モタスポ見聞録 Vol.25 海外モータースポーツ取材の裏側

文・世良耕太

筆者はF1やWEC、フォーミュラE、ときにIMSAの取材で海外に行く。そんな生活が20年以上続いている。

 インターネットが普及していなかった時代は旅行代理店に航空券や宿の手配を頼んでいた。その頃の苦労話だけで1本の原稿になるが、紙幅が限られているので今回は端折はしょる。電話やファックスに頼らず、ネットで旅の手配ができるだけでもだいぶ楽になった。空港から宿への移動は紙の地図に頼っていたが、最近はスマホのアプリを利用する。ヨーロッパが目的地の場合は現地に夕方~夜に着くのが常で、暗い車内で紙地図を頼りに、知らない(あるいはうろ覚え)街の初めて泊まる宿を探し当てるのは、至難のワザだった。

 その前にもっと重要な手続きがある。取材パスの申し込みだ。これも現在は電子申請で行うが、これもうまくいかないことが多い。F1の場合、グランプリのスケジュールが始まる木曜日の1ヵ月前が取材パス申請の締め切りだ。開幕戦オーストラリアGP(3月17日決勝)を例にとると、締め切りは2月14日である。だから、だいぶ余裕をもって予定を立て、準備する必要がある。

 申請にあたっては、過去に自分が書いた記事のコピー(PDFにして送信する)に加え、媒体責任者のレターを提出する必要がある。「当媒体から○○というジャーナリストを現地に派遣します。当該GPで取材した内容を含む記事は○年○日発売号に掲載します」というような内容のレターを用意し、媒体責任者に署名してもらい、これをPDFにして電子申請のページから送信する。一連の手続きが完了すると、「申請は受理した」旨の自動返信メールがくる。でもこの段階では「取材パスが発給される」保証はない。「厳正な審査の結果、○○という媒体の○○に取材パスを発給することを認めます」とするコンファメーションレターが送られてきてはじめて、取材が認められたことになる。このレターを持たずに現地に行っても、無駄足に終わる。

 実績のある媒体から申請すればまず拒否されることはないのだが、出発を翌週に控えても返事が来ないと、やきもきする。しびれを切らして「どうなっているんですか?」と問い合わせると、「申請に必要な書類に不備があるから保留になっている」と返事が来たりする。「それ、もっと早く知らせてよぉ」と言ってもはじまらず、ごり押しして一件落着に持ち込んだ例が1回や2回ではない。

 そうしてコンファメーションレターを手に現地に到着しても、まだ安心はできない。サーキットの近くにアクレディテーションセンターという場所があり、ここでコンファメーションレターと引き換えに取材パスを受け取る手はずになっているのだが、レターを差し出すと何やらゴソゴソやった挙げ句、「あなたのパス、ないわよ」と言われたことが、これも1回や2回ではない。パスがなければ、サーキットに入れないし、取材にならない。

 これ、海外モータースポーツ取材をかじったことのある人なら思い当たるフシのある「あるある」である。

Kota Sera

ライター&エディター。レースだけでなく、テクノロジー、マーケティング、旅の視点でF1を観察。技術と開発に携わるエンジニアに着目し、モータースポーツとクルマも俯瞰する。

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