来る12月6日(土)、7日(日)、南房総にある会員制サーキット、The Magarigawa Club で第2回房走祭が開催される。
前回を大きく上回る300台のあらゆるクルマが集結するが、小林可夢偉氏をはじめとする、モータースポーツ界のレジェンドたちが来場し、「メルセデスAMG ONE」「アストンマーティン・ヴァルキリー」「フェラーリ・モンツァ SP1/SP2」「フェラーリ・デイトナ SP3」「シンガー ポルシェ935」といった世界屈指のハイパーカーや名車が全開走行する。希少な名車から、マガリガワ会員自慢の愛車、そして、協賛メーカーの最新車両までが、マガリガワのダイナミックなコースを駆け上がる光景は他では見ることができないものだ。
そのクルマから降りた往年の名ドライバーと、現役ドライバーが立ち話をする姿も、間近で見られるだろう。自分の愛車に乗ったプロドライバーに、感想を聞くオーナーの姿も見られるだろう。地域住民にもクラブの事を知ってもらいたいということで、地元の方たちを招待し、クルマを愛する人だけが持つ熱気、情熱に触れられる2日間となっている。私はこのクラブに関わり、ひと月に何度も通うサーキットなので、ハイパーカーが走る風景は、もう見慣れたのではないか、と聞かれることがある。見慣れたと言いたいところだが、そんなことは全くない。聞いたことのないエンジン音が響くといつも心が踊るし、クリスマスの朝の子供のようにピットへ急ぎ、クルマへの価値観を同じくするオーナーさん達と、時間を忘れリラックスして話し込んでしまう。日常的に行く私でさえそうなのだから、この房走祭に来る方たちは、もっと刺激的な時間を過ごすことができるのではないだろうか。

房走祭の第1回目は2023年7月、同クラブの導入期である開業時に行われ、大盛況で終わった。その盛況の中には、アジア初となる会員制サーキットであることや、およそサーキットらしからぬピットエリアやラウンジ、インフィニティ・プールなどのこだわり抜いた意匠、即完売した会員権の価格が耳目を集め、話題となっていた側面もあっただろう。しかし、房走祭へ来場された地元の方から拝聴したコメントは、この房走祭の大切な部分を明確にしてくれたと私は思い、胸に刻んでいる。「ゲートまでしか見えなかった時に想像していたよりも、全てが異次元で、数倍、いや、数十倍も驚いて、最初は落ち着かなかったんだ。でもよく見たらタイの三輪車タクシー・トゥクトゥクや、世界中の国の乗り物が集められ、地元のお店やワークショップもあって、そこで地元の南房総の住民が、音楽とエンジン音の共演を楽しんでいたんだよ。クルマを楽しむ、って言うのがわかったよ」 そう一気に話す姿を見て、私は英国のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを思った。
イギリス南部のサセックス州にある、侯爵のグッドウッド邸敷地内で行われる伝統自動車イベント、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを、読者の皆さんなら知っておられるであろう。4日間で20万人が訪れるビッグイベントだが、1993年が初開催という歴史の若さにも関わらず、最新F1からクルマの古書まで、クルマに関わるものは全て集まる、世界が注目するイベントになっている。旧車のレースや、歴代の名ドライバーが一堂に会すレーシングカーのヒルクライムなどアクティビティが行われると、YouTubeやSNSはグッドウッドの切り抜き動画や写真、ライブで埋め尽くされるのは、もはや恒例だ。その反響の大きさから、近年は自動車メーカーの新車発表や、初走行を披露する場としても使われている。ここでは旧車のコンクールや、モーターショーのような出品展示スタイルは無い。動物園の檻の中を昼寝する豹ではなく、獲物の後ろ姿へ襲いかかる寸前のような、全開スピードの走行シーンを見せ、人々を熱狂させている。モビリティ・カルチャーを愛する人から愛する人へ渡す、バトンを感じられるのがグッドウッドなのだ。

買っても、乗らずに奥座敷へ飾り、しまっておいたクルマが「いいクルマ」だった時代があった。走行距離は悪で、「いいクルマ」を所有することが主目的だった。この時代が日本は長かったが、マガリガワの誕生は、日本をステージに、アジアのモビリティ・カルチャーが、成長期へと励起する起爆線となった。ここマガリガワでは、グッドウッド同様にエンジンはぶん回した方が「いいクルマ」なのだ。あぁ、早く乗りたい、と思わせるのが「いいクルマ」という、情熱を思い起こさせてくれる。そして、この房走祭を企画する前、いや、雑木だらけだったこの山を切り開く前から、マガリガワはクルマで結ぶ地域共存を掲げていた。第1回房走祭を開催した2年前より、クラブに自他共栄のスピリットが二重、三重にも厚く刻まれた今、尚のこと房走祭を、私は日本の、いや、アジアのグッドウッドだと思っている。

Hiroshi Hamaguchi
