ULTIMATE JAPAN アルティメイト ジャパン

 1989年、平成元年に日本のクルマは世界の頂点に登りつめた。日本のビンテージイヤーと呼ばれたこの年は、GT-Rが復活し、ロードスターが発売され、セルシオ=アメリカ名レクサスが世界の高級車に衝撃を与えたのだ。

 F1においても前年の16戦15勝に続きマクラーレン・ホンダが二桁勝利を収めた年で6連覇のさなかにあたる。

 あれから四半世紀以上たった今、日本のクルマはどのように進化したのか。そして現代の日本の究極のクルマたちは今も世界と渡り合っているのだろうか。

MADE IN JAPANにこだわらない世代

 朝起きてから夜寝るまでに一番触れる時間が多い物はなに?と聞かれたらiPhoneと答えるだろう。今の時代、携帯電話が無くては生きていけないと言っても過言ではない。2015年現在のスマートフォンの国内シェアにおいてアメリカ製のiPhoneが約60%を占めている。改めて自分の身の回りの物を見てみると日本製の物、海外製の物が混在していることが分かった。この原稿を書いているパソコンも普段乗っているクルマも、そしてバイクも海外の製品だ。

 しかし日本では、年齢層が高くなるにつれ「Made in Japan」にこだわる人が増え、逆に低くなればなるほど、その傾向が減っていくように思う。ある特定の年代より上の方々は「日本のモノは壊れない、外国のモノは壊れる」、「外国のモノは見た目が良いだけの贅沢品」といったイメージを持っていて、外国製品にトラブルが発生した時などは「自分は正しくて機械が間違っている。」と決めつけてしまっていることが多い。

 日本は戦後23年目にしてGDP世界2位の座まで登り詰め、それから42年間にわたりその地位を守り抜いた。クルマや家電、身の回りのありとあらゆるモノが時代と共に豊かになっていったと聞く。それから数十年経った今、日本の産業は息詰まり「不景気」という単語を耳にすることが多くなった。誰もが先の見えない将来に不安を抱きながら生活する世の中になってしまったのだ。それが理由かは分からないが、日本の輝いていたあの時代を忘れたくない、忘れられないという気持ちが「日本製品へのこだわり」という形で出ているのかもしれない。

 しかし僕たちの世代は生まれた時には既にモノが溢れ、電子機器をはじめゲームやアニメなどのサブカルチャーが世界的なレベルで認められている現代の日本しか知らない。昔の若い人は、海外の音楽や映画などに影響を受けてアメリカやヨーロッパに興味を持ち、日本から海外に赴くパターンが多かったようだが、今では世界の名だたるセレブ達が原宿や秋葉原といった日本独自の文化に興味をもって向こうからやってくる時代になっている。いつしか日本は流行の後追いではなく、流行を発信する立場の国になっていたのだ。だから自分たち世代は、海外に関心を向ける必要がなくコンプレックスも抱いていない。自分が良いと思う製品と、そうでない製品には国の名前など関係ないのだ。それこそ製品にトラブルが発生したとしても「日本の機械は壊れない」という先入観が無いので、第三者の視点で解決の糸口を探していく、それが自分たちの世代の特徴なのかもしれない。個人差はあるが、僕の周りの友人を見ても海外旅行に行きたがる人が少ない印象を受ける。その理由としては、何でも揃う日本の豊かさやインターネットの普及、自分たち世代の面倒なことを避ける消極さが影響しているように思える。ネットを検索すれば外国に興味を持たせてくれる内容もあるが、反対に不安を煽る内容の情報も多くあふれているから、興味に対する熱もすぐに冷めてしまって検索するだけで満足してしまうケースが多い。簡単に情報が手に入ることで踏み出す勇気が持てなくなっているのだ。

 日本が今後どのような方向へ進むのかは分からない。モノ造りにおいても、品質や信頼性をさらに追求して日本らしさで勝負するのか、あるいはサブカルチャーなどの要素を取り入れて新しいコンテンツを生み出すのか、これからの行く末を左右するのは自分たちの世代であることは間違いないだろう。しかし一番大事なことは自分と異なる価値観であっても最初から否定せずに理解しようとする姿勢だと思う。大人には新しい文化を許容する心のゆとりを持ってほしいし、自分たち世代はこれまで続いてきた「Made in Japan」のプライドを忘れずに継承する責任があることを自覚する必要がある。いつかこのふたつが綺麗に合わさった時、人の心を動かす誰もが想像の出来ないような日本のモノづくりが完成するような気がするのだ。

文・岡崎心太朗 / 写真・長谷川徹

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