゆる手立てで阻止しようとしたのがスズキの水谷 勝とホンダの木下恵司だ。水谷が乗るRGΓは、すでに基本設計の古さを隠せなくなっていたものの、スズキはギリギリのチューニングでその力走を支え、一方ホンダはシーズン途中で3気筒のNSを、よりパワフルな4気筒のNSRへ切り替えて状況の打破を図るなど、メーカー間のプライドがかつてないほどヒートアップした。
平もまた、ディフェンディングチャンピオンという立場に安閑としていなかった。グランプリの合間を縫ってスポット参戦を繰り返すワイン・ガードナーに対してはチャレンジャーに徹し、その背中を懸命に追走。ファンはそのライディングの先に、グランプリフル参戦の扉が開かれること願い、夢を託したのだ。
そんな500㏄クラスに対し、TT-F1クラスはまったく予想のつかない展開を見せた。ホンダの徳野政樹と阿部孝夫、ヤマハの上野真一といったワークスの水冷マシンに対し、辻本 聡と喜多祥介が加入したヨシムラ、そして八代俊二と宮城 光を擁するモリワキという2大コンストラクターはそれぞれ油冷と空冷のマシンで対抗した。しかも、ホンダはこのクラスにもガードナーをスポットで送り込むなど、仁義無き闘いを繰り広げ、シーズンは混沌としたまま進んだのだ。
結果、最後に栄冠を勝ち取ったのは辻本だった。国際A級デビューイヤーながら王座に就き、新時代の幕開けを自らの手で切り開いたのである。
ところで、シーズン当初は無名の新人に過ぎなかった辻本と同様、アメリカでもひとりのルーキーがUSヨシムラ入りを果たしていた。それがあのケビン・シュワンツだ。驚くべきは、そのふたりが今年の鈴鹿8耐でペアを再結成し(’86年に3位表彰台獲得)、ライダーとして参戦することが発表されたのだ。チームはもちろん日本のヨシムラである。
すべてが上昇志向にあり、熱気を帯びていた’85年のレースシーン。そんな29年前の輝きは決して過ぎ去った昔話ではなく、サーキットは今なお彼らを奮い立たせる最高のステージなのだ。
【復刻発売】~MOTOR LANDプレゼンツ~」
発売日:4月26日
価格:¥4,104(税込)
問い合わせ:ウィック・ビジュアル・ビューロウ
TEL:0120(19)8195
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