今年は昭和100年にあたり、戦後が始まって80年となる。
日本にとって節目を迎える2025年は、あらゆる分野で、これまでの価値観を見直すタイミングに来ているように思う。今までのように空気を読んで流れに沿うのではなく、自らの意志を強く持つことが必要になってきているのではないだろうか。
Ducati Panigale V4S
総排気量:1,103cc
エンジン:水冷90度V型4気筒DOHC4バルブ
最高出力:216PS/13,500rpm 最大トルク:12.3kgm/11,250rpm
装備重量:187kg(燃料を除く)
フラッグシップとは何か
文・伊丹孝裕 写真・関野 温
この10年の間、時代をスキップするスーパースポーツが定期的に登場してきた。300㎞/hに達してなお、異常なほどの静けさを保つヤマハ・YZF-R1/M(’15年)の精緻さ。とめどなくスピードが上昇し、市販車で初めてウイングレットを付けてほしいと感じたドゥカティ・パニガーレV4S(’18年)の凄み。1速で180㎞/hまで押し上げるパワーを持ちながら、なにをやってもビクともしないホンダ・CBR1000RR-R(’20年)のスタビリティがそうだ。このカテゴリーの意義を、それぞれのメーカーがそれぞれのスタンスで表現していた。
このあたりまでは「凄い」、「速い」と感嘆しつつも、すべての機能を体感できた。無邪気に興奮していられなくなったのが、’22年にBMW・S1000RRに乗った時だ。起きてしまったホイールスピンやスライドを抑制する機能は当たり前の装備だが、BMWはその手前、コーナー進入時に意図的にタイヤを振り出してドリフト状態へ持ち込み、その時の舵角や加速度に応じて、車体姿勢を最適化するシステムを加えた。モトGPの世界でよく見られる、ライダーが足を出してタイヤを滑らせながらコーナーへ飛び込むあれ。あの挙動を促す制御であり、“現役”じゃないととても踏み込めない。
スーパースポーツのフラッグシップは、長らくレーシングマシンのスピードを指標にしてきたが、電子制御の項目や精度に関してはそれを越えている。モトGPマシンではなく、モトGPライダーのスキルを再現する。今はそういうレベルにある。
色々なことがあまりに高度になったのは事実だ。しかしながら、過去のいびつさを思えば、現在はどのメーカーも純粋に技術を追求し、ユーザーがそれを享受できる状態にある。50代以上のライダーなら、排気量や馬力、排ガスにまつわる日本独自の規制を経験してきたはずだ。内容は時代によるが、ナナハン以上は禁止だったり、大幅なデチューンを余儀なくされたり、それを回避するため、逆輸入なるアクロバティックな方法が生み出され、フルパワー仕様かどうかのマウントがあったり。90年代に入って段階的に緩み始めたものの、ドゥカティやMVアグスタの優美さを台無しにする長大なサイレンサーを求められた期間もあった。象徴的だったのは、ホンダが送り出したRC213V-S(’15年)で、2,190万円のリアルモトGPマシンレプリカでありながら、リーガルな状態で乗るなら、215psの最高出力を70psに留める必要があった。
それが、欧州で適用されたユーロ4(規制)を機に一気に緩和。突然日本でも200psがまかり通るようになった。最新のパニガーレV4Rは最高出力237psを公称し、車重は184㎏(燃料なし)に過ぎない。ハイスペックを一流のコンポーネントで包めば、コストに反映されるが、図式としては明快だ。499万円の車体価格に異議を唱える人はいない。一方で、「使えないパワーなんて意味がない」という主張も確かにあって、メーカーも理解している。その受け皿として新世代のミドルクラスが台頭を見せ、最高出力120ps前後、排気量は900㏄あたりで基準が模索されている。
もっとも、ミドルクラスがツウを気取れるのもリッタークラスあってのことだ。ならいっそ、フラッグシップはもっと先鋭化してもいいのでは? と考えたメーカーがある。BMWとカワサキだ。BMWは、4輪で伝統のMブランドを2輪にも持ち込み、’21年以降、S1000RRのチューニング版とも呼べるM1000RRをラインナップ。魅力的なオプションを加えていくと、瞬く間に500万円を超えるがセールスは好調だ。
カワサキは、より戦略的だ。本家としてNinjaZX-10Rをラインナップしつつ、’19年からイタリアのコンストラクター、ビモータと協業を始めている。その贈り物として、同モデルのエンジンを託し、プレミアムなスーパースポーツ、KB998リミニ(’24年)を送り出した。工芸品としての価値に留まらず、今年から参戦し始めたワールドスーパーバイク選手権では早々に表彰台へ上がるなど、パフォーマンス面でも躍動。ビモータの名の元なら素材や製法、コンポーネントの選定に糸目をつけず、その結果コストが上がっても受け入れられるだけの下地がある。4輪でいうところのハイパーカーのようなポジショニングでブランド力を高めている。
そんな中、これまでと同様に独自路線を歩もうとしているのがスズキだ。このクラスの立役者でありながら、’22年でGSX-R1000Rの生産を終了し、モトGPからも撤退している。こうした世界からフェードアウトするのかと思いきや、GSX-Rの復活を先頃予告し、世界中のファンを安堵させた。発表された内容を見る限り、花より実を取った、つまり多勢とは逆行し、価格上昇を極力抑えたスズキらしいスーパースポーツになりそうだ。レースやサーキットを横目に見ながらも、メーカー毎にまったく異なるアプローチがないまぜになっているカテゴリーでもある。
YAMAHA YZF-R1M (’15年)
エンジン:水冷並列4気筒DOHC4バルブ
最高出力:未発表
最大トルク:11.5kgm/11,500rpm
車両重量:201kg
HONDA CBR1000RR-R(’20年)
エンジン:水冷並列4気筒DOHC4バルブ
最高出力:160kW(218PS)/14,500rpm
最大トルク:11.5kgm/12,500rpm
車両重量:201kg
BMW M1000RR
総排気量:999cc
エンジン:油冷/水冷並列4気筒DOHC4バルブ
最高出力:218PS/14500rpm
最大トルク:113Nm/11,000rpm
車両重量:194kg
HONDA RC213V-S(’15年)
総排気量:999cc
エンジン:水冷V型4気筒DOHC4バルブ
最高出力:70PS/6,000rpm
最大トルク:8.8kgm/5,000rpm
車両重量:170kg(乾燥)
BIMOTA KB998 Rimini
総排気量:998cc
エンジン:水冷並列4気筒DOHC4バルブ
最高出力:200PS/13,600rpm
最大トルク:111Nm(11.3kgm)/11,700rpm
SUZUKI GSX-R1000R
エンジン:水冷並列4気筒DOHC4バルブ
最高出力:195PS/13,200rpm
最大トルク:110Nm/11,000rpm
車両重量:203kg
伊丹孝裕/Takahiro Itami
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