共感とつながり 三浦半島シンドローム~2人の女性の物語

逗子、葉山の先、横須賀の南に位置する三浦半島は、東京湾と相模湾を有する豊かな自然が残る。

都心から1時間半で訪れることができる三浦半島は、クルマやバイクにとって気持ちの良いドライブルートとして今、注目を集めている場所だ。

今年の春に“レジェンドのカフェ”として紹介した野比海岸の「PILOTA MOTO」の他にも、三浦半島にはクルマやバイク好きが集まるカフェが増えてきている。

今回はそんな三浦半島でカフェを営むふたりの女性を紹介したい。


クルマ趣味が受け継がれていく場所
~Revival CAFE 三﨑由湖さん

文・吉田拓生 写真・渕本智信/神谷朋公

 国道134号線と聞くと、多くの人は江の島から鎌倉、葉山へと抜ける海岸線を想像するだろう。だが葉山から先も、南下するかたちで道は続いていく。

 その古びた〝蔵〟は国道134号線沿いとはいえ、南の果てにある。僕がその蔵に気付いたのは、建築作業を目にしたからだった。通り過ぎるたびに少しずつ蘇っていく蔵。ある日、ウッドデッキのようなものが作られているのを見て、妻と「何かお店でもできるのかね」と話したことを覚えている。蔵が「リバイバルカフェ」と銘打って営業をはじめるまでにはずいぶんと時間が掛かった。それでも今日び、店の前の駐車場は必ずと言っていいほど趣味車で溢れている。

 「地元のおじいちゃんの大工さんと、自分たちで作業していたので、オープンするまで2年くらい掛かりました。営業をはじめて半年くらいは、なかなかお客さんが来てくれなかったですね」

 大きな声ではきはきとしゃべる女性は三﨑由湖(ゆみ)さん。リバイバルカフェの店主である。古い蔵をリバイバルして作り上げたカフェ。壁に掛けられたクルマ関連のプレートやお客さんが乗り付けるクルマの趣味性の高さが、カフェの性格を物語っている。

 蔵の1階で飲み物や料理を注文し、蔵の2階のソファーや広々としたデッキで仲間と語らう。取材中も、数人のお客さんに見送られてハコスカが去っていき、かわりに小さな赤いチシタリア(!)がやってきた。すると個々のテーブルに戻っていたお客さんたちが、またワッとチシタリアに集まってくる。

 そんなカフェの様子を定点観測しているだけでも面白いのだが、それよりも興味深いのは「クルマ好きの自分が行きたいと思える場所がない」と感じて、実際にカフェを作ってしまったという三﨑さん自身だろう。駐車場の奥のガレージにある1965年式、トライアンフ・スピットファイアは彼女の愛車だ。

 三﨑さんは東京の生まれ。父親が度々乗り換えるメルセデスやアメ車に触れて育ち、気づけば自身もクルマ好きになっていた。そして10年ほど前からは、友人とヨットに乗るため、度々三浦半島の先端、油壷を訪れていた。ある時、地元のヨット仲間から国道沿いの蔵が取り壊される話を聞いて居ても立ってもいられなくなったという。いつも目の前を通る度に気になっていたのだ。

 「カフェをやるなんて最初は少しも考えていなかったんです。ただ古いものが好きなので蔵がもったいないなあと」

 彼女はいざ蔵つきの土地を買う段になっても、そこで何をするのか、具体的なプランを決めていなかったらしい。

 「当時乗っていたMGBや仲間のクルマ置き場にしようとか色々と考えていて、最後に出てきたのがカフェでした。三浦半島の先端に自分たちが集まれる場所が欲しい、だったら蔵をカフェにしてしまおうと考えたんです」

 三浦半島の先端の地名は三崎という。苗字と同じ地名にも、彼女は運命的なものを感じたという。また以前、東京で美容関係の会社を経営していた経験があり、不動産にも明るかったので、〝ダメになったら国道沿いの土地ならすぐに売れる〟といった読みもあったという。この三崎の地は東京や横浜からの日帰りのドライブにちょうどいい。カフェやレストランも点在しているが、クルマ好きが集まるような場所は少ない。

 「もちろんお客さんはクルマとかバイク好きの方が多いですけど、それだけじゃないんですよ。オープンから14時くらいまでは地元の奥様たちがランチを食べに来てくれる。それ以降の時間が車輪好きの人たちの時間。そうやって決めているわけじゃないけれど、いつの間にかうまい具合にそうなっているんです」

 そう、僕自身もご近所さんであるリバイバルカフェを何度か訪ねているが、クルマ趣味という部分を抜きにしたとしてもココのランチはレベルが高い。スタッフの実家が農家で、そこから仕入れる新鮮な地元野菜も売りのひとつだ。一方クルマ趣味という観点では、リバイバルカフェを訪れる〝愛車〟のバリエーションの多さ、趣味的な間口の広さも、初めて訪ねる際に心強いはずだ。

 「やってくるクルマやバイクの国籍とか年式とか、本当に色々ですね。私は60年代のクルマが好きだし、スタッフには、90年代のネオヒストリック好きもいる。やっぱり週末は混みますけど、平日の方が落ち着いた雰囲気でいいと言ってくれるオジサンたちもたくさんいます。雨の日は古いクルマは減りますが、同じ人が雨を気にしない新しめのクルマで来てくれたりする。女の子ひとりで来てくれる人もいますよ。バイク女子とか」

 幅広い国籍や年式といっても、リバイバルカフェを訪ねてくるクルマやバイクにはある一定の空気感のようなものがあるから面白い。例えばダイナーに屯するようなギラギラのアメ車は来ないし、峠の走り屋的な雰囲気の国産スポーツカーも見かけたことがない。今回の取材の最中にも、家族連れのファミリーカーが駐車場に入ってきたが、お店の雰囲気に違和感を覚えたのか、Uターンして帰っていった。おそらく〝思っていたのと違う空気〟を感じたのだろう。

 「古い欧州車が偉いとかじゃないんです。けれど、そのお店の空気みたいなものは大切じゃないでしょうか。誰もが満足できないからこそ、保たれる空間ってあると思うんです。以前、超高級サルーンがドーンってやってきたことがあったんですけど、その時はウチのお客さんは、そのクルマには近寄っていかなくて、オーナーの方がポツンとしちゃってましたね」

 実際に新しいクルマが入ってくると、すぐにお客さんたちがその人のところに寄っていって会話が始まる。初めての人でもクルマを通じて理解し合える。それは自己紹介をしているようなもの。クルマ好きが溶け込みやすい空気感がリバイバルカフェにはできているのだ。三﨑さんはそれを、お客さんが作るフィルターとか結界と言って笑うが、しかし大元の雰囲気を定義し、プロデュースしているのは彼女自身なのだろう。

 「クルマの簡単なトラブルなんかは、奥のガレージでお客さんと一緒に修理することもあるし、維持の仕方とかモディファイとかでも世代を越えた交流があるんです。ベテランの方たちは『古いクルマは次の世代に受け継いでいくもの』みたいな意識を持っているので、若いオーナーに、これはいいけどこれはダメみたいなセオリーみたいなことをちゃんと伝えてくれている。そういうときはカフェというより学校みたいだなと思うことがありますね」

 ネットではついつい自分が見たいもの、都合のいい偏った情報ばかりを集めてしまう。そんな現代にあって、先輩から直に教えてもらえる場所は貴重だといえる。それはクルマ趣味の文化が受け継がれていくということだ。

 「いつも駐車場が埋まっているので、繁盛してるね、なんて言われますけど、ウチはひとり1台で来てる人が多いので、経営的に楽ではありません。カフェの収入だけに頼ってないからできるというのもあります。儲からなくても、理想的な雰囲気のカフェが出来上がっているからこれでいい! みたいなところが私にはある。そういう考え方って女性だからこそなのでしょう。それと自分が作ったものを遺したいといった母性みたいなものがあるのかもしれません。平日に来てくれるお客さんなんかは経営者も多いから、『これじゃ大変でしょ』なんてコーヒーを2杯3杯と注文してくれたりする。ほんと、ウチはお客さんにも恵まれているんです」

 元々は古びた蔵を再生させたことに由来するリバイバルカフェという店名。だが今そこにあるのは、趣味人たちのリアルな交流や、そこから生まれるクルマやバイク趣味の継承だ。かつては当たり前のように存在した理想的な人と人の関係性をリバイバルさせる場所にもなっている。インターネットでの繋がりが幅を利かせている現代だからこそ求められるアナログな繋がりの場所。そんなカフェが、三浦半島の先端にある。

リバイバルカフェ

〒238-0114 神奈川県三浦市初声町和田2650-3
営業時間は11:00-18:30(ラストオーダー18:00)、毎週日曜日は好天時のみモーニング8:00~10:00をオープン。※季節により変更になります。
定休日:木曜日
営業時間などの情報はホームページや各公式SNSで更新中。
http://www.revivalmiura.com

※撮影のため感染対策に配慮した上でマスクは外しています。

「共感とつながり」の続きは本誌で

観音崎を故郷にしたい
~Two Star 柴﨑美奈子さん 村上智子

クルマ趣味が受け継がれていく場所
~Revival CAFE 三﨑由湖さん 吉田拓生

片岡義男という繋がり 松崎祐子

クルマとバイクとSNS 横田和彦


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