Promised Land プロミスト・ランド〜SDGsの創る約束の地 Vol.06

Vol.06 車内温度と食品ロス

文・まるも亜希子

 わが子が一生、食べ物に困ることがありませんように。そんな願いを込めて、生後100日前後に行うお祝いが「お食い初め」だ。人生で初めて口にする固形物になるので、先輩ママである妹たちから「将来の味覚に影響するよ」と聞き、この日ばかりは丁寧にお出汁をとり、ほうれん草をすりつぶしてコトコト煮た。ふうふうと冷ましてスプーンで口に運んであげると、娘は気に入ったようでニヤリ。一皿ペロッとたいらげてくれたのが嬉しかった。この時に思ったのは、好き嫌いなくなんでも美味しいと食べてくれる子に育って欲しいなということ。ところがそれから8年、どこでどう間違ったのか、娘の偏食に悩む毎日が続いている。

 昭和世代は給食を残すなんて言語道断、嫌いなものでも食べ終わるまで帰らせてもらえないのが当たり前だった。でも令和の小学校ではそこまで厳しくなく、食べ切る努力をしよう程度。娘が「今日は給食全部食べたよ」とアピールしてくるところをみると、きっと残している日も多いのだろう。

 この、食べ物を残してもいい、余ったら捨ててもいいという感覚は、戦時中に極貧生活を強いられた祖父母たちから、私たちの世代でもけしからんと言われていたが、そんな私たちからみても今の子供世代は無頓着すぎると危機感をおぼえる。日本だけでも年間約522万トンもの食料が捨てられているという、食品ロス問題がその象徴だ。

 どうしてそんなにも大量の食品がゴミになるのか、発生する原因は多岐にわたる。農業生産では、高く売るために規格外品を選別・除外するなどで、はずれたものは廃棄されてしまう。食品加工過程では、頻繁な商品切替えや規格変更による廃棄、保存技術や設備の不備などが課題。流通でも納品期限切れによる返品、売れ残りで廃棄される。

 さらに、料理の作りすぎや買い過ぎなどによる、家庭から出る食品ロスが約5割を占めているというから、主婦としては胸が痛い。わが家では食品の買い物にはクルマで行くことがほとんどなので、たくさん運べるからと無駄なモノまで買わないようにすることと、食品を買ったら車内に置きっぱなしにはせず、一目散に帰宅してなるべく早く冷蔵庫へ入れるように気をつけている。

 というのも、生肉などの生鮮食品はもちろんのこと、お惣菜など一度加熱してあるものであっても、20℃~50℃くらいまでの温度で細菌が繁殖しやすくなると聞いたからだ。最も活発に繁殖するのは37℃前後で、真夏でなくても直射日光が当たる車内は駐車後2~3時間で、調理済みのお弁当に食中毒になってもおかしくないくらいの菌が繁殖する、と言われている。

 この事実を知る前までは、夏場以外はあまり保冷バッグを持参することがなく、保冷剤を入れて持ち帰ることもしていなかった。しかも買い物をした後に娘にせがまれると、「ちょっとくらい、いいか」と公園に寄って遊んで帰ったりしていたものだった。幸い食中毒にはならなかったが、そういえば原因不明の腹痛だったり、お腹を下してしまったことは何度かあったから、もしかすると車内でじわじわと細菌が繁殖していたのかもしれない。

 食品安全委員会によれば、37℃でわずか15分で繁殖するのが魚介類に多く生息している腸炎ビブリオ。刺身や寿司をテイクアウトする時には要注意だ。37℃~40℃で約30分で繁殖するのが、腸管出血性大腸菌、サルモネラ菌。これは生肉に多く生息するという。

 最近は空前のアウトドアブームで、キャンプやバーベキューのために食品をたくさん積んで出かけるクルマも多くなっている。せっかく買い込んだ食品を無駄にしないためにも、保冷剤でしっかりと冷やしたクーラーボックスなどを準備して、10℃以下で保管しながら運ぶことを心がけたい。

Akiko Marumo

自動車誌『Tipo』を経て独立。10年に渡って本誌で女性視点のコラムを連載したほか、『浮谷東次郎を知った夏』『堀ひろ子という友人』を執筆。『岡崎宏司のクルマ美学』『マン島TTに挑戦した松下佳成』など、インタビュー記事にも定評がある。

積みっぱなしの備蓄食品

文・村上智子

グリーンデザイン&コンサルティングの非常食は、国内外自動車メーカー4社で車載備蓄用防災セットとして採用されている。

 夏はまだ先だ! と気を抜いていたら、閉め切った車内が思わぬ高温になった経験から、最近は日差しが強い日の車内温度に気を付けるようになった。よく考えると、エアコンによるガソリン消費量のアップや暑さによる食品劣化リスクなど、車内温度が環境・健康面に与える影響は結構大きい。aheadが別事業として、ウィンドウに貼るだけで車内温度上昇を抑える「aheadフィルム」(紫外線カット100%、赤外線カット最高値99%)の開発、販売に取り組んでいるのも、こんなところに理由がある。*

 さて、話を車内温度と食品に戻そう。食品といっても、ここで取り上げたいのは日常的に消費する食材ではなく、備蓄目的の食品だ。最近相次ぐ地震への不安もあり、とりあえずの非常時用としてトランクに2Lのペットボトルを積んでいる人も多いだろう。一般的な飲料水だと期限切れが気になるが、5年、10年保存を謳ったものなら積みっぱなしで安心だ。…と思っている人は一度、ラベルに書かれた“保存条件”をチェックして欲しい。

 備蓄用となると賞味期限を気にしがちだが、車載で重要なのは保管温度。ほとんどが、常温保存**を前提に製造されているため、時に50℃を超える夏場の車内では、通常の非常食では品質が維持できないのだ。では、積みっぱなしにしたい場合は? 実は、車載用に開発された備蓄品というものが存在する。

 防災備蓄用製品の企画・販売を行うグリーンデザイン&コンサルティングが扱うのは、-20℃~80℃の過酷な温度下でも7年間保存できる飲料水や保存食(上写真)。またペットとの避難に備え、車載用7年保存ドッグフードを開発、猫用も準備中だ。

 不思議なのは、パッケージで大きく“7年保存”をアピールしながらも、本当の賞味期限はそれより1年半も先だということ。背景には期限を迎えた備蓄品の大量廃棄問題がある。“7年保存”は、入れ替えは7年ごとに行い、発生した旧備蓄品は賞味期限に余裕のある食品として寄付に回そう、とのメッセージなのだ。“もしも”の備えが必ず誰かの役に立つ、食品循環がここにある。

*詳しくは 2022年12月号特集「Another Sky」 をご覧ください。
**JIS規格によると「常温」とは5~35℃の範囲。

Tomoko Murakami

新聞社に勤務後、フリーランスを経て、2007年にレゾナンス入社。2009年からaheadに参画する。結婚を機に一度退職し、イタリア・ローマに3年間在住。帰国後復帰し、現在は大阪からリモートで編集業務に携わっている。二児の母。

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