濱口弘のクルマ哲学 Vol.58 愛車とスキーとThe Club Togari

文・濱口 弘/写真・シャシン株式会社

ランボルギーニ・ステラートに雪遊びのギアを載せて戸狩に行く。

 これこそ私が描いているThe Club Togariの世界観だ。戸狩温泉スキー場の単独オーナーとなり、就任からゲレンデオープンまでたった4ヵ月の中、1秒の隙もなく東京と長野を往復している。その最中、会員制サーキット・マガリガワの2周年記念ビッグイベントの房走祭に、ブースを設置させて頂くこととなった。そこで、スノーボードを積んだステラートに本物の雪しぶきを飛び散らせ、ルーフが露わになるほどの急勾配をいま駆け降りて来たような、インパクトあるブースを作り込んだ。このブースを見れば、私の目指すThe Club Togariのがノンバーバルで理解できるよう、我がアートディレクションチームが貫徹したものだ。これは12月20日にスキー場オープンを控えていた私にとって、金屏風を背に木槌を高らかに振り上げる鏡開きのような、気持ちを引き締める初戦イベントとなった。

 12月に入り、今までジムニーで登っていた戸狩山頂エリアに雪が積もり、クルマでは登れなくなった。私はCAM-AM社製OUTLANDERに乗り、音が雪に吸われ静けさを増した山中を走り回る。野太くキレのある排気音を響かせて縦横無尽に駆け、山頂カフェの建設進捗、中腹に設置したバイオトイレの確認、リフト乗降場での新しい試みなど、ゲレンデからゲレンデへと移動し目視で確かめる。これは排気量570㏄、V型2気筒ロータックスのエンジンを搭載、タイヤをキャタピラに交換すると積雪量に左右されない活動域で、雪上機動性は最強のビークルだ。エンジン、ミッションなど仕様はスノーモービルと同じだが、キャタピラという特殊な足回りゆえ、走行フィーリングはユニークかつ豪快。深い新雪の勾配は4輪駆動ローギアでしか走れず、クサビを打ちこむようにトラクションをかけ前に進んでいく。喩えれば小型戦車を動かすイメージだ。稜線を見上げながら、つづら折りに曲がりくねりながら昇り、無心にステアリングを右へ左へ切っていると、独特なエンジン音が頭からだんだんと遠のき、このスキー場を買うと決めた日に描いた、戸狩の未来図を反芻し始める。

 私がスキー場を買った動機の1つに、全国のスキー場リフト券の値上げ問題があった。愛する雪山遊びが誰にでも自由で身近なものであるよう、ターゲットはローカルの日本人とし、リフト券価格を現状維持と決めていた。しかし維持は価格だけで、設備は全面的に刷新すると決め、就任当日から着手した。カービング用の圧雪斜面、300mのモーグルコース、大型サイズのキッカーを含むパークエリアの新増設、東京で行列を作る飲食店3店舗を誘致した。新生した戸狩はリフト券価格を据え置きながら、多種多様なコンテンツで満足度を上げるよう、向こう5年間投資し続けていく計画だ。

 そんな一般スポーツ振興への抱懐がある一方、私が10代から海を渡り世界を飛び回り、スポーツを通じて得た人間関係や経験、その仲間と共に見た景色と価値観を、日本アルプスをはじめ名峰連なる長野県で表現したい、と温めて来た構想もある。このアウトプットの先としては、インバウンドや強い経済原理を持つ顧客層に親和性がある。こちらをThe Club Togariと称し、アジア初の会員制スキーリゾートとして、5年前に閉山していた60ヘクタール分を2026年シーズンから稼働させ、1つの山にパブリックとプライベート2つの経済構造を持たせた。この会員制クラブは、日本のスポーツ文化に浸透しているゴルフクラブ会員権と同じシステムで、会員権を購入したメンバーとそのゲストだけが利用できる、ゲレンデとクラブハウスということだ。混まないのは当然だが、新雪のパウダーを求めて朝一番のリフトに乗ったら、2本目もまだパウダーを楽しめるような、会員が思い描くコンディションのゲレンデを提供する。ドアを開けたらすぐゲレンデ、という夢も叶えたい。リフトとクラブハウスの間にスキーイン、スキーアウトができる戸建てヴィラを建設し、ヴィラ購入者が使わない日は、ホテルとして貸すこともできる。戸狩温泉だけで滑って欲しいわけではなく、The Club Togariをハブにして、北信州エリアにあるスキー場と文化を楽しんでほしい。そんな思いから、新幹線で往来しても、愛車を戸狩に保管できるサービスも提供する予定だ。

 生まれ変わる戸狩リゾートの顔として、最新のヴェルファイア2台をショーファーカーに購入した。やはり私が関わるならば、そこにクルマが象徴としていないと座りが悪い。もちろんヴェルファイアに決まるまでのプロセスも、乗った感想、どのクルマと比較し、それらを軽々と超えてきたか、本誌に2千文字のディテールで書きたいのだが、それはこの号が出る頃は、毎日戸狩で滑っている私を見つけて聞いて欲しい。山頂カフェから雲海を見ながら、話したいことがたくさんあるんだ。

Hiroshi Hamaguchi

1976年生まれ。起業家として活動する傍ら32才でレースの世界へ。スーパーGTでの優勝を経て、欧州最高峰GTシリーズであるヨーロピアン・ル・マン・シリーズ2024年度シリーズチャンピオンを獲得。ル・マン24時間出場。フィアットからマクラーレンまで所有車両は幅広い。投資とM&Aコンサルティング業務を行う濱口アセットマネジメント株式会社の代表取締役でもある。

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