私の油冷エンジン物語 VOL.8(最終回)最後は油冷と暮らしたい

文・ 神尾 成

初代GSX-R750から始まったスズキの油冷エンジンは、今年の春で発売から36年になる。

 GSX-Rシリーズは、レプリカブームを牽引した立役者であり、「ヨシムラ」の活躍と相まって、発売直後から油冷は高性能の代名詞となった。しかし表舞台でのレース活動は7年に過ぎず、実際にタイトルを争ったのは5シーズンでしかない。スポットが当たる時間は短かったが、多くの人に油冷は強い印象を残したのではないだろうか。

 その当時、ひょんなことから18インチのGSX-R1100を手に入れた。空冷を乗り継いでいたので、エンジンの冷却フィンやオイルクーラーに親近感を覚えたからだ。しかし実際に乗ってみると、それまでの750カタナとは桁違いのポテンシャルに驚かされた。高速巡航中でもギアを落とせば体重移動することなくウイリーに持ち込めるし、少し引っ張れば3速で200㎞/hを超える。また「モーターサイクリスト」誌主催のゼロヨン大会では、マフラーを換えてキャブのセッティングを合わせただけで10秒台を連発。別次元のパフォーマンスに時代が変わったことを実感した。油冷は全てのバイクを置き去りにして、カタナやニンジャを過去の産物にしたのである。

 それから数年が経ち、第一線を退いた油冷エンジンはGSF1200に搭載されるなど、スズキ製ネイキッドの定番ユニットになっていった。実はその頃に勤めていたバイク屋でイナズマ1200を改造したカタナの試作に携わったことがある。完成した〝1200カタナ〟は、予想以上に好評を博し、GSX1400ベースのカタナもラインアップするに至った。もしこれらが油冷ではなく水冷だったとしたら、それほど受け入れてもらえなかったはずだ。仮に空冷で製作できたとしてもコンプリート車としての存在意義に欠ける。油冷エンジン+カタナデザインというスズキの名作の融合だからこそ〝油冷カタナ〟という存在を認めてもらえたのだろう。

 時に日本車は個性が乏しいと言われるが、ハーレーのVツインやBMWのフラットツインと同様に、油冷はスズキのアイデンティティであり、その独自性から所有することに誇りを持つことができる。それに加えてスバルの水平対向やホンダのVTECのように、メーカーのこだわりや技術者の意志を感じられるエンジンでもあるのだ。こうして振り返ると、よほど油冷に縁があったのか、グース350やモタード仕様にしたDR250Rを含めて6台の油冷機が我が家へやってきた。ここに来てバイク人生の最後に理想の〝カタチ〟を作りたいと密かに企んでいるのだが、やはりその際は油冷エンジンの車両を選びたい。


SUZUKI イナズマ 1200

エンジン:油冷4サイクル16バルブDOHC4気筒
排気量:1,156cc
最高出力:100PS/8,500rpm
最大トルク:10kgm/4,500rpm

SUZUKI グース 350

エンジン:油冷4サイクル4バルブOHC単気筒
排気量:348cc
最高出力:33PS/8,000rpm
最大トルク:3.3kgm/6,500rpm

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