編集前記 Vol.24 テレビの影響力とネットの浸透力

文・神尾 成

先月の上旬に生まれ故郷でもある神戸へと向かった。

 その日は兵庫県知事選挙の投開票日1週間前の週末ということで盛んに選挙活動がおこなわれていた。以前から兵庫県庁で起きた一連の事件をSNSやYouTubeで追っていたので、現地の様子を少しでも知りたいと思い立ったのである。

 尼崎駅で19時から斎藤元彦さんが街頭演説をはじめることをSNSで知り、カーシェアでクルマを借りて観に行くことにした。18時前に会場に到着したのだが、近くの駐車場は、ほぼ満車で駅へ続く歩道橋には、すでに人が溢れている。そして開始時間が近づき、選挙カーが現れると歓声が上がって大きな拍手が沸き起こった。しかし演説が始まると皆静かに話を聞き入り、斎藤さんが呼びかけると大勢の人が呼応していく。それは、さながら野外ライブのような雰囲気だった。

 その翌日、今度は長崎へ移動した。『タビフクヤマ』というテレビ番組で紹介された老舗の楽器店を訪れたかったのだ。昭和34年創業の「原楽器店」は、主に70~80年代の安価なギターをリペアして良心的な価格で販売している。二代目社長の原宰一郎さん曰く「長崎の音楽の火種を消したくない」と、学生のスタジオ使用料を1時間1000円と格安に設定して、無料でギターやベースを貸しているという。「放送の翌日から大勢のひとが来てくれるようになって長崎の音楽文化が活気づいた」と、喜びを交えてこれまでの苦労を話してくれた。

 先の兵庫県知事選挙の結果を受けてテレビとネットが対立しているような論調を目にするが、そもそもテレビは“映画に代わる娯楽”として発展してきた。そしてネットは玉石混淆ぎょくせきこんこうを良しとする情報発信に特化したメディアだ。その背景からも両者の情報は質が異なるのである。テレビは不特定多数を惹き込む影響力があり、ネットは個人の興味を深掘りできる。だからテレビで原楽器店の存在を知って多くの人が来店し、ネットで斎藤さんのことを調べて熱狂したのだろう。質の違いは男女の別と同じで、どちらが“エライ”ということではないように思う。

神尾 成/Sei Kamio

2008年からaheadの、ほぼ全ての記事を企画している。2017年に編集長を退いたが、昨年より編集長に復帰。朝日新聞社のプレスライダー(IEC所属)、バイク用品店ライコランドの開発室主任、神戸ユニコーンのカスタムバイクの企画開発などに携わってきた二輪派。1964年生まれ60歳。

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