三菱自動車には「世界初を目指すんだ」という気概が満ちあふれているというが、思いだけに終わらず実際、世界初の技術を数多く実用化している。これまでに三菱が世に送り出してきた「世界初」を振り返ってみよう。
1980年代はエンジンの高出力化開発が盛んだった。「ターボ」や「DOHC」「4バルブ」といった技術が広く一般化してエンジンの性能を高めると同時に、これらの技術用語が商品力を高めるのにひと役買った。そんななか、’84年に三菱が世界で初めて実用化したのは、「3×2バルブシステム」だった。「3×2」は「スリー・バイ・ツー」と読んだ。
運転状況に応じてバルブの開角や位相を制御するバルブタイミング機構は現在では一般的だが、3×2バルブシステムは、吸気バルブ2本と排気バルブ1本の3バルブを2ステージで作動させる点で画期的だった。3バルブの「3」と2ステージの「2」を掛け合わせて3×2というわけである。
極論すれば、エンジンの性能はシリンダーに吸い込む空気の量と、その空気をどううまく燃料と混ぜるかで決まる。そのためには回転数に応じて空気の流れを制御したい。空気の流れが弱い低回転域では、細い吸気ポートから混合気を吸入してスワール(横渦)を発生させ、燃焼効率を向上させたい。また、吸い込んだ空気が逆流するのを防ぐため、吸気バルブは早く閉じたい。
一方、高回転域では空気をたくさん吸い込むために吸気ポートを太くし、質量による慣性を利用してたくさん空気を入れるため吸気バルブは遅めに閉じたい。ところが困ったことに、高回転域にバルブタイミングを合わせると、高出力は得られても、低回転域で燃焼が不安定になってしまう。
低回転域の高トルクと低燃費、そして高回転域での高出力を両立する技術が3×2バルブシステムなのだ。2本ある吸気バルブのうち、低回転域ではバルブ径が小さく早く閉じるプライマリー吸気バルブしか開かないよう油圧システムで制御。約2,500rpmを超える中高回転域ではバルブ径が大きく、閉じタイミングが遅いセカンダリーバルブも併用して吸入混合気量を増大させる。
1984 シリウスダッシュ 3×2エンジン
このシステムを2ℓ直4に組み合わせた「2000シリウスダッシュ3×2インタークーラー付きECIエンジン」は、ギャランΣ(シグマ)、エテルナΣ、スタリオンに追加搭載され、高出力なのに低速域も扱いやすい「従来の常識を超える」ハイパワーFF車として発売された。従来のシリウスインタークーラーターボエンジンの最高出力/最大トルクが175ps/25.0kg・mだったのに対し、ダッシュ3×2は200ps/28.5kg・mを発生したのである。
スタリオン
ギャランΣ
前述のように、エンジンの性能はシリンダーに吸い込める空気の量で決まる。たくさん空気を吸い込むには、吸気バルブの面積を大きくすればいい。窓を大きく開ければ、たくさん空気が入るのと同じだ。この考えを実行に移したのが、’89年に市販4輪車として世界で初めて実用化したDOHC5バルブエンジンである。吸気バルブ2、排気バルブ2の4バルブの上をいく、吸気バルブ3、排気バルブ2の5バルブだ。吸気バルブの数を増やしてバルブ開口面積を増やすと同時に、個々のバルブが軽くなるため高回転化を可能にした。
三菱はDOHC5バルブを3G81型660cc3気筒インタークーラー付きターボエンジンに組み合わせ、’89年1月にモデルチェンジして6代目に移行した軽自動車ミニカのスポーツ仕様、ダンガンZZに搭載。最高出力は自主規制値上限の64psに達し、ハイパワーKカーの先頭を走った。
高回転高出力化を狙った5バルブ化は80年代後半のレースシーンでもトレンドとなっていた。ヤマハは’87年のF3000用3ℓ・V8エンジンに5バルブを採用(後にF1エンジンにも適用した)。フェラーリは’90年の3.5ℓV12エンジンに5バルブを採用している。三菱はレースのトップカテゴリーで用いる最先端の技術を、乗用車系のスポーツモデルではなく、軽自動車に投入したのである。常識外れの発想がまた三菱らしい。
1989 ミニカ_3G81型 5バルブエンジン
ミニカ ダンガンZZ
MEMO
レーシングシーンで活躍した5バルブエンジン