急激な物価上昇のあおりを受けてクルマを購入するハードルが高くなった。
それに最近は、にぎやかだったイタフラ車の存在があまり感じられなくなった気がする。また理屈抜きでバイクを楽しむことができるのは今が最後かもしれないと思う。そして、先のことを考えて真面目に過ごしているだけで良いのか本気で迷いはじめている。それが今の50代のリアルな感覚ではないだろうか。
50代からのモタードのススメ
文・伊丹孝裕 写真・淵本智信
存在は知っているし、乗るとどんな感じなのか興味はあれど、いざ手に入れるとなると、なかなかふんぎりがつかないカテゴリー。それがスーパーモタードだと思います。かくいう自分は、かつてホンダXR100モタードとハスクバーナ701スーパーモトを所有し、日常の移動からツーリング、サーキットのスポーツ走行から競技参戦まで活用していました。特に701スーパーモトは、その猛々しさといい、反応のシャープさといい、足さばきのよさといい、4輪ラリーのホモロゲーションモデルに乗っているかのような武装感と高い機動力が魅力でした。
言い方を変えると、ユーザーの多くが躊躇する理由もまさにそこ。快適性なんぞ知ったことか、というピンポイントな作り込みをどう受け留めるかによって、評価がまるで異なるからです。ただひたすら曲がることに没頭したい。そこに重きを置くライダーなら、これ以上の選択はなく、その意味で4輪のスーパーセブンあたりも同種でしょう。なにかの役に立つシーンは極めて少ないものの、ほとんどの機能をコーナリングに全振りした清々しさは、ちょっと他に代えがたいものがあります。
このところ注視すべきは、そんなスーパーモタード界がにわかに活気づいてきたことです。その先鋒にして主役は、9月から発売が始まったドゥカティのハイパーモタード698モノで、L型2気筒エンジンを搭載する従来モデルとは、まったく別の血統として登場。わずか151㎏(燃料除く)の車体に組み合わせられた完全新規開発の659㏄単気筒エンジンと、77.5psの最高出力を安定性よりも俊敏性に転化する攻めの電子制御を備えたモデルです。
これに加え、先頃開催されたEICMA(ミラノショー)では、スズキがDR-Z4SMを、KTMは390SMC Rといったスーパーモタードモデルを披露。また、国内ではカワサキKLX230SMの’25年モデルが発表されるなど、昨今のビッグアドベンチャーブームとは対極にある、軽量スリムなパッケージが増えつつあるのが今です。
もっとも、このカテゴリーが大きな勢力を築くことはないでしょうが、万人向けではないからこそ、ストイックな時間の中で、車体との一体感に身を浸せるはず。そして、バイクに乗り始めた頃に感じた、純粋に楽しかった気持ちを蘇らせてくれるのです。
Ducati Hypermotard 698 Mono
総排気量:659cc
エンジン:水冷4ストローク 単気筒
装備重量:151kg(燃料を除く)
最高出力:57kW(77.5ps)/9,750rpm
最大トルク:63Nm(6.4kgm)/8,000rpm
免許を取って公道に出た時、自分がとてつもない武器を手に入れたと感じたことでしょう。便利な装備も高いスペックも二の次で、マシンを手なずける高揚感に溢れていたのでは? スーパーモタードに例外なく搭載されている感覚性能が、まさにそれ。風雨や寒暖は受け留めるしかなく、長距離を一息に走ることは難しく、積載性はなきに等しいながらも、スロットルを大きくひねり、ブレーキをガツンと握り、車上で前後左右上下に忙しく動き回りながら、コーナーというコーナーをむさぼる時の没入感がそれらを圧倒。道が続く限り、その醍醐味が途切れず、足りないものが少々あっても、そのすべてを帳消しにしてくれる乗り物なのです。
積極的にすすめたりはしませんし、無責任に褒めそやしたりもしません。できることは少ないけれど、できることの快楽がこの上ないからこそ、スーパーモタードは絶えることなく存在し続け、乗った者だけが知れる至福の世界があるのです。かつてのビッグシングルも、かつてのライトウェイトスポーツも、走ることだけを突き詰めていました。そのピュアな有り様を、スーパーモタードという異形の中に見つけることができるのです。
SUZUKI DR-Z4SM
総排気量:398cm2
エンジン:水冷4サイクル 単気筒 DOHCエンジン
装備重量:154kg 最高出力:未発表
最大トルク:未発表
KAWASAKI KLX230SM
総排気量:232cm2
エンジン:空冷4ストローク 単気筒
車両重量:137kg
最高出力:13kW(18ps)/8,000rpm
最大トルク:19Nm(1.9kgm)/6,400rpm
KTM 390 SMC R
Photo:KTM Sportmotorcycle
Husqvarna 701 Supermoto
総排気量:692.7cm2
エンジン:水冷4ストローク 単気筒
車両重量:148kg(燃料なし)
最高出力:55kW(75ps)/8,000rpm
最大トルク:73.5Nm/6,500rpm
伊丹孝裕/ Takahiro Itami
伊丹孝裕