濱口 弘のクルマ哲学 Vol.34 欧州勢のリアルなEV事情

文・濱口 弘/写真・シャシン株式会社

立て続けに乗ったVWのID.4と、アバルト500eが頭を離れない。

 今更な問いかけかもしれないが、世の中はEVへシフトするのか、しているのか。VWのID.4とアバルト500eの2台のEV車輌をテーブルに載せ、今後のEVの方向性を探ってみたい。

 2030年まで、と掲げられていた欧州メーカーのEV化は、義務にも受け取れるようなテンションから、目標設定、その後は努力目標とトーンダウンを感じるが、それを証明するように毎月欧州へ渡航する私が見ても、この3年でEVが大幅に増えている印象はなく、一部の大都市にある排ガス規制への対応としたEVよりも、PHEVやハイブリッド車のほうが目にとまるようになってきた。ハイブリッドならパドルシフトにできエンジンの鼓動も感じられるが、マニュアル車に操作感とクルマとの関わりを求めてきた欧州人には、まだEVに乗る理由を見出せていないようだ。環境配慮という点でもフランスのように原子力発電が85%を占めるような国でない限り、火力発電に頼っている国において、二酸化炭素排出量という点ではEVよりも遥かにハイブリット車のほうがアドバンテージはある。

 しかし市場に残るのは必ずしもベストなプロダクトとは限らない。1980年代にビデオ録画が一般的となり、ベータとVHSの2規格が生まれたが、画質、サイズはベータのほうが高性能高評価だったにも関わらず、市場はVHSへと流れベータは消えていった。歴史は繰り返し、1997年に世に出て二酸化炭素排出量、エネルギー効率でも上回っているハイブリットに対し、欧州はディーゼル車をクリーンディーゼルと改名し、ハイブリッドに総スカンを食らわせた。政治、時勢、プロダクト、ものが売れ使われていくには様々な要素の組合せであり、技術や費用対効果だけではない事を認識した大きな波だったと思っている。

 そんな時代をうまく調理した感のあるVWのID.4には、全てが腑に落ちた。EVならではの広い車内空間、静粛性、動力性能、誰にもNOと言われないデザインとビルドクオリティは移動の道具としては申し分ない。ID.4はプロダクトとして全て平均点をクリアしているので、二択ならどちらを買うか、と問われたら間違いなくID.4と答えるだろう。

 一方、アバルト500eは、同社のラインナップがEVだけになるのか疑わしく感じさせた。先にデビューしているフィアット500eが完全EVであることを考えると、同じプラットフォームに内燃機構を載せることは現実的ではない。外装デザインは伝統を継承しながらもモダンなテイストがインプットされていて、EV車輌の中では群を抜いて可愛いくアイコニックだ。ただ、初代、先代のチンクエチェント、アバルトを所有している古参から見れば、EVのイメージを無味と捉えているのか、内装はダッシュ周りが平面的で先代のような立体感に欠け、レトロな要素が皆無になったデザインには落胆せざるを得ないであろう。走りに関してもアバルトの看板を背負っているので高い期待があったが、残念ながらどのEVにも言えるが特徴はない。スピーカーから出るエンジン音は、走る楽しみを消したくないレーシングマニュファクチュアの抵抗を感じるが、走りには直接的に関係はないので、好みの問題になってしまうだろう。アバルト500eに乗れば乗るほどアバルトの良さは、あのエンジンの鼓動、ダウンシフトチェンジ時のブリッピング、ギア操作そのものだったと再認識させられるのだ。そして、EV車を作っておきながら、端々に昨今の規制は肌が合わない、とばかりの意思表明を強く感じるのだ。

 所有したBMW i3を含め、ポルシェ・タイカンのようなEVやPHEV、パフォーマンスを追求したPHEVとしてポルシェ918、SF90とさまざま比較してきた。時代もメーカーも私も迷っているけど、行き着くところPHEVなのではないだろうか。エネルギー効率、航続距離、運転の楽しみもEVの静粛性も全てのバランスが取れているハイブリットが、市場の迷いや時代の変化と調和し今の時代を動かすツールであると思い改め、2023年度の日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞車であるプリウスも、来年春に私のガレージに納車予定のマクラーレン・アルトゥーラも、PHEVであることは自然な流れなのであろう。

Hiroshi Hamaguchi

1976年生まれ。起業家として活動する傍ら32才でレースの世界へ。ポルシェ・カレラカップジャパン、スーパーGT、そしてGT3シリーズとアジアからヨーロッパへと活躍の場を広げ、2019年はヨーロッパのGT3最高峰レースでシリーズチャンピオンを獲得。FIA主催のレースでも世界一に輝く。投資とM&Aコンサルティング業務を行う濱口アセットマネジメント株式会社の代表取締役でもある。

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