新たなるオーセンティック YAMAHA XSR900

ここ数年ヤマハは、20年…いや30年先を見据え〝YAMAHA〟というブランドの骨格をアップデートしていた。

 そしてその作業を終え、新たな幹から伸びる枝葉に、早くも実をつけ始めたようだ。「XSR900」の国内販売を受け、そう強く感じた。

 ロングセラーモデルを数多く抱えるヤマハは、さまざまな最新技術を組み合わせることで、それらのモデルの環境性能や安全性能を高め、バージョンアップを図ってきた。それによって販売地域を広げ、同時に世界中のライダーたちの脳裏や感覚にヤマハモデルのDNAを刻み続けてきたのだ。

 しかし、今は好セールスを続けているものの〝その日〟はいずれやって来る。そのとき老体に鞭を打ち、最新パーツを組み合わせて〝在りし日〟の面影にすがりながら進むべきか、DNAを受け継ぐ新たなスタンダードモデルを構築するべきかは、大いに悩むところだろう。しかしヤマハは、後者を敢行した。それが〝MTシリーズ〟であると、僕は考えている。

 スタンダードモデルとは、なにもレトロなデザインを纏っている必要はない。コンセプトが明確で、それがあらゆる角度から見て貫かれていれば良いのだ。ヤマハのMTシリーズはさまざまな気筒数、そして排気量をラインアップしながら〝マスターオブ・トルク〟という横串でズバッと貫かれている。見事なまでに研ぎ澄まされたその横串を貫くには周到な準備と、変化にともなう痛みに耐える心積りがないと到底成し得ない。ヤマハが考える未来には、その痛みに耐えるだけの価値がある、いや耐えなければならないほどの変革が必要だったのではないだろうか。

 XSR900は、そうやって手に入れた新しい土台の上に乗ったプロダクトだ。ネオレトロと呼ばれるデザインは、旧車から最新スポーツバイクまで、あらゆるバイクシーンの中に溶け込み、なおかつ、ベースモデルのMT-‌09よりも先に装備されたトラクションコントロールやアシスト&スリッパークラッチはライダーたちをサポートし、バイクに乗る楽しさや操る面白さを際立たせる。XSR900となら旧車に乗る手練れの親父たちのなかに飛び込み、ともに走りながらコアなバイクファンでしか味わえない世界を、なんの違和感も無しに垣間見ることだってできるのだ。

 XSR900は単なる懐古趣味のバイクではない。それに気付くことができたライダーは、XSR900と共に新たな世界を手に入れるだろう。

文・河野正士 写真・長谷川徹

ヤマハ・インターカラーとは何か

一般的に多くのモーターサイクルメーカーには象徴的なカラーやグラフィックがあり、概ね統一されたイメージとして浸透しているが、ことヤマハに関してはその限りではなく、もっと自由だった。時代や国、カテゴリーによってレッドやブルー、イエローと様々。そのため、「ヤマハのイメージカラーは?」と聞いても相手の年齢や嗜好によって返答が異なるのが面白い。

ただし、とりわけ鮮烈な印象を残しているカラーはと言えば、これはもうイエローとブラック、ホワイトで彩られた通称「インターカラー」に他ならない。誕生のきっかけは70年代初頭のアメリカだ。当時のヤマハは製品PRのために積極的にレースに参戦。リザルトを残すことはもちろん、より一層目立たせようと鮮やかなコントラストを模索するうちに生まれた。

その名はレースを運営していた当時のアメリカ現地法人「ヤマハ・インターナショナル・コーポレーション」に由来し、そのカラーを纏ったケニー・ロバーツがほどなくロードレースとダートトラックで全米チャンピオンを獲得。スーパークロスやモトクロスでもボブ・ハンナを筆頭とするヒーローを生み出したことから、瞬く間にスピードの象徴として広まった。黒いラインにスリットを入れ、それがチェーンのように見えるパターンもこの時に考えられたもので、以来ヤマハのアイデンティティとして定着。創立60周年を迎えた同社モデルの多くが記念カラーとして採用し、XSR900にも継承されている。(伊丹孝裕)

XSR900は、所有欲を満足させることにもこだわっている。ライトステーやフロントフェンダーステー、シート下のサイドパネルなどは、単にアルミを使用しているだけでなく、
質感を重視して手間の掛かる立体的な切削加工を施す。またタンクカバーやサイドパネルのボルトは、純正部品とは思えないほどの芸術的なセンスの物が使用される。
XSR900 60th Anniversary
車両本体価格:1,074,600円(税込)
総排気量:845cc 最高出力:81kW(110ps)/9,000rpm
最大トルク:88Nm(9.0kgm)/8,500rpm
*受注期間は2016年9月末日まで。

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