4輪vs2輪何が同じで何が違うのか 岡崎五朗vs伊丹孝裕

写真・長谷川徹/渕本智信/神谷朋公
RIDER:SEI KAMIO / ARAI HELMET:HYOD PRODUCTS:JAPEX (GAERNE)

4輪と2輪の違いは何だろう。4輪と2輪の同じところはどこだろう。

aheadは、クルマとバイクのもたらす力を伝えようと取り組んで来たが、今までその課題に向かい合ったことはなかった。

誰もが分かっているようで、分かりにくいその部分を4輪と2輪のジャーナリストの対談から紐解いていきたい。

※2011年12月号の対談記事のため、現在の認識と異なる部分があります。

2011年11月号 Vol.108 特集「4輪vs2輪 何が同じで何が違うのか 前編」より岡崎五朗・伊丹孝裕 対談 クルマとバイクその歴史と本質を探る

まとめ・伊丹孝裕

最初のガソリン車は、歴史的には3輪だった

伊丹4輪と2輪は、同じ路上で共存する乗り物ですが、社会的にもマインド的にも交わるようで交わらない感じですよね。お互いの立場からの意見を出し合いましょう。同じところと異なる部分が明確になれば、新たなモーターライフが見えてくるのではないかと思うのです。

岡崎まずは、取っ掛かりとして、モータリゼーション創世記から振り返っておこうよ。おもしろいことに、ガソリンを動力とする世界初の乗り物は2輪でも4輪でもなく、1886年にカール・ベンツが発明し、特許を取得した3輪だった。

伊丹同じ頃、ゴットリープ・ダイムラーがエンジン付きの自転車を発明していたと記憶していますが、特許面で言えば、ガソリン車の起源は3輪から始まるわけですね。

岡崎そう。4輪は馬車を、2輪は自転車を起源にしながら、より遠くへ移動するための手段を模索した。それらがいったん、3輪という形に集約され、さらに枝分かれしていった…というのがガソリン車の最初の過程と言えるかな。

伊丹なるほど。4輪、2輪共に、それからほどなくして競争の道具にもなり、スピードが追求され始めました。一部のカテゴリーを除くと、今でも2輪はその延長線上にあって、基本的にスポーツ路線を歩んでいるのではないかと考えています。

岡崎4輪もスポーツの路線を失ってしまった訳ではないけれど、2輪ほどメインストリームにはなってはいない。それは道具として社会に求められた結果だね。更に現代は、洋服と同じようにファッション的な要素までも求められている。

根本的に異なる対極の世界観

岡崎人間や馬の能力を超えた部分をエンジンに補ってもらいながら、速さや距離をかせぐというベースは同じ。ただ4輪は2輪と比べて物理的な制約が少なく、どんどん豪華に、快適になることが許された。その到達点が、メルセデス・ベンツやロールス・ロイスなどの高級車だね。

伊丹2輪の中にも、ホンダのゴールドウイングのように4輪的な豪華クルーザーがあり、その逆に4輪の中にはスーパー7のように2輪的なストイックさを持つものがあります。一見、いいとこどりのような乗り物にも思えますが、決してメジャーな存在にはなれませんね。

岡崎そうだね。ゴールドウイングがいくら快適でも、ミニバンの方が絶対に楽。スーパー7がいくら刺激的でもミドルクラス以上のバイクの加速には叶わない。進化の過程も異なれば、根本的な成り立ちも違う。4輪派の多くは快適な移動空間を求める。つまり2輪とは対極の世界。

伊丹確かに岡崎さんがおっしゃる通りです。では、趣味性の面からはどうでしょうか。 2輪も4輪も走りを楽しむという点では、通じるものがあるような気がしますが。

岡崎例えば「最近のクルマはおもしろくない」なんて話を聞くと、オーディオを止めてエンジン音に耳を傾けるようにアドバイスしている。ただ、それで何かを得る人もいるけど、基本的には難しいよ。4輪は自分の意志で感じようとしなければいけないけど、2輪はいやがおうでも音や振動にさらされる乗り物。走る事で五感を刺激するという意味では、完全に2輪に分があるように思うなあ。

〝鼓動〟が4輪と2輪の差を埋める?

伊丹2011年、ある一台のクルマが登場したことで、僕ら2輪業界の人間の心が少しざわつきました。

岡崎もしかして、フィアット500のツインエア?

伊丹そうです。2気筒エンジンを搭載していることに加えて、そのフィーリングを表現する際に多くの4輪ジャーナリストが「鼓動」という言葉を使っていますよね。これは4輪では極めて珍しいことかと。

岡崎ツインエアが2輪と4輪との差を埋めるピースになれば良いと考えてたんだけど、正直に言ってツインエアのそれは、まだ鼓動とは言えないな。回した時のパルス感は他に比べればあるけど、まだまだだね。ライダーは、そういう感覚性能みたいなものを良く分かっているから、過度の期待はしない方がいいと思う。

伊丹まあ、2輪は振動だろうが鼓動だろうが、全身でそれを受け止めなくてはなりませんし、匂いも音もついてくる。4輪でそれを求める必要はないのかもしれませんね。

趣味としての2輪の痛い現状

岡崎個人的には、2ストの高周波サウンドとか植物オイルの焼ける匂いが好きなんだよ。

伊丹2輪寄りな発言で心強いです。

岡崎そりゃあ、趣味で言えば断然2輪だよ。若い頃、モトクロッサーにずいぶん乗ったし、バイク雑誌はクルマ雑誌の100倍くらいは読みあさった。2輪は趣味の世界にとどまってニッチな進化を遂げてきたけれど、4輪は否応なしに社会を映す鏡の役割を持たされた。だから多面的で複雑なんだけど、2輪はそういう諸々から解放されるから良いよね。

伊丹しかし、ニッチであるがゆえに、わがままになってしまっているライダーが少なくありません。社会性に欠ける面も多く見られます。それに、2輪は少なからずロマンチズムをはらんでいるので、傍から見ているとそれが独りよがりで痛々しく感じることがあります。

岡崎2輪は自分と対峙しながら走るストイックなイメージ。だけど、実際はヘルメットが必要で着るものも限られてくる。街で派手なジャケットを着ている人を多く見かける。センスを間違うと、コスプレ感が漂うのが辛い。

伊丹幸か不幸か、派手なレーシングカラーを着てバイクに乗れば、簡単にソコへ到達するわけです。これは4輪にはあまりない部分ですね。

移動することの進化とそのDNAの違い

岡崎19世紀末、2輪や4輪の創世記は、単に馬に変わる手段を欲しただけに過ぎなかったはず。その出発点は同じなのに、タイヤの数が違うというだけで2輪は趣味性を極めることを、4輪は道具として発達する宿命を背負わされた。これはちょっとした進化論だと思う。人間とチンパンジーのDNAは、ほぼ一緒だと言われてきたけれど、最近では80%以上も違うという説がある。4輪と2輪の似ているようで異質なところは、それに近いのかも知れないな。

伊丹4輪も2輪も著しく進化して来た結果、人間の求める「移動する」という根本の意味が変化して来たのかも知れませんね。

岡崎次は、そのあたりのことを掘り下げていこうよ。


「4輪vs2輪 何が同じで何が違うのか」の続きは本誌で

岡崎五朗・伊丹孝裕 対談
クルマとバイク その歴史と本質を探る
クルマとバイク 今後の進化を考える

2輪と4輪のヘルメットの違い 世良耕太


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