GLOBAL

写真・長谷川徹

これまで世界的な規模のことをインターナショナルと呼んでいたが、
最近ではグローバルという言葉の方が多く聞かれるようになってきた。


インターナショナルは、国と国の結び付きやその国の特色に合わせた展開を慮っているのに対して、グローバルは、世界全体をひとつとして考えるときによく使われている。世界統一サービスを掲げるアップルやグーグルなどのIT系企業がそれを牽引してきたのだ。

日本はアメリカや欧州とは違うと日本の事情ばかりを主張していては置いてきぼりにされる時代になっている。特に日本のクルマ事情は独自性が強く特殊な国と呼ばれて久しい。

今、世界的な流れであるグローバルと日本のクルマの関係を考えてみたい。


グローバルな時代のクルマの個性

 骨格はマツダ・ロードスター。ボディのスタイリングはフィアット・アバルトが独自に造形。インテリアはロードスター用に軽くアレンジを加えたもの。エンジンはアバルト595にも搭載されるフィアット・パワートレイン・テクノロジーズ製で、トランスミッションはマツダ製。サスペンション周りはアバルト独自のチューニングが施されたセットアップ。ざっくり説明するとそういう成り立ちのアバルト124スパイダーの出来映えは、軽く衝撃を受けるほど素晴らしかった。ベースになったマツダ・ロードスターは、もちろん素晴らしいスポーツカーだ。しなやかでコントローラブルで、爽やかで気持ちいい。だがアバルト124は、よりダイナミックでより刺激がきつく、ドーパミンがブシャーッと噴出してくる感じだ。どちらがいいかは好みの問題だけど、124はマツダとは明らかに違うキャラターで、ハッキリと昔ながらのアバルトっぽい印象だ。

MAZDA ROADSTER S
車両本体価格:2,494,800円(税込)
総排気量:1,496cc 最高出力:96kW(131ps)/7,000rpm
最大トルク:150Nm(15.3kgm)/4,800rpm

ABARTH 124 SPIDER
車両本体価格:3,888,000円(6MT、税込)
総排気量:1,368cc 最高出力:125kW(170ps)/5,500rpm
最大トルク:250Nm(25.5kgm)/2,500rpm

 同じことが新しいルノー・トゥインゴとダイムラーのスマート・フォーフォーについてもいえる。同じプラットフォームと同じエンジンを持ちながら、エクステリアとインテリアのデザインの違いでハッキリと個性が分かれているし、サスペンションのセッティングの違いなどで、トゥインゴに乗ればしなやかさに「ああ、やっぱりフランス車なんだなぁ」と感じさせられ、スマートに乗ればカッチリ感に「ああ、やっぱりドイツ車なんだなぁ」と感じさせられる。

 日本に上陸したばかりのアストンマーティンDB11に与えられたインフォティメントシステムは、ぶっちゃけ、メルセデス・ベンツの仕組みそのものなのだが、その機能性と使いやすさは世界屈指のひとつ。アストンの〝らしさ〟の形成に大きく役立っている。
 メディアというのは概して流行り言葉を使いたがるものだが、近頃よく聞く言葉に〝アライアンス〟というのがある。少し前なら〝コラボレーション〟といわれることが多かったようだが、〝アライアンス〟の方がどことなくIQが高そうに思えるのかも知れない。

Mercedes-Benz E400 4MATIC EXCLUSIVE
車両本体価格:9,880,000円(税込)
総排気量:3,497cc 最高出力:245kW(333ps)/5,250-6,000rpm
最大トルク:480Nm(48,9kgm)/1,200-4,000rpm

Aston Martin DB11
車両本体価格:23,800,000円(税込)
総排気量:5.2ℓ 最高出力:608ps/6,500rpm
最大トルク:700Nm/1,500-5,000rpm

 いずれにせよ、自動車に関してこれらの言葉があてがわれている場合には、大抵はメーカーAとメーカーBが何らかのカタチで協力し合ってクルマを開発するというような協業関係を意味している。

 が、似たようなことは昔から行われていた。コンポーネンツの貸し借りみたいなことは大戦前から行われていたし、自動車メーカーのグループ化が明確になったり資本提携が活発化してからは、よくも悪くもさらに進んだ。日本ではいすゞジェミニだったクルマの顔つきやエンジンなどが異なるモデルが、ドイツではオペル・カデット、イギリスではヴォグゾール・シェヴェットとして販売されたりもした。例を並べるとキリはないが、細部は異なるけど中身は一緒というのを揶揄する〝バッヂ・エンジニアリング〟という言葉すら存在していたくらいだ。もちろんそれらは開発コストを抑え、売価も抑えるための施策。けれど近頃では単にそれだけではなく、互いに持ち合わせている技術を融通し合い、自社のクルマの個性をさらに伸ばす方向に役立てるための〝アライアンス〟が目立ってきてるように思えるのだ。その成功例が先述のクルマ達なのである。

 マニアの中には自動車メーカーの純血性にこだわる人もおられるが、それはもうとっくに存在しないも同然だ。であれば、同じモノを使いながら異なるモノを作り上げ、ブランドとしてのオリジナリティを守り続けることができるようになった〝今〟を喜ぶべきだろう。おかげで僕達は、伝統を継承した新しい個性に触れることができるわけだし、今後もその方向でいいカタチで進んでいくことが予想できるからだ。僕は賛成派、である。自動車メーカーも、厳しい情勢の中、頑張ってくれてるのだ。

文・嶋田智之

smart forfour
車両本体価格:2,130,000円(パッション、税込)2,340,000円(プライム、税込)
総排気量:998cc 最高出力:52kW(71ps)/6,000rpm
最大トルク:91Nm(9.3kgm)/2,850rpm

RENAULT TWINGO
車両本体価格:1,890,000円(インテンス、税込)
総排気量:897cc 最高出力:66kW(90ps)/5,500rpm
最大トルク:135Nm(13.8kgm)/2,500rpm

「特集 GLOBAL」の続きは本誌で

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グローバルな時代のクルマの個性 嶋田智之
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