岡崎五朗のクルマでいきたい vol.72 車内放置の厳罰化

 毎年毎年、この季節になると、炎天下の車内に放置された子供が熱中症で死亡する痛ましい事故が起こる。

 たいていはパチンコ屋の駐車場だが、スーパーやファミレスの駐車場でも起きている。事件の度にテレビや新聞で報道されるのに、なぜかこの種の事故は後を絶たない。汚い言葉を使って申し訳ないが、言わせてもらう。バカ親たちはきっとニュースなんてものには興味がないのだろう。

 こういう不幸な事件を二度と起こさないためにはいったいどうしたらいいのか? 車内放置の危険性を広く知らせる……なんて生ぬるい対策じゃあ効果は期待できない。いま求められているのは子供の車内放置の厳罰化だ。たとえば車内に子供を放置したら罰金30万円とかいうように、飲酒運転並みの罰則を科すようにすれば、さすがのバカ親も気をつけるようになるはずだ。

 何もそこまでしなくても……と思う人もいるだろうが、車内放置による犠牲者が後を絶たない現状を考えると、そのぐらい厳しい態度で臨むべきだ。事実、アメリカでは子供の放置は立派な犯罪。それどころか、ペットの犬だって放置しただけで逮捕されることがある。もし人間が死んだら殺人罪に問われる可能性すらあるのだ。事実、アメリカ在住の日本人の母親が7歳の子供を連れて大型スーパーに買い物に行き、クルマに戻った際、店に忘れ物をしたことに気づき、子供を車内に残したままクルマから離れたところを通行人が発見。警察に通報し、その母親は児童放置容疑で警察の取調べを受けた挙げ句、子供は1ヵ月間、指定の里親に預けられ、親との面会も制限されたという事例が起きている。

 アメリカでは犬でも厳しく罰せられるのに、日本では人間の子供を車内に置き去りにするだけでは罪に問われない。放置の結果、子供が亡くなってはじめて「保護責任者遺棄致死罪」が適用されるだけ。これっておかしくないか?

 子供の車内放置を厳罰化し、その上で周囲の大人たちが車内放置されている子供を見かけたらすぐに警察に通報する……。このぐらい徹底した態度で臨まなければ、また同じ悲劇が繰り返されるだけだ。


NISSAN X-TRAIL HYBRID
日産 エクストレイル・ハイブリッド

他車種への応用も期待 日産量販系ハイブリッド

 エクストレイルにハイブリッドモデルが加わった。これは日産にとってもユーザーにとっても朗報だ。EV推しというゴーン構想のあおりを受け、日産のハイブリッド開発は遅れをとっていた。フーガとスカイラインという高級FRセダンにこそ1モーター2クラッチ式のハイブリッドを用意していたものの、量販が期待できるFF系ではハイブリッドの選択肢はなし。唯一、セレナにはハイブリッドがあったものの、あれは燃費低減効果のほとんどないなんちゃってハイブリッド。そういう意味で、FR系と同じ1モーター2クラッチ式のハイブリッドシステムを横置きエンジン用に適応させたエクストレイルのハイブリッドは、今後日産の量販車にも応用できるシステムであり、大いに期待が持てる。

 ハイブリッド用バッテリーはトヨタが好んで使うニッケル水素ではなく、よりエネルギー密度の高いリチウムイオン。しかし、ハイブリッドを前提に設計しているトヨタと比べると、搭載スペースの確保には苦労したようだ。エクストレイルはバッテリーをラゲッジルーム下に搭載しているため、荷室面が若干上げ底になっている。ただしそれでも十二分なスペースを確保しているから、3列7人乗り仕様を選べないことを除けば実用面でのデメリットはさほど大きくない。「タフギア」というコンセプトのもと撥水シートは引き継いでいるが、ハイブリッド用の高電圧系が荷室の真下にあるため、荷室フロアはガソリン車のビニール敷きからカーペット敷きになった。「濡れたものを置く程度なら問題ないが、ホースでジャブジャブ洗うのは避けていただきたい」との理由からだ。

 走りは悪くない。クラッチの断続はスムーズだし、CVTとの連携も上々。ハリアーハイブリッドと比べて大幅に価格が安いのも魅力だ。ただしCX|5のディーゼルと比べると実用域での力感は薄い。できればディーゼルという選択肢も用意して欲しいところだ。

駆動と発電を一つのモーターで行い、二つのクラッチでモーターとエンジンを切り離す独自のハイブリッドシステムを採用。2リッターエンジン搭載ながら、2.5リッター凌ぐトルクを発生し、常に余裕のある走りを可能にした。燃費は2WDで20.6㎞/ℓ(JC08モード)を達成。また、エマージェンシーブレーキ(自動ブレーキ)を標準装備している。

日産 エクストレイル・ハイブリッド

車両本体価格:3,011,040円
(20X HYBRID“エマージェンシーブレーキ パッケージ”/4WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,640×1,820×1,715
車両重量:1,630kg 定員:5人
エンジン:DOHC筒内直接燃料噴射直列4気筒
総排気量:1,997cc
【エンジン】最高出力:108kW(147ps)/6,000rpm
最大トルク:207Nm(21.1kgm)/4,400rpm
【モーター】最高出力:30kW(41ps)
最大トルク:160Nm(16.3kgm)
JC08モード燃費:20.0km/ℓ 駆動方式:4WD

SUBARU CROSSOVER7
スバル クロスオーバー7

走りのいい7シーター エクシーガの後継SUV

 読んで字のごとし。クロスオーバー7のコンセプトは、ミニバンとSUVとステーションワゴンの要素をクロスオーバーさせた7人乗りモデルだ。エクシーガに、SUVテイストを加えることでスタイリッシュに仕上げたモデルと言い換えてもいいだろう。ベースモデルとなったエクシーガは生産を終え今後はクロスオーバー7のみが販売される。

 2008年に登場したエクシーガは、抜群に走りのいい7シーターだった。といってもそれはスポーツカー的な走りのよさではなく、コンセプトにとことん忠実な走りという意味。高速道路での安心感あふれる直進安定性はロングドライブ時の疲労を最小化。山岳路ではフロントのスムーズな入りとリアのしっかりした粘りが、ドライバーだけでなく乗員に余計な負担をかけない。そして、ドライバーさえその気になれば、高い安心感を保ったままかなりのペースでワインディングを走りきってみせる。7人乗りとはいえども走りには決して妥協しない、というスバルのスタンスを生みだした素晴らしい個性である。

 クロスオーバー7は、エクシーガのそんな持ち味を100%継承している。フットワークの仕上がりは荒れた路面ではバネ下のバタ付きがちょっと気になったが、それを除けば、動力性能を含め、舌の肥えたユーザーでも走りに不満を感じることはないだろう。国産7シーターという括りで評価すれば、ホンダ・ジェイドとともに先頭を走る存在だ。

 決してスタイリッシュとは言えなかったデザインが改善されたのも朗報。基本的なフォルムは変わっていないが、新しい顔とSUVテイストは、従来よりも多くのファンを獲得するに違いない。背の高いミニバンと比べれば3列目シートは狭いが、大人でも1時間程度なら無理なく乗り込める。7人乗りの多用途性と走りのよさを高レベルで両立したクルマを探しているなら、クロスオーバー7は候補車リストに入れておくべき存在だ。

30代から60代までの、人生をアクティブに楽しむ層をターゲットした都市型SUV。立体駐車場に対応可能な全幅とするなど、街中での取り回しやすさを考えたサイズ感となっている。インテリアは、タン色をベースに艶の高いブラックを組み合わせ、スポーティかつ上質な雰囲気を演出。グレードは1種類のみで、Eye Sightが標準装備されている。

スバル クロスオーバー7

車両本体価格:2,754,000円(2.5i Eye Sight、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,780×1,800×1,670
車両重量:1,620kg 定員:7人
エンジン:水平対向4気筒2.5ℓDOHC16バルブAVCS
総排気量:2,498cc
最高出力:127kW(173ps)/5,600rpm
最大トルク:235Nm(24.0kgm)/4,100rpm
JC08モード燃費:13.2km/ℓ 駆動方式:AWD

BMW M3 SEDAN
BMW M3 セダン

ダウンサイジングで直6復活&ターボ初搭載

 “M”を冠したBMWは、いつだって僕のアイドルだった。僕にかぎらず、ほとんどのクルマ好きは、Mが目の前を通るたびに羨望の眼差しをおくるだろう。「駆け抜ける歓び」を標榜するBMWのなかでも、とりわけドライビングプレジャーにこだわり抜いたMは、ある意味、ポルシェやフェラーリと並び称される路上のヒーローである。

 新型M3は、M3としては初めてターボエンジンを搭載してきた。加えて注目すべきなのがBMWのブランドアイコンである直列6気筒エンジンの復活だ。先代は出力を稼ぐべくV8化されたが、この種のスポーツモデルですら燃費が無視できない時代になり、M3もダウンサイジングを実行してきた。往年のM3ファンにしてみれば、ターボ化はネガティブ要素、ストレート6の復活はポジティブ要素となるが、果たしてそのドライブフィールはどうなのか?

 結論から言えば、新型M3のドライビングプレジャーはV8を搭載していた先代はもちろん、直6自然吸気だった先々代をも大幅に上回る。ターボ化すれば当然出力、トルクともに大幅に向上するわけだが、燃料の一粒一粒がシリンダー内で燃焼するのが手に取るようにわかるリアル感やレスポンスなどは低下するのが普通。しかし「自然吸気に近いフィーリングを追求した」というこの直6ターボには、ターボエンジン特有の全体的にフィルターを一枚被せたような印象が一切ない。右足のつま先と後輪が直結しているかのようなダイレクト感、鋭い吹け上がり、乾いたサウンドがもたらすのは、紛う事なき究極のドライビングプレジャーだ。もちろん、徹底した軽量化を施したボディや締め上げたサスペンションが生みだす痛快なフットワークもM3の魅力。個人的にはキャビンの大きいデザインをちょっと好きになれないのだが、2ドアでもいいなら、同じ性能で抜群にスタイリッシュなM4という選択肢もある。

先代モデルを約40%も上回る550Nm(56.1kgm)という最大トルクは、広い回転域で発揮されるため、アクセルを踏んだ直後から高回転域まで力強い加速とレスポンスが得られる。ボディやサスペンションの大部分でCFRP(炭素繊維強化プラスチック)や軽量アルミニウムを採用。ルーフ部分のCFRP採用はM3としては初で、軽量化と同時に重心を下げ、高い運動性能を実現した。

BMW M3 セダン

車両本体価格:11,040,000円(税込)
全長×全幅×全高(mm):4,685×1,875×1,430
車両重量:1,640kg 定員:5人
エンジン:直列6気筒3L Mツインパワー・ターボ 総排気量:2,979cc
最高出力:317kW(431ps)/5,500~7,300rpm
最大トルク:550Nm(56.1kgm)/1,850~5,500rpm
JC08モード燃費:12.2km/ℓ 駆動方式:後輪駆動

MINI JOHN COOLER WORKS
MINI ジョン・クーパー・ワークス

MINI史上、最速 231psのFFスポーツ

 3代目となったミニにジョン・クーパー・ワークス(JCW)が加わった。ジョン・クーパーと言えば、クラシックミニをカリカリにチューニングし、モータースポーツで数々の勝利を獲得した名チューナーの名前。いつしかミニ=ミニクーパーと勘違いされるほどのメジャーネームになったわけだが、その神髄はやはり高性能にある。

 従来、ミニには1・2ℓ3気筒102psの「ワン」、1・5ℓ3気筒136psの「クーパー」、2ℓ4気筒192psの「クーパーS」という3つのモデルが用意されていたが、JCWはクーパーSのエンジンをさらに231psまでチューニングした本気度満点の特別なモデル。内外装や足回りにも多くのJCW専用パーツを数多く奢った。価格もスペックもアウディS1(410万円、231ps)と真正面からぶつかる設定だ。

 ユニークだが外連味のない外観が特徴のミニだが、JCWはかなり厳つい顔つき。僕としてはフロントバンパー下のデザイン処理には少々違和感を覚えたが、このぐらいの特別感はあってもいいとは思う。

 ひと昔前までのFF車は、パワーをこなせるのはせいぜい200psまでと言われていた。200psを超えると加速時の強烈なトルクステアや、そもそもパワーを路面に伝えきれないトラクション不足など、じゃじゃ馬を乗りこなすようなテクニックが要求されたものである。しかし、DTC、EDLC、DSC、DDCといった、ちょっと覚えきれないほど多彩な電子制御デバイスを満載したJCWは、常に安定した挙動を保ったまま強烈なパワーを確実に路面に伝えてみせる。しかも、いかにもデバイスが介入しましたよというわざとらしさがなく、すべて黒子に徹しているのが、リアルなドライビングプレジャーをもたらしている。ミニという当代きってのプレミアムコンパクトと一級品のFFスポーツ。この二つを同時に味わいたい人はJCWに要注目だ。

新開発の2リッター4気筒エンジンは、「バブルトロニック」「高精度ダイレクト・インジェクション」「MINIツインパワー・ターボ・テクノロジー」などの技術の採用により、エンジンのパフォーマンスをMINI史上最強に高めた。先代と比べ最高出力は約10%向上、0-100㎞/hの加速は従来より0.6秒早まり6.1秒を達成している。トランスミッションは6速MTと6速ATを用意、中でもAT車は、燃費が約25%と大幅に向上した。(新欧州サイクル)

MINI ジョン・クーパー・ワークス

車両本体価格:3,980,000円(MT、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,874×1,727×1,414
車両重量:1,295kg
エンジン:2.0ℓ直列4気筒MINIツインパワー・ターボ
総排気量:1,998cc
最高出力:170kW(231ps)/5,000rpm
最大トルク:320Nm/1,250rpm 駆動方式:前輪駆動

文・岡崎五朗

Goro Okazaki

1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイト『Carview』などで活躍中。現在、テレビ神奈川にて自動車情報番組 『クルマでいこう!』に出演中。

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