YAMAHA MT-09の孤高感

文・伊丹孝裕 写真・渕本智信/神谷朋公

 

RIDER:SEI KAMIO / ARAI HELMET:HYOD PRODUCTS:JAPEX (GAERNE)

ヤマハが送り出すバイクには、工業デザインを手掛けるGK(現GKダイナミックス)が深く関与してきた。

 その創設者である栄久庵えくあん憲司氏には、機械には人が触れたくなるうるおいがなければならないという信念があり、人機一体の感覚をモノのカタチを介して追及。いつの頃からか定着した「ハンドリングのヤマハ」、「コーナリングのヤマハ」といった無形の性能をスマートなデザインで表現し、それがヤマハらしさの一端として継承されてきた。

 ヤマハはまた、時代の一歩先をいくことも忘れていない。思えばそれは、同社初の市販車YA-1(’55年)から始まっている。当時は黒一辺倒の外装が当たり前だった時代にも関わらず、YA-1のそれを淡いマルーンとアイボリーで包み、燃料タンクには七宝焼きのエンブレムを貼付。その上質さは他と一線を画しただけでなく、レースに出れば上位を独占するなど、機能美と先進性を兼ね備えた稀有なモデルだった。

 それらをひっくるめると新しい価値の創造と言ってもいい。後のDT-1、RZ250、セロー225、SRX600、SDR、TW200、TDR250、V-MAX……といったモデルもそうだったように、常にそれまでにない世界をライダーへ提供してきた。短命に終わったモデルもあるが、いずれも強い記憶を残している。

 近年では、’14年にデビューしたMT-09がそれにあたる。スーパーモタードとスポーツネイキッドをミックスした新ジャンルへの挑戦と、GX750(’76年)以来の並列3気筒という時代の回帰を両立。スタイル、エンジンフィーリング、プロモーションのいずれもがおよそ日本のメーカーらしからぬ刺激に満ちたものだった。
 MT-09は高出力を誇るわけでも、高回転に頼るわけでもなく、リニアなトルクレスポンスが優先された。その発想は’80年代半ばまでさかのぼり、不等間隔爆発の並列2気筒でパリ・ダカールラリーを制したYZE750T(’91年)や、その技術を転用したTRX850(’95年)で後に表面化した。当時はトラクションという言葉に置き換えられていたものの、自由自在に操れるトルクにこそ、人機一体のカギがある。そこにMT-09が再び光を当てたのだ。ヤマハのモトGPマシンYZR-M1や、それに最も近い市販車YZF-R1が採用するクロスプレーン型クランクシャフトも、同様の思想の上に成り立っている。

 先頃、そんなMT-‌09にフルモデルチェンジが施された。排気量のアップによってトルクはより強大になり、車重のダウンによって俊敏さも大きく向上。当然、スロットルを捻れば軽やかにダッシュし、コーナーでは美しい軌跡を描くことができる。とりわけ、上位グレードのMT-‌09SPはそれが顕著で、ごくシンプルに「バイクって楽しい」と思える時間をもたらしてくれる。奇をてらったように見えるスタイルとは裏腹に、1台のスポーツバイクとして極めて高いレベルにあるのがMT-09/SPというモデルだ。

MT-09とMT-09SPはフレームやエンジンなどの基本設計は同じだが、細かい仕様が異なっている。MT-09SPのフロントフォークは、ゴールドでフルアジャスタブル仕様となり、リヤはオーリンズ製。クルーズコントロールも装備している。

 おそらくこれをオーセンティックなデザインで包めば、さらなるヒットが見込めるのは間違いないが、ヤマハはむしろ先鋭化させた。定番のファッションよりもアバンギャルドであることを、約束された旅よりも未知なるアドベンチャーを。そうやって攻めの姿勢を貫いたところにヤマハの矜持が見て取れる。MT-‌09/SPに漂うのは孤高感であり、それを手にするライダーもまた確固たる自分を作り上げている。

MT-09 ABS/MT-09 SP ABS

1,100,000円 〈1,265,000円〉〈 〉内はMT-09SP
エンジン型式:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列3気筒
総排気量:888cc
最大出力:88kW(120PS)/10,000rpm
最大トルク:93Nm(9.5kgm)/7,000rpm
シート高:825㎜ 車重:189kg<190kg>
※黒ホイールの大きな写真はMT-09、青ホイールの各部カットはSP


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