先月に続いて今月もサーキットでの試乗会に参加した。
しかし今回は二輪ではなく、贅沢なことに歴代のGRヤリス4台を一気に試乗したのだ。思い返してみるとサーキットで四輪を走らせるのは10年ぶりとなった。実は三半規管が弱いせいか自分で運転していてもクルマに酔ってしまうので四輪のスポーツ走行はできるだけ避けていたのだ。今回も当初はモータージャーナリストの山田弘樹氏の同乗走行を数周だけ体験しようと考えていたが、こんなチャンスはめったにないと自分でも運転することにしたのである。
知っての通りGRヤリスは、レーシングカーに近い開発ストーリーを持って生まれてきたクルマだ(詳しくは特集記事のp6~7を読んでいただきたい)。そういった背景もあって車体剛性が高いので挙動が分かりやすく、フワついた感じが一切ない。また操作に対してリアルにクルマが反応するから先の動きを予測できる。そのおかげで最初の走行こそ体調を疑っていたが、2本目、3本目と走行を重ね、最後まで車酔いすることなく運転に集中できたのだ。
開発者に話を聞くとGRヤリスは2020年の発売以降も留まることなく開発を進めてきたという。エアロダイナミクスやソフトウエアのアップデートはもちろんのこと、ボルト頭部の寸法の拡大や座面形状の見直し、サスペンション接合部のボルトの本数を増やすなど、デジタルが全盛の時代の中で細部に至るまでアナログな進化を続けていたのである。
先月のドゥカティの時にも感じたが、サーキットで試乗会を開催するのは、クルマの出来に自信がないとできないことだと思う。ひとつ間違えば、これから売り出す“製品”の未熟さを露呈してしまうからだ。裏を返せば自分たちのやってきたことに誇りがあるからこそサーキットで試乗会をおこなうのだろう。以前に比べてスポーツカーや二輪のスーパースポーツのニーズが減ってきているので仕方ないとはいえ、サーキットでの試乗会が少なくなってしまったのは寂しいことである。
神尾 成/Sei Kamio