欧州のリアルハイブリッド ルノーE-TECH

文・山田弘樹 写真・長谷川徹(ルノー ルーテシア)

いま、ルノーが日本で好調だ。彼らのリリースによれば’22年の累計販売台数は過去最高の8615台に上り、日本におけるフランス車ナンバーワンの座を、ついに射止めたという。

 ただ“年度”としてこれを見るとその歴史を作ってきたプジョーが僅差で首位の座を守っているのだが、ともかくいまルノーに勢いがあることは、確かだ。

 その起爆剤となったのがルノー独自の「E-TECH FULL HYBRID」である。プリウスの登場から26年、もはやハイブリッドというワードが必要不可欠になっている我々日本人にとって、ルノーが欧州車初のストロングハイブリッドを搭載したことは、間違いなくその販売に貢献した。既存の欧州車、特にドイツ車ユーザーの乗り換え候補としてはもちろん、「一度はガイシャに乗ってみたいけど…」と二の足を踏んでいた国産車ユーザーの背中を、強く後押ししたと言えるだろう。

 そんなE-TECHフルハイブリッド最大の特徴は、エンジンに4段、そしてモーターに2段のギアを持っていることだ。そしてこれが、燃費と走りの楽しさの両方に効く。

 ちなみに日本勢は日産e-POWERのようなシリーズ方式の場合、エンジンは発電機に徹するからトランスミッションはない。トヨタやホンダのパラレル式でもエンジンは高速巡航の限定された領域にのみ直結させ、そのほとんどをモーター駆動とするから、同様である。ではなぜルノーが4+2段の複雑なトランスミッションを採用したのか? 同じアライアンスである日産からe-POWERを借用しなかったのか?

 それは彼らが、他人の物真似を嫌う気質であることがひとつ。そして彼らの使用環境においては、既存のハイブリッドの方がむしろ燃費が悪かったからだろう。

 ご存じの通り欧州は一般道でも80~100㎞/h走行が可能なエリアがあり、高速道路の最高速度も130㎞/hに設定されている。またドイツには、速度無制限のアウトバーンもある。

 こうした状況でハイブリッドとPHEVは、燃費が悪い。ギアを持たない構造からエンジンはオーバードライブできず、かつモーターは回りっ放しだから電池も直ぐに尽きる。そしてその充電のために、さらにエンジンを回す羽目になる。これをルノーは、独自のシステムで解決しようとしたのだ。

 なんてことを言うとWLTC高速燃費でも国産ハイブリッドの方が上の数値を示しているとツッコまれそうだが、日本のカタログに使われる高速燃費は欧州の計測方法に比べて平均速度が56.7㎞/h、最高速度も97.4㎞/hと計測速度が低い。また日本でも局所的に120㎞/h巡航道路が増えて来ているだけに、将来的に考えても筆者はこのE-TECHフルハイブリッドに、可能性があると思っている。ちなみにルノー自身はこのハイブリッドを、1.5Lディーゼルターボの代替えユニットとして考案した。

ルノーのエンジニアであるニコラ・フレモー(Nicolas Fremau)氏は、自宅で息子がレゴ®️テクニックのスプロケットで遊んでいるのをみた時、「自分がやりたいこととそれほど遠くない」と思ったという。それでクリスマス休暇を利用して、紙の上で想像した革新的な3速トランスミッションのモデルを約20時間かけてレゴで完成させた。そしてその後、ルノー史上最も安価 、、、、、、、、、なプロトタイプがつくられたのである。

 そしてE-TECHフルハイブリッドは、走らせるとこれがまた、実に面白い。街中ではアクセルをガバッと踏み込まない限り、50㎞/hくらいまで楽々モーター走行。途中エンジンは発電のために始動することもあるが、自然吸気の直列4気筒は音質に嫌みがなく、クルマ自身も遮音性が高いから快適だ。

 楽しいのは、アクセルを踏み込んでから。エンジン側のトランスミッションにはF1由来のドッグクラッチが使われていて、その加速感には国産ハイブリッドでは味わえないダイレクトさがある。アクセル操作をラフにするとたまにギクシャクするが、普段は「ハイボルテージスターター&ジェネレーター」が、エンジンとトランスミッションの回転をスムーズに同期してくれる。SUVのアルカナだとパワフルさに欠けるが、一回り小さなルーテシアなら実にキビキビと、そしてシームレスに走ってくれるのだ。

ARKANA E-TECH ENGINEERED

車両本体価格:4,690,000円(税込)
[エンジン]
自然吸気直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,597L
最高出力:94PS(69kW)/5,600rpm
最大トルク:148Nm(15.1kgm)/3,600pm
[メインモーター]
最高出力:49PS(36kW)/1.677~6.000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgfm)/200~1,677rpm
[サブモーター]
最高出力:20PS(15kW)/2,865~10,000rpm

 対する足周りは、はっきりと硬め。国産モデルならここを忖度して乗り心地を優先させるところだが、ルノーは低転がり抵抗タイヤに合わせて足周り剛性も整え、エネルギーロスを抑えながらスポーティなハンドリングを与えている。またCセグまでカバーするプラットフォームの剛性も高く、総合的な乗り味はスッキリしている。だから乗れば乗るほど、その乗り味が体になじむ。例えればそれは、最初は硬いと感じていたフランスパンにハマる感じに似ている。

 ルノーの技術者は子供がレゴブロックで遊んでいるのを見ながら、そのトランスミッション構造を思いついた。そして実際に工業用レゴブロックを使って、それを検証したのだという。こうした発想の自由さが、その走りにはきちんと現れている。E-TECHフルハイブリッドはカタログ燃費より、実燃費に優れるパワーユニットだ。ルーテシアでもアルカナでも、キャプチャーでもいい。E-TECHハイブリッドを選ぶことで燃費に縛られる人生も、ちょっと、いやかなり楽しくなるはずだ。そんな予感がするからこそ、ルノーはいま売れているのだろう。フランス人はケチだと言うが、楽しいケチなら大歓迎だ。

LUTECIA E-TECH ENGINEERED

車両本体価格:3,790,000円(税込)
[エンジン]
自然吸気直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,596L 最高出力:91PS(67kW)/5,600rpm
最大トルク:144Nm(14.7kgm)/3,200pm
[メインモーター]
最高出力:49PS(36kW)/1.677~6.000rpm
最大トルク:205Nm(20.9kgfm)/200~1,677rpm
[サブモーター]
最高出力:20PS(15kW)/2,865~10,000rpm
最大トルク:50Nm(5.1kgfm)/200~2,865rpm
トランスミッション:4段AT(エンジン用)+2段AT(モーター用)
燃料消費率:25.2km/L(WLTCモード)

Koki Yamada

1971年東京生まれ。自動車雑誌『Tipo』編集部在籍後、フリーランスに。GTI CUPをかわきりにスーパー耐久等に出場し、その経験を生かして執筆活動を行うが本人的には“プロのクルマ好き”スタンス。5年前に長年憧れていたポルシェ911(993)を手に入れた。最近、自身のYouTubeチャンネル「Clipping Point」を立ち上げた。日本ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

定期購読はFujisanで