長野県にあるパウダースノーのスキー場を購入した。
私の本業であるM&Aと投資業の視点で見て将来性があると感じ、ここ数年その観点を持って新潟や長野に通い、やっとスタート地点に立ったところだ。雪の無い長野県へ向かい、山の中腹に立つリフトの鉄柱に腕まくりして登り、照りつける太陽の下で、汗だくになりながら設備をこの目で確認する。こんな若手社員のような働きも厭わないのは、私の情熱をクルマとレースの次に注いでいる、スキーへ関われる喜びからだろう。
こうして長野への日参が始まると、水稲の青葉が美しいこの自然を壊したくない思いを、リアリティを持って抱くようになったのは、至極自然な流れだった。そう思う中で私は、いま目の前にある環境負荷を低減できるEVで、四輪駆動で道幅が広くない地域に適したサイズで、航続走行距離は東京から長野の往復分を備え、なおかつ走りも求められるクルマに、興味が湧いてきた。乗ったことがあるメルセデスベンツのEQE SUV、レクサスのRZ、BMWのiXシリーズ、ロータスのエレトレ、ジャガーのi-Paceなど候補に挙げるが、最後はいつもデザインの好みで選んでしまう。ポルシェ・マカン4EVだった。
正面から見たマカン4はタイカンを薄めたドライな顔つきで、このサイズの他車に比べ精悍さを強く感じた。横へ回ってみると、まず大型ホイールと車高のバランスが目に飛び込んで来る。SUVであってもツライチであって欲しい私に、このマカンのタイヤとホイールのオフセットと車高の設定は、ランボルギーニのウルスよりも攻めている印象だ。ホイールはナローポルシェ時代からブランドを象徴してきた5本スポーク。ポルシェ好きならば、このデザインを愛さない訳がない。頷きながらドライバーズシートに座り、周りを見渡す。ステアリングを中心にした近景は、間違いなく馴染みのあるポルシェそのもの。しかし、ここからはEVを実感するターンだ。ボタンを軽く押すと、カーブした大型ディスプレイに表示が浮かび上がり、マカンが起動したことを知らせる。BEV車は大きなパソコンに乗り込んだようだな、といつも思う。静かな始動に、パソコンの起動音のような音を出してくれたらいいのに、と思いながら、アクセルを踏みこんだ。
走り出してすぐに、アグレッシヴな見た目が、ドライブフィールにも反映されていることがわかった。400馬力超あるものの、2.5トンの車重がディスアドバンテージになり、踏み込んだ加速で驚くことはなかったが、高速道路での中間速度からの加速フィールは、入りたい場所へ飛び込める十分な速さがあった。マカン・ターボのパフォーマンスがデビュー時に強いインパクトを与えたこともあり、私が乗ったマカン4はマイルドだが、不足に感じることはない。動き出しの凸凹路面では、サスペンションのストローク幅の少なさを感じ、冬の雪道ではちょっと苦労しそうだが、ステアリングの正確さはポルシェの伝統そのもの。後軸駆動化も加点となり、走行面の総合点は高い。
気になるBEVの、最たる問題点に触れよう。充電問題だ。10年前、私はBMW i3を所有していた。かつてのBEVは長野往復のような使い方が、到底出来るものではなかった。加速すればバッテリーゲージはみるみる減り、エアコンを入れると更に目減りし、私に精神的プレッシャーを与えた。出先や高速道路のパーキングエリアで、運良く充電が空いていても、1時間程の充電時間に足止めされ、徒歩範囲で時間を潰す場所を求め彷徨い、BEVで出かけると時間が読めない焦りと居心地の悪さを抱えた。あの頃から充電場所が大きく増えた訳ではなく、EVを買った友人たちは、当時の私同様に遠出できないでいる。
しかし今回の長野で、私はBEVの問題解決を経験した。それは、マカン4の充電が減って来たので、長野市のポルシェ・ディーラー、ポルシェセンター長野へ電話し、急速充電をお願いしたことからだった。電話口で快く対応して頂け、ナビを頼りに到着すると店長が迎え、急速充電を差し込んで「20分ほどです。店内でお飲み物をお出ししますので、どうぞ」とショールームへ通されたのだ。充電の引け目を感じさせないエスコートで、私は空調の効いた店内のソファへ座った。笑顔で差し出されたドリンクメニューには、地の物のスカッシュがあり、長野を口で感じ、くつろぎながら20分の充電時間を過ごした。聞けばポルシェ、レクサス、アウディ、フォルクスワーゲンのディーラー網で同じように高速充電が順次できるようになり、購入時にインストールしたポルシェ・アプリで決済するので、煩わしい登録などなく、シームレスに充電を行えるという。これはBEVオーナー向けに、先述した4ブランドが展開している「プレミアム チャージング アライアンス」サービスで、日本最大級の急速充電ネットワークが誕生したことになるだろう。
この快適さは、過去にBEVで苦労していないと、芯まで理解してもらえないかもしれない。そのBEVが抱える大きな障壁に、意外な4社が協業した。この意欲的なアプローチに、澱のように私の中で沈んでいたBEVのイメージが、長野の空気のようにキレイに澄み渡り、未来へと繋がったBEV遠征となった。
Hiroshi Hamaguchi