岡崎五朗のクルマでいきたい vol.77 僕のCOTY配点

 今年も日本カーオブザイヤー(COTY)の季節がやってきた。1次選考で選出された10台のクルマ(10ベスト)を対象に最終選考を行い、12月7日に今年のイヤーカーが決まる。

 いまこの原稿を書いている時点でどのクルマが頂点に輝くのかは、神のみぞ知るである。ただし、僕はついさっき投票を終えた。ここでは配点と、その理由を書いていくことにしたい。

 採点ルールはシンプルだ。①持ち点は25点。②もっとも高く評価した1台に最高点の10点を与える。③残りの15点を4台に配分する(ただし9点以下)。

 僕がもっとも高く評価したのはスズキ・アルト/アルト・ラパン。次にマツダ・ロードスター(7点)、テスラ・モデルS(5点)、ホンダS660(2点)、ジャガーXE(1点)とした。アルト10点の理由は明快で、優れた経済性という軽自動車の本質をとことん追求しつつ、デザインや走りといったクルマの本質的魅力にも妥協せずに取り組んできたこと。軽自動車はいまや日本の乗用車市場の40%を占めるが、軽の本質とかけ離れた、重くて高くて燃費の悪いスーパーハイト系が多く売れている。そんな状況に一石を投じる存在としてアルト/アルト・ラパンは非常に重要であり、応援したいと考えた。

 ロードスターはあらゆる意味で理想的なライトウェイトスポーツに仕上がっている。見ても乗ってもワクワクするスポーツカーが日本から出てきたことを誇りに思う。また、いまのマツダの勢いを象徴的に示す存在としても間違いなく後生に語り継がれていくだろう。そういう意味では10点を与えてもなんら不思議のないクルマだが、2人乗りのスポーツカーという特殊性ゆえ次点とした。モデルSはEVの可能性を強く示唆するとともに、既存の自動車メーカー以外でも優秀なハードウェアを作り上げられることを見事に証明してみせた点を評価。S660はあまりに実用性が低いものの楽しさだけでいけばロードスターに負けていない。ジャガーXEはその素晴らしいハードウェアに対して。

 果たしてイヤーカーはどのクルマになるのだろうか。www.jcoty.orgにて詳細が発表されているはずだ。


SUZUKI ESCUDO
スズキ エスクード

ボディはひと回りコンパクト オンロード主体の新型SUV

 新型エスクードが登場、と書くと普通はフルモデルチェンジしたことを意味するのだが、今回はちょっと話が複雑で、従来モデルの「エスクード2.4」が継続販売されている。

 新型エスクードは1.6ℓ直4エンジンを横置きした全長4,175㎜のコンパクトSUV。一方、しぶとく生き残った先代は2.4ℓ直4を積み、ボディサイズも新型よりひとまわり大きい。とはいえエンジンを縦置きするため室内スペースに大差はなく、価格も約5万円高いだけ。であれば、どうしてわざわざ旧型を残したのか?

 答えは「キャラクターの違い」にある。先代はラダーフレームをビルトインした強固なシャシーに、副変速機と直結4WDを備えたかなり本格的なオフロードモデル。それに対し新型のボディは軽量なモノコック式で、副変速機や直結モードはなし。最低地上高も先代より15㎜低い185㎜にとどまる。つまり、オンロード主体で使う人のために開発されたのが新型であり、それでは物足りないと考える人のために先代を残したというわけだ。

 走りはじめて最初に感じるのは軽さ。車重が400㎏以上軽くなったため、1.6ℓエンジンでも思いのほか軽快に走る。自然吸気だから低回転域のトルクはさほど太くはないが、3,500rpm以上まで回していくと、気持ちのいいサウンドとともにトルクの厚みが増し、〝スポーティー〟という表現を十分に使えるだけの加速を演じてくれる。フットワークも同様で、街中からワインディングロードにいたる幅広いシーンにおいて、いい意味でSUVらしからぬ切れ味を楽しめる。

 一方、「オールグリップ」と呼ばれる高度な電子制御4WDシステムによって一般ユーザーが遭遇するレベルの悪路走破性能はしっかり確保した。オンロード性能とオフロード性能のバランスポイントはライバルのホンダ・ヴェゼルより上。注目すべき実力派コンパクトSUVとして要注目だ。

パワートレインは1.6ℓエンジンと新開発6速ATを採用。欧州で徹底して走り込み、しっかりとした安定感のある足回りとスムーズなハンドリングを手に入れた。ボディは取り回しの良いサイズに抑えながら、室内は長時間の運転でも疲れにくいゆとりある前席空間を確保。5人乗車時でも、荷室容量は375ℓと十分な積載力で、街乗りからアウトドアまで幅広く対応できるモデルとなっている。

スズキ エスクード

車両本体価格:2,343,600円(4WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,175×1,775×1,610
車両重量:1,210kg 定員:5人 エンジン:水冷4サイクル直列4気筒
総排気量:1,586cc 最高出力:86kW(117ps)/6,000rpm
最大トルク:151Nm(15.4kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:17.4km/ℓ 駆動方式:フルタイム4WD

MERCEDES BENZ S300h
メルセデス・ベンツ S300h

1,000万円を切るSクラスは日本初のディーゼルハイブリッド

 メルセデス・ベンツのSクラスと言えば、世界でもっとも有名な高級車だ。僕自身、Sクラスを高く評価しているし、尊敬もしている。けれど、じゃあ自分で買うかと問われたら答えに窮するのも事実。自らステアリングを握る人は、スポーティーとかパーソナル感とかカジュアル感とか、そういう要素を求めるものであり、そこが7シリーズやA8の存在意義でもある。

 ところが、新しく加わったS300hによってSクラスに対する印象が変わった。こいつは他人事ではなく自分事として考えることのできた、初めてのSクラスかもしれない。1,000万円を切る価格も理由のひとつだが、それ以上に効いているのが新パワートレーンだ。S300hが積むのは、乗用車としては日本初となるディーゼルハイブリッド。たった2.1ℓ、しかも直列4気筒という小さなディーゼルターボエンジンにモーターを組み合わせることで、20.7km/ℓ(JC08モード燃費)という驚きの低燃費を実現した。しかも燃料は軽油だから、ランニングコストの安さは驚異的だ。

 もちろん、Sクラスを買うような人にとって燃料代の多寡はさほど大きな問題にはならないだろう。が、素敵なのは、小さなディーゼルエンジンとモーターの組み合わせが生みだすカジュアル感とインテリジェンスが、Sクラスのもつ権威主義的な香りをいい具合に中和している点だ。

 動力性能は必要にして十分。静粛性に関しても、Sクラスに求められる水準をキッチリとクリアしている。V6、V8、V12と比べれば加速はマイルドだし静粛性も劣るが、だからといって不満を覚えるほどではない。

 これほど「油抜き」されたSクラスは従来なかった。言い換えれば、S300hにはSクラスのユーザー層を大幅に拡げる可能性が秘められているということだ。事実、数年後に中古の値段がこなれてきたら愛車として迎えるのも悪くないかも、と思った。

クリーンディーゼルハイブリッドモデルであるS300hは大型高級セダンながら、コンパクトカー並みの燃費経済性能を誇る。日本国内での大型高級セダンの年間販売台数において、Sクラスは約半数のシェアを持つというが、メルセデス・ベンツによると、ボディタイプとパワートレーンの豊富さが支持の理由。11月にはさらにプラグインハイブリッドモデルの追加も発表された。

メルセデス・ベンツ S300h

車両本体価格:9,980,000円(S300h、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,630
車両重量:2,080kg 定員:5人
エンジン: DOHC直列4気筒ターボチャージャー付
総排気量:2,142cc
【エンジン】
最高出力:150kW(204ps)/3,800rpm
最大トルク:500Nm(51.0kgm)/1,600-1,800rpm
【ハイブリッドモジュール】
出力:20kW(27ps) トルク:250Nm(25.5kgm)
JC08モード燃費:20.7km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

AUDI TT
アウディ TT

日常を犠牲にしないスポーツカーのある生活

 アウディTTは、いま手に入るスポーツカーのなかでもっとも魅力的な一台だ。スポーツカーとしての本格度でいけばミッドシップのポルシェ・ケイマンには及ばない。それでいて価格は決して安くはない。ではなぜ推すのか? 理由はいろいろあるが、煎じ詰めれば「スポーツカーのある生活」を、もっとも無理なく、かつ色濃く楽しめる一台に仕上がっているからだ。

 ’98年に衝撃的なデビューを飾ったアウディTTは、とりわけデザイン面で高く評価された。2代目、そして3代目となる新型のデザインも初代の延長線上にある。フラッシュサーフェイス化やプレスラインの精緻度など、時代に合わせた進化はしているが、基本的なフォルムに変化はない。にもかかわらず、いまだ個性において他の追随を許さないのは、初代のデザインがいかに独創的だったかを物語っている。一方、もはや初代とは別物と言えるほど大きな進化を遂げたのが走りだ。

 アウディは新型TTで「リアルスポーツの走り」を目指したという。プラットフォームの完全刷新とアルミ多用による軽量化は、間違いなく走行性能を大幅に引き上げた。サーキットを連続全開走行するようなケースではブレーキの耐フェード性能に物足りなさを感じたものの、それを除けばスピードも操縦安定性もかなりのレベル。とくに高性能グレードであるTTSの走りはかなり本格的だ。

 冒頭で書いたように、実用性と引き替えに魂を揺さぶるような走りを得たケイマンにはさすがに及ばない。が、TTには小さいながらも後席があり、ラゲッジスペースにはゴルフバッグが難なく2個収まる。そう、これほどスタイリッシュで、かつこれほど走りがいいのに、生活に無理なく採り入れることができるのがTTの魅力である。バーチャル・コックピットと呼ばれる未来的な液晶メーターを眺めつつ走り出せば、そこには素敵な非日常が待っている。

フルモデルチェンジは9年ぶり。外観は、初代のコンセプトに近い水平基調のデザインにエッジを効かせ、よりスポーツ性が強調されている。シングルフレームグリルもより強い印象の形になり、これまでグリル内に納まっていたアウディの4つのリングは、グリル上のボンネットに配された。写真の「バーチャルコックピット」は、12.3インチのディスプレイに回転計や速度計だけでなく、ナビ画面が大きく映し出されインパクト大。

アウディ TT

車両本体価格:5,890,000円(TT Coupe 2.0 TFSI quattro/4WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,180×1,830×1,380
車両重量:1,370kg 定員:4人
エンジン:直列4気筒DOHCインタークーラー付ターボチャージャー
総排気量:1,984cc 最高出力:169kW(230ps)/4,500-6,200rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1,600-4,300rpm
JC08モード燃費:14.7km/ℓ 駆動方式:フルタイム4WD

JAGUAR XE
ジャガー XE

ドイツ勢に負けない魅力 渾身の新生スポーツサルーン

 BMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラス、アウディA4といった強豪ひしめくセグメントに参入するジャガーのニューフェイスがXEだ。面白いのは、かつて同じ狙いで投入したXタイプを失敗作だったとジャガー自ら潔く認めていること。Xタイプはフォード・モンデオをベースにクラシックジャガー風のデザインを与えたモデルだったが、ファンの心を掴むことはできなかった。Xタイプの失敗を通して、彼らは、いくらジャガー風のデザインであっても、中身が大衆車ではファンは納得してくれないことを学んだのだろう。XEを開発するにあたって、ジャガーは本格的なFRプラットフォームを新規に開発してきた。プラットフォーム開発には莫大な資金がかかるだけに、ジャガーの生産規模からすればかなりのギャンブルである。

 そうして登場した一球入魂のモデルではあるものの、最初に見たときはピンとこなかった。綺麗な形はしているのだが、あまりにプレーンすぎて特徴に欠けるなと思ったのだ。しかし、何度か見るうちに次第に印象が変わり、いまではお世辞抜きでこのクラスのベストルッキングカーだとすら思っている。数年後にはきっともっと惹かれているのだろう。論理的な説明はできないけれど、イギリス車のデザインはいつだってタイムレスだ。

 エンジンは2種類の出力バリエーションをもつ2ℓ直4ターボと3ℓV6ターボ。3ℓV6ターボの速さと洗練度はそうとう魅力的だが、769万円という価格を考えるとインテリアの質感に不満が残る。その点、バランスが取れているのは低出力仕様の2ℓ直4ターボだ。低出力とはいえ200ps/320Nmというスペックに不足はないし、500万円を切る価格も魅力的。何より、やや硬めだがスッキリした乗り心地と、どこまでも素直に曲がるハンドリングがたまらなく心地いい。間違いなく、ドイツ勢とがっぷり四つの勝負ができる実力の持ち主である。

Fタイプと同じく、エンジンからシャーシまでプラットフォームを一から開発。ボディ構造の75%以上にアルミ部材を採用しており、軽量で高剛性に仕上げている。剛性は従来モデルのXFに比べ約20%アップしたという。エクステリアは、止まっている時でも躍動感のあるイメージをもとにデザイン。またエントリーグレードであっても、アダプティブクルーズコントロールやエマージェンシーブレーキといった先進の安全装備を標準搭載している。

ジャガー XE

車両本体価格:4,770,000円
(XE PURE 2.0リッター i4 200PS ターボチャージド ガソリンエンジン、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,680×1,850×1,415
車両重量:1,600kg 定員:4人
エンジン:2.0リッター i4 200PS ターボチャージド ガソリンエンジン
総排気量:1,998cc 最高出力:147kW(200ps)/5,500rpm
最大トルク:320Nm/1,750-4,000rpm
JC08モード燃費:11.8km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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