モタスポ見聞録 Vol.28 マン島TTを撮影する

文・山下 剛

マン島TTへ行ってきた。今年は雨がとても多く、走行予定時刻が近づきコースサイドで待機していると「キャンセル!」とマーシャルが大声をあげ、観客はザワザワ&とぼとぼと帰る。

 そんなことが毎日繰り返された。初めのうちこそ中止宣言が出るタイミングが早かったが、レースウィークが中盤をすぎると「1時間順延」、「30分順延」、「1時間順延」と来た後で「やっぱムリ、中止!」となることも多く、主催者はかなり疲労困憊したことだろう。

 結局、ほとんどはラップ数を半減しての開催となったもののすべての決勝レースを終わらせることができた。2012年にはシニアTT決勝レースが中止になったことを考えれば、今年は上々といえるのかもしれない。

 さて、そんなマン島TTは世界一過酷で危険なレースといわれる。公道を300㎞/hで走るのだから当然だ。マン島TTを追ったドキュメンタリー映画のタイトルは「Closer to the Edge」で、2歳児レベルの英語力で和訳すると「限界ギリギリ」といったところか。ライディングスキルと生命の限界を走るライダーを指しているわけだが、彼らを撮影するカメラマンたちもわりと限界ギリギリだ。

 200km/h以上で走るバイクから1mも離れていない場所でカメラを構えてシャッターを切るし、タイトコーナーのインサイドのグリーンに入り込むし、そのためにレース中にコースを横断したりもする。もっともこれはコースマーシャルが許可したときのみで、しかも特定の場所だけだ。
 今年もそうしようと思い、マーシャルのリーダーに「1周目はアウト側、2周目はイン側で撮りたいからコース横断させてくれ」と言うと「ダメだ」との返答。「なぜだ。前はできたぞ」とゴネると、どうやら2~3年前、カメラマンがレース中にコース横断する様子を観客が動画撮影、それをSNSで公開したところ炎上したとかで禁止にしたという。それ以来コース横断はレースとレースの合間のみ許可しているそうなのだ。

 SNSはロクなもんじゃないな! とグチってみたものの、レース中にコース横断できるほうが正気の沙汰じゃないわけで、いくら見通しがよくてマーシャルが安全確認しているといっても、カメラマンがコース上でつまずいて転倒したりカメラを落としたりしたら即赤旗、最悪はライダーもカメラマンも死ぬ。それを考えれば禁止になったことは当然なのだが、マン島TTらしさがひとつ失われてしまったな、と感じたのも確かだったりする。

 そんなマン島TTは1周60km。走行中に複数ポイントを巡って撮影するにはバイクが最適だ。コース直前に停められるし、渋滞もすり抜けられる。私の他にもバイクで走り回るカメラマンは何人かいる。今年はホンダからCB500Xを借りて2週間あまり走らせた。いやはや、このバイクのエンジンは実に素晴らしい。CB72/77直系の名車になりそうだし、中間排気量2気筒エンジンはもっと評価されるべきと考えさせられた。その話はまたいつかどこかで。

Takeshi Yamashita

1970年生まれ。東京都出身。新聞社写真部アルバイト、編集プロダクションを経てネコ・パブリッシングに入社。BMW BIKES、クラブマン編集部などで経験を積む。2011年マン島TT取材のために会社を辞め、現在はフリーランスライター&カメラマン。ライフワークとしてマン島やパイクスピークの取材を続けている。

定期購読はFujisanで