クルマの趣味をやめたい続けたい! 対談:岡崎五朗 VS 神谷朋公

なんでもグーグルで答えを導いてしまう昨今、「車趣味」と検索入力すると、候補に「やめる」とか「飽きた」などのワードが出てきてしまう。

生活に根付き、人も荷物も天候に関係なく自由に移動できるクルマは、趣味というより文化や社会に近いのではないだろうか。逆にバイクは元々生活とは切り離れているから趣味になるのか。

クルマやバイクが好きで”趣味にする”ということは何なのか、改めて考えてみる。


対談:岡崎五朗 VS 神谷朋公

まとめ・まるも亜希子

検索予測のクルマ趣味やめたい

神谷最近発見したんですけどグーグルで「車趣味」と打ち込むと、「車趣味やめたい」「クルマ趣味飽きた」といった変換予測が出るのをご存知ですか。確かに“クルマ趣味”っていう言い方は、少し古いイメージがあるなって気がしますが…。元々が趣味であるバイクは20代を中心にコミュニケーションツールとして新しい文化になっていったなという気がします。クルマは社会性が高いせいかそういう新しさを感じ難い。そこで今回は、クルマを社会的な視点から語れる五朗さんに意見を聞きながら、クルマ趣味について話したいと思ったんです。

五朗僕はクルマを趣味だと思ったことは一度もないんだよね。こないだ、北海道でモデル3を買った人が3ヶ月で壊れて、修理をしてもらうのに横浜のサービスセンターまで行かなきゃならなくて、引き取りはするけど受け取りは勝手にやってくれ、もし陸送するなら20万円かかりますと言われた、という話を聞いて腹が立ったんだ。でもそれはテスラだから腹が立つんであって、もしジネッタみたいに明らかな趣味としてのクルマだったら、まったく問題はないと思う。趣味ってそういうもんだよね。何かを潔く切り捨てる、諦めるというのが必要だからね。

神谷五朗さんは、自分の生活を犠牲にする範疇にクルマは入れないということですね。

五朗そう。趣味だったら努力をイヤだと思わないだろうし、違う言い方をすればそれだけの“愛”があることが趣味。僕はそこまでできないかな。

神谷まぁ、多くの人がそうかもしれませんね。でも昔はクルマ趣味に対して努力を厭わない人が多かったように思います。自分で洗車したり、ジャッキアップして潜ったり、手を汚すことを楽しむみたいな。そういう趣味人はいなくなってしまうのですかね。

五朗いや、下げ止まるんじゃないかな。ただ今の時代にクルマを趣味として楽しむには、あまりにもハードルが高いことが多すぎるよね。僕は趣味にするならバイク。最初から諦めてることばかりだし、自分でカスタムパーツ買ってきてつけたりするのも手軽にできるじゃない。だから、ケーターハムみたいなクルマに興味がないんだ。クルマに剥き出し感は求めないし、あれに乗るんだったらバイク乗った方が早いじゃんと思ってしまう。クルマは実用性とまでは言わないけど、生活の一部だよね。食事とか泊まるホテルとか、着る服を選ぶような感じかな。

神谷だとすると、どうやったら良い洋服を選べるのか、良いホテルを選べるのか、と言うところを聞きたいです。

デザインで変わるクルマの趣味性

五朗まずデザインだよね。テスラはモデルSが一気に広がるきっかけとなったわけだけど、もしモデルSが初代ミライみたいなデザインだったら、絶対にこんなに売れてないからね。そしてもし、初代ミライがモデルSのようなデザインだったら、絶対にもっと売れてたよ。

神谷確かにそう思います。それは考えてなかったです。

五朗エコを論じる前に、まずは見てカッコいいかどうか。乗りたいと思わせられるかどうかなんだよね。それをテスラは分かってたんだと思う。今までにない新しさに惹かれてしまう人間の性が大きく影響していると思う。

神谷イメージは大事ですよね。フランス車に乗る人も、その世界観に惹かれて乗ってる人が多いように思います。テスラはヨーロッパにない新しいシリコンバレーのITっぽいイメージを創ったという感じです。

五朗フォルクスワーゲンのビートルは、ドイツのヒットラーが発案したクルマだけど、西海岸のサーファーにバカ受けして、世界的な人気モデルになったよね。そこにはもう、ルーツとかイデオロギーとか関係ないわけで、あのカタチを見て純粋なラブが生じたってことだと思うんだ。

神谷チンクエチェントもそうですよね。イタリアのおしゃれで元気な魅力に惹かれたり、ルパンの世界に憧れたりして乗ってる人が多い。

五朗そう。チンクエチェントもミニも、世界的に大ヒットしたクルマたちがなぜ売れたかって、誰も「走りが良かったから売れた」なんて思ってないでしょう。

神谷やっぱりカタチやファッション性、ブランドイメージが売れる理由だ。そういう意味では、ああいうインパクトのある新しいデザインの提案をすれば、またクルマのムーブメントというのは起こるでしょうか?

五朗起こるね。そこは日本メーカーが最も不得手とするところなんだけどね。

神谷日本のメーカーも色々とチャレンジはしてるように見えるんですけど。

五朗チャレンジはしてるけど、なんか垢抜けない。たぶん、新しい文化を生み出すとか、新しい価値を提案するとか、そういう意識があんまりなくて、もうちょっとこうした方が売れるとか、他社にないものを取り入れるとか、マーケティング的な感じ。

神谷リスクを取れないということでしょうか。そういう意識を持つ人はいても、社内では忖度が働いてしまうというか。

五朗もちろん日本のメーカーの中に僕と同じ考えの人がいないとは思ってないけど、組織になると引っ張られるところがあるんだろうね。

忖度から生まれる日本のクルマ文化

神谷ある工業デザイナーの人が言ってたんですけど、日本車は上司の顔色を伺っているようなデザインをしてるねって。

五朗そう。そこはデザイナーのセンスとか手腕ではなくて、プロダクトを生み出す企業としての姿勢とか、過程がデザインとして出てるということじゃないかな。しかし一方で、ぶっちゃけトヨタってダサい感じがするじゃない。例えばヤリスクロスのシートを見ると、どこかモモヒキ的だったりする。それでも売れちゃうわけ。地方に行くと、「誰が買うんだろう」と思うような洋服屋があるのと同じ。このダサさって計算ずくなのかなと思ってしまう。結局それが日本の文化なのかもしれない。

神谷それと地方に住んでると自分の好きなクルマに乗りにくい環境があると思います。東京から地方に移住した知人がロータスに乗ってたら、「フェラーリに乗ってイキがってる」みたいな悪い噂がたったとか。周りと違うもの、目立つものがあると叩かれてしまう。

五朗そうなるとこれは、自動車だけの話ではなく、日本全体の話になってくるよね。

神谷その中で勇気を持って好きなクルマに乗ろうと、ずっと言い続けてきたけれど、僕たちは今後なにをすれば良いと思いますか。

五朗地方の人たちも、東京の文化とか海外の文化とかを否定しているわけじゃない。鳥取に初めてスターバックスができた時に、長い行列ができたっていうニュースもあったし、憧れはあるということでしょう。ただクルマというものが、そういったジャンルとは別物として捉えられているということ。まずそこの認識が必要だよね。

神谷地方の食堂とスタバは明らかに違うから分かりやすい。クルマは軽自動車もロータスも同じくくりだから難しい。

五朗ただね、地方の人が通勤用に使う軽自動車だって、スタバ的な香りがあるとイイよね、っていうノリがもう少し浸透すれば、日本のクルマもカッコよくなると思う。そういう意味で今すごく期待しているのがプジョー。とくに208なんだけど、テレビ番組のユーザー投票で1位になったんだ。テレビを見る人はクルマに趣味性とかを求めない人たちが多いのに、208が選ばれたということは、クルマに実用性だけじゃなく、プラスαのもの、例えばどうせ着るならカッコいい服がいいよねとか、せっかくコーヒーを飲みに行くならなら居心地のいいカフェがいいよね、っていう感覚の入が増えてきたっていうこと。

神谷ライトユーザーというかライトマニアというか、そういう感覚の人たちが今、プジョーに意識を向けてきたということは変化ですね。

マイルドヤンキーからの脱却

五朗もしクルマを道具として見るんだったら、アルトとハイエースくらいがあればいいわけじゃない。なぜこの世にこんなにたくさんのクルマがあるのかというと、もっと自分の個性とか価値観とか趣味を反映させるためなんだよね。

神谷プジョーを求める変化は、クルマも少しずつ他のものごとと繋がってきた、ということですよね。僕はバイクの世界はSNSによって進化したと思っているんです。いろんな場所に行けるから「インスタ映え」とかバイクのためにあるようなものだし。アウトドアと同じでライフスタイルと近づいてきてるんじゃないかなって。そういう時代の変化の感じ方で、昔からのクルマ・マニアと呼ばれる人たちがちょっと孤立して見えるのかもしれないですね。

五朗ただ、クルマの時代との繋がり方というか、方向性がちょっと怪しくて、デイズが丸いハンドルを採用したんだよ。日産はそれまで底がカットされたDシェイプのハンドルだったから、「やっと丸くなりましたね。この方が操作感が良いですよ」って言ったら、そうじゃなくて、「丸いハンドルじゃないとハンドルカバーがつけられないっていうクレームがあったんですよ」って。ええっ、そういうことってビックリしたんだ。ミッキーの柄のカバーとか、そういうヤツでしょ。

神谷マイルドヤンキーに対応したということですか。クルマ趣味って突き詰めていくと、マイルドヤンキー的な感じにたどり着くんですよね。バイクは暴走族とか、旧車会からうまく抜け出せて、別なものという認識が増えてきたけど、クルマはまだそこがボリュームゾーンなのかな。

五朗そう。だからカー用品店にいくと目を覆うばかり。クルマ好きの人にクルマにまつわるものをプレゼントしようと思うと、何を買っていいのか分からないっていう、その事実が悲しいよね。日産とかトヨタとかメーカーロゴが入ってるのもどうかと思うし。

神谷例えそれがフェラーリだったとしてもオシャレな人だなって、正直に言って思い難いです。

五朗クルマが趣味と言えないって言うのは、まさにそこだね。でも今度、トヨタの工場で働く人たちの制服が変わるらしいんだ。どう変わるのかは見てみないとなんとも言えないけど、服が変わるというのがまず最初の一歩だよね。

神谷確かに。やっぱり作り手が変わらない限りクルマは変わらないし、売り手が変わらなければ乗り手も変わらない。何かが始まる気がしますね。

五朗みんながそういう一歩を進めてみれば、もう受け皿はあると思うんだよね。

神谷あとは今、盲目的に400万500万出して新車を買っている人の半分が、先のプジョーとかに変えたとしたら日本はちょっと素敵になりますね。

五朗そうそう、素敵になると思う。あともうちょっとで、大きいボールがゴロンと転がりそうな気配はあるんだ。

神谷でも転がった時に、間違った方向に転がらないように、オトナがちゃんとカッコいいクルマに乗ることが大事。

五朗そうだね。これはマツダのデザイナーの前田さんもずっと言ってることだけど、大人がカッコいいクルマに乗ってる姿を見て、若い人たちもそれに憧れるんだから、まずは大人たちがカッコいいクルマを楽しまないといけないんだって。

神谷それは簡単なことではないけれど、マツダのクルマは乗ると自然と襟が正されるというか、ダラッとして乗ってられないなと思わせますよね。

五朗1人1人がそういう気持ちを持って、しっかりクルマを選び、楽しむということかな。

神谷それがきっと、今の時代にクルマを趣味にするということですね。

ファイナルエディション(2019年)

車両本体価格:4,530,600円(2019年当時)(LONG クリーンディーゼル車、税込)
エンジン:DOHC 16バルブ・4気筒
インタークーラーターボチャージャー付
総排気量:3,200cc
最高出力:140kW(190ps)/3,500rpm
最大トルク:441Nm(45.0kgm)/2,000rpm

「クルマの趣味をやめたい続けたい!」の続きは本誌で

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