プレミアムブランドにまで派生したクリーンディーゼル

ここ1年で日本で購入できる欧州ブランドのディーゼル車の選択肢は飛躍的に増えた。

 一度は死んだ日本のディーゼル乗用車市場を復活させた立役者はメルセデス・ベンツにBMW、そしてマツダ。そもそも欧州と日本では排気ガス規制が違うが、現行のポスト新長期規制(日本)とユーロ6(欧州)は、かなり近いので少変更で輸入できる。ドイツ勢は先行的にユーロ6対応ユニットを開発していたため早めの日本導入が叶ったが、その他の欧州勢は規制の施行に合わせた。ボルボが第3の欧州ディーゼル車導入となったが2015年7月まで待たされたわけだ。

 ユーロ6対応車なら少変更で輸入できるとはいっても、ドイツ勢ほど販売台数があるわけでもないインポーターにとってはリスクもあって踏み切るには勇気が必要だっただろうが、先行車のディーゼル人気が本物だったので背中を押されたかっこうだ。ボルボに続いたのはBMWアルピナ、ジャガー、マセラティ、プジョー、シトロエン、DS。販売台数はメルセデス・ベンツがE320CDIを導入した2006年は1,000台以下だったが2010年には約1万台、BMWとマツダが参入した2012年は約4万台、2015年は15万台オーバーと順調に伸びてきている。

 ここにきてブランドや車種によってディーゼル車の立ち位置が微妙に分かれてきたが、これもユーロ6が影響している。排気ガスはガソリン車とほぼ同等のクリーンさを持たされているため、ユーロ5よりもコストが高く、小型車やノンプレミアムブランドでは成立しづらくなっているのだ。フィアットやルノー、プジョー、シトロエン、フォードなどが小型ガソリン・エンジンに力を入れているのはそのためだ。だから、これらのブランドがラインアップするディーゼル車はプレミアムな贅沢品という趣がある。プジョー308 BlueHDi GTなどはその筆頭で、車格に対して望外なパフォーマンスが与えられ、ちょっと高価でも満足度が高いものとなっている。

 これが高額車になると逆転現象が起きる。例えばメルセデス・ベンツのフラッグシップ、Sクラスではディーゼル・ハイブリッドがもっとも安いベーシックモデルだ。プレミアムな贅沢品としてこれまではメルセデスAMGや12気筒ガソリン車などが用意されていたが、新たな存在としてPHEV(プラグイン・ハイブリッド)を用意し始めた。他のドイツ勢も高額車は同様の戦略だ。PHEVは今のところ低燃費による経済的メリットでは車両価格増大分を埋めることができないが、高級感や未来感、環境イメージを武器に、まずは余裕がある人に乗ってもらおうという考えだろう。

 ジャガーFペイスもガソリン車がパフォーマンスの高いモデルしか用意していないということもあるが、ベーシックモデルはディーゼル。マセラティ・ギブリのディーゼルはガソリン車より高価なものの差は少ない。全体的な傾向としては、スタンダードブランドだったり小型車などではディーゼルは高級品で、ハイブランドの大型車のディーゼルはベーシックな存在となる。規制のことだけではなく、大きく重いモデルではディーゼルの優位性が光るということもあるのだろう。以前は「ウチのブランドにはディーゼルは合わない」と抵抗しているかにみえたポルシェ(日本未導入)やジャガー、マセラティなどがSUVモデルを中心にディーゼル車を投入したのは、ガソリン車だとCO2排出量がえらいことになってしまうという理由もあったからだ。

 いずれにせよ、伸び率がすごいとはいえ日本のディーゼル乗用車の普及率はまだ低いので軽油が安いというのは大きなメリットだ。中長期的に見ると話は別だが、もうしばらくの間、ディーゼル乗用車は賢い選択肢であり続けるだろう。

文・石井昌道


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